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第89位『20世紀冒険小説読本』井家上隆幸

膨大な情報量を纏って読む者を震撼させる圧巻の〝世界冒険小説史〟

【内容】
 戦争と革命、謀略と暗殺、冒険小説とスパイ小説、そして大量のノンフィクションを参照し、作り上げられた驚異の大著。

【ここが凄い!】
 《冒険小説読本》と聞くと、冒険小説に関する読み物やMOOK本のようなイメージを抱く方も多いだろう。しかし、本書はそのような軽みとは一切無縁だ。【海外編】【日本編】の全2巻、計90章1000頁、その中で言及された作品数は1000冊を優に超える。さらに1章平均5頁程度ながら、それと同等(場合によっては倍以上!)の《註》が付く破格の構成。〈ミステリマガジン〉誌に1991年から連載を開始し、完結まで足掛け9年かかったのも宜なるかな。本書は博覧強記の氏が正にその半生をかけたと言っても過言ではない冒険小説の〝歴史書〟なのである。

【読みドコロ!】
 【海外編】の密度が凄まじい。特に第二次世界大戦末期(13章「強制収容所とヴァチカン」)から冷戦に至る(20章「冷戦の始まり」)までを詳細に活写した中盤がハイライト。対して、取り扱う作家・作品にやや偏りが見られる【国内編】は僅かながら密度が落ちるか。それでも、西村京太郎『D機関情報』に焦点を当てた23章「顧みられなかった終戦工作」は作家の抒情性が光る好論である。

【次に読むのは?】
 『量書狂読 1988~1991』(三一書房)及び『またも量書狂読 1992~1994』(同)を読めば、〝一年で600冊の本を読む〟という著者の言が誇張でないことがよくわかるはず。また本書を読んで冒険小説に興味を持ったのなら、北上次郎『冒険小説の時代』(集英社文庫)がマスト。

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