マガジンのカバー画像

短編小説

8
短編集です。
運営しているクリエイター

#日記

なにがブリリアントや

ある賞の公募に応募して、その為に11月までに書いた詩なるものを幾つか読み直していた。応募数に制限はないのだけども、読み直していくうちに応募するに値するように思われる作品はたったの数点で、その数点の作品なるものの中でも一つはなんだか読み手の同情を誘うようないやらしいものだし、それ以外のも鵜の真似をする烏というか、形式だけに拘った付け焼き刃の突貫工事、作品を成り立たせる主軸のこれ心許ない気色甚だしく、

もっとみる
この街について

この街について

人生は上手く出来ている。悪いことが起きればその後に少し良いことが起きるし、そのあとは悪いこと、良いこと、堂々巡りである。
だから今日のこの不運も次に起こる幸運の為の試練なのだと考えれば少し心が救われるのだ。

ルガン=ジャネス=アンデルセン (1912〜1979)

僕の住んでいる所(といっても僕はその場所に僕の能力によって住まうことが出来ているという訳でなく、只家族に寄生して存在することが出てき

もっとみる
草稿

草稿

早春の東雲 晩夏の暮夜 晩秋の薄暮 杪冬の明昼、往年の四季に惑わされ醜くも生きてきたけれど、生きる事が人生に於けるプライオリティだというある偉い人の陳述を読んで、それでも四季のあることに感謝しなければならないと思うと、窮屈な気持ちで、僕はやるせなくなります。

早春の東雲 晩夏の暮夜 晩秋の薄暮 杪冬の明昼、冴えない小説の書き出しの為に生涯をかけて製造した銀弾四発を空に向けて放ったような思いである

もっとみる
日常

日常

ある冬の日の暮。私は夕食の買い物を手伝いに、隣町、といっても最寄駅からたった二駅離れたばかりの所にある街なのであるが、そこへ母と共に訪れた。駅前には幾つもの商店が並んでいる。モクモクと油の籠った重い煙をあげている串焼き屋やら、古風な木造りの店構えをした豆腐屋やら、凡そ4、5畳程しかないと思われる、小さい婦人服店やら、初見では入り辛いようなやけに暗い酒屋やら、全く纏まりのないごちゃごちゃした商店街で

もっとみる
夏の幻影

夏の幻影

9月17日 木曜日

私がこの手帳に初めて付けた日記の一節に、このような事が記されておりました。

"自身の思いを書き留める事が、私の憂鬱を形作るもの一部になるのは、当分先であろうが、"と

しかし、明らかに、この現在書いております文章が、紙の上に乗るのは久しいことでありまして、私は全く口が上手いものだと、感心さえしております。さて、このようなナマケモノの私が再び日記をつけようと思い立ったのは、ど

もっとみる