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路傍の一円

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路傍に落ちている一円をひろうのは、ちょっとめんどくさい。わざわざしゃがんで、手をのばさないといけない。しかし、それには一円の価値がある。なら、自分から発せられるものはどうだろう。…
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記事一覧

カム・クリーン【散文】

カム・クリーン【散文】

悪夢。

 そうひと言では片づけられない、まだらな色どりと悪意の固まりから目覚める。ふだんからBPMが速く、心拍数を抑えるための薬をのんでいるぼくの心臓は強く速く脈打っている。ずっと同じ体勢だったのだろう。痺れる左腕をゆっくり動かす。それからキッチンにむかう母は病院で、家にはだれもいない。水道水で、とんぷくの薬をのんだら、落ち着くまで台所の隅に座り深呼吸する。しばらくして、よくなったらぼくはタバコ

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はり裂けるさなぎ【散文】

はり裂けるさなぎ【散文】

「アシャ君ぼく死にたいっす」

 京都で後輩に言われた。

 よくわかるよ。と言いかけてわからなかった。ぼくは死にたいなんて言ったことはない。生きて生きて生きぬきたいと常日頃から思っている。

 けど、今はその気持ち、ひとかけらはわかる。生きたいと思っていながら、自分の弱さに背を向けて集めただいすきなものに囲まれた部屋で、死のふちを味わっているぼくにはわかる。

 人生はたったほんのひとつ。たとえ

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ペインフル【散文】

ペインフル【散文】

 「ひとの痛みをわかるひとになりなさい」ってだれかに言われた。ぼくはすぐに納得した。そんな強いひとに、ぼくはなりたかった。だから、だれかの痛みによりそってきた。家族や友人、恋人に。

 わかるひとになるには経験することがいちばんだと思った。ときに苦境のなかに自らをおいた。

 血だるまになるほどじゃないが、多少の痛みは抱えて生きてきた。ドラッグやバイオレンスだって手を染めた。どっちも痛みに耐え切れ

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