見出し画像

日本料理の食卓作法2-B~どんなものが出るのかな?~

2006年9月13日 (水)

9.食事 

「ご飯 止め椀 香の物」
「山掛け飯 鮪たたき 浅葱 う玉 香の物」
「黒米粥 梅干 香の物」
「白魚雑炊 梅肉」
「もずく蕎麦 薬味」
「栗飯 赤出汁 香の物」
「素麺 錦糸玉子 木干 糸三つ葉」
「松茸飯 三州味噌椀 香の物」
「深川飯 香の物」
「すっぽん雑炊 香の物」
「新生姜飯 とろろ 青海苔」

本来、日本でのおもてなしは、何よりも先に、白いご飯に汁と香の物(漬物)を添えてお客様へ出し、まずはたっぷりとご飯を召し上がっていただいてから、あらためてお酒やお茶を差し上げるという形が主流でした。

ですから、武家料理である本膳料理や茶懐石などでも、お客様へはまず初めにご飯、汁、香の物をお出ししたのですが、江戸時代に町人のあいだから始まった酒菜料理である会席料理は、初めに酒肴とともにたっぷりとお酒を飲んでもらい、仕上げに軽くご飯を食べる、という形になりました。

これは、塩気の強いほんの少しの副食で、ともかく大量のご飯を食べることが贅沢とされてきた時代から、米以外のさまざまな食料が量的にも一般に普及し始め、一部の裕福な人々の間だけではありますが、食に対する意識が変わっていった表れと言えるでしょう。

さて、では献立を見てみましょう―。

「ご飯・止め椀・香の物」などと書いてある場合がありますね。

この「止め椀」とは、「最後に出される椀」という意味です。

そして、この椀は、ご飯の相手としての「椀」ですから、中身は「汁(しる)」ということになりますね―。(「3.お椀」の項を参照してください)

ほとんどの場合は、ご飯を食べられるような汁ということで「味噌汁」が出されます。

味噌の種類はいろいろあって、「米味噌・麦味噌・豆味噌」などの材料別の分類と、色味などで呼び分ける「赤味噌・白味噌」、また合わせ味噌である「ふくさ味噌」などがあります。
いずれの味噌を使うにせよ、出汁と実とのバランスを考えてしっかりとした味に仕上げます。

ご飯と味噌汁、香の物だけをお出しすると、お客様によっては「おかずがないからご飯が食べられないよ」という方もいらっしゃいますが、料理人は汁と香の物でじゅうぶんにご飯が食べられるように作りますから、交互に召し上がっていただければ美味しく食べられると思います。

また、白いご飯だけでなく、季節ごとの炊き込みご飯(カキ、あさり、たけのこなど)や混ぜご飯、とろろ飯などを用意することもありますね。

その場合は、汁も味噌汁の他に「かき玉汁」や「鶏スープ」などをお付けしますし、汁なしでお出しすることもあります。

また、ご飯でも「お茶漬け」や「雑炊」を用意したり、ご飯ではなく麺類の「うどん」「そば」などをお出しすることも多いですね。


お酒を飲んだあとのなので、さらさらっと入るものがいい、というお客様はたくさんいらっしゃって、とくにお茶漬けと麺類はリクエストも多いかな…。

シンプルなものだと、小柱のかき揚げを添えた冷たい稲庭うどんや、夏野菜をたっぷり入れた胡麻汁で食べる冷や麦なども、たいへんに好評です―。

それから、料理屋としてはちょっと凝ったものをご用意したりしますよ―。

からすみ(ボラの卵巣を塩漬けにしてから乾燥し、熟成したもの)を炙ってから削り、ご飯と混ぜておにぎりにしたあと表面を焼いて「焼きおにぎりお茶漬け」にしたり、ご飯を少しまとめてから揚げ、たっぷりと胡麻や三つ葉をのせた上から熱々のだしをかける「おこげ茶漬け」を作ったり…。

麺類も、素麺や冷や麦のつけ汁をゆるいゼリー状にして上からかけ、薬味といっしょに混ぜながら召し上がっていただいたりします。

まあ、何にせよちょっと手をかけて作るのが、料理屋の料理ですからね…。

会席の場合、お食事の量はちょっと少なめに用意します。

このあと出てくる水菓子(デザート)までお腹にいれても、まだあとちょっと食べられるかな…?という感じの量でちょうどいい、という考え方なんですね。

ただし「ちょっと多めに持ってきてね」とか「おかわりできるかなぁ…」なんてお声がかかることもありますので、その場合はお応えしてます。

10.水菓子、甘味 
    別名:お食後など 

「有りの実(梨) 巨峰」
「完熟柿のゼリー バニラアイス」
「とちおとめ りんかけ」
「チェリモヤ クリーム」
「パパイヤ レモンゼリー掛け」
「佐藤錦 水蜜桃」 
「紫陽花水饅頭」
「抹茶ムース あずき ホイップクリーム」
「葛きり 黒蜜」
「栗伊達巻 きんとん」
「わらび餅 黒蜜 黄な粉」
「生どら 黒豆 栗 苺」

食事を終えると、会席盆を下げて果物や甘いお菓子をお出ししますが、これは比較的最近始まったことです―。

会席料理が考え出された当初は、食事まででコースが完結していましたが、戦後になってから、洋食のデザートなどの影響と、和菓子や洋菓子の普及、また果物が手に入りやすくなったことなどが要因で、コースの最後を締めくくるものとなりました。

お店にもよりますが、「お食後」としては甘味か果物のどちらかの場合と、両方出される場合とがあります。

明確な決まりごとはありませんので、それぞれのお店の考え方のようですね―。

現在、「甘味」についてはさまざまなものが作られています。

基本は和菓子で、しかも干菓子より生菓子が多いですが、和菓子に洋菓子を取り入れたものや、アイスクリーム、シャーベットなども人気があります。

かなりお酒を飲む男性のお客様でも、アイスクリームやシャーベットが好き、という方は結構多いですね。

その前に出る「食事」は残しても、嬉しそうにアイスを召し上がっている姿は、微笑ましいものがありますよ…。

ところで、会席の献立によく書かれる「水菓子(みずがし)」とは、「果物(くだもの)」の意味です―。

「菓子」という言葉は、もともとは「果物(くだもの)」という意味で使われていたのですが、昔、中国から粉を練って油で揚げたものが入ってきた時にそれらを「唐菓子(とうがし、からがし)」と呼ぶようになり、それから区別するために水気の多い果物を「水菓子」と呼ぶようになったと言われています。

ただ、この話にはいくつかの説があるので、確定ではないようですね―。

果物(くだもの)を用意する場合は、季節のものか、ちょっと先取りのものを用意しますが、いずれも食べやすく包丁してお出しします。

もちろん、姫フォークやスプーンを添え、なるべく手を使わずにすむようにしてお出しするのが作り手のマナーというわけですね。

「みかんが丸ごと1個、皮付きで出てきたら、どう食べるのでしょう?」
などのご質問を(洋食でも和食でも)、マナー講座でいただくことがあるのですが、基本的に、丸のままお出しすることはありません。

よしんば、たとえ何かで丸ごと出したとしても、そりゃあ手を使って皮をむき、いつも通りに食べていただくしかないですしねぇ…。

皮付きで出すとしたら…ぶどうかなぁ…枝から実をはずして…皮に切れ目を入れて半分くらいはむいて、花びらみたいにして……うんうん…。

ぶどうは、皮をむいて出しちゃうと、甘みが無くなるんですよねぇ…皮と実の間が美味しいんですもんねぇ…。

まあ、いずれにしても締めの一品ですから、料理人は結構いろいろ気にして作るものですね。

特に最近では女性のお客様も多く、皆さん楽しみにしてくださいますので、作り手も悩む甲斐があります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?