110焼物1

日本料理の食卓作法2-B~どんなものが出るのかな?~

2006年7月30日 (日)

6.焼物 
   別名:台の物、鉢肴、中皿、洋皿、などなど…

「まながつお幽庵焼 はじかみ 金銀玉子」
「鯛磯焼 丸十 枝豆 子持若布 半玉子」
「鮑塩蒸し 帆立貝北海焼 ブロッコリー 椎茸 玉蜀黍
 千切り牛蒡揚げ おろし梅肉」
「名残り鮎塩焼き はじかみ 蓼酢」
「牛フィレ 印元 青唐 人参」
「栗いが盛り 鮑 鰆 秋刀魚 新銀杏 丸十 新栗
 衣担ぎ はじかみ」
「茄子味噌グラタン 帆立 かに 銀杏 ブロッコリー
 はじかみ」

読んで字のごとく「焼いたもの」で「焼物」ですが、足つきの皿や台に盛られることがあるので、別名を「台の物」といいます。

また「鉢肴(はちざかな)」とは、昔、鯛の浜焼きを大鉢に盛って出したことから、こう呼ばれるようになりました。

もともと「魚」は「うお」と読むのですが、「さかな」と読むようになったのは、酒の肴(さかな)として「魚(うお)」がよく使われていたため、いつしか同じ音で読まれるようになったからそうです。

酒の肴を「酒の菜(さけのな)」と言ったのですが、それが次第に変化して「さかな」となったわけですね―。

「焼物」として出される多くは、切り身になっている白身や赤身の魚です。

味噌漬けにしたものを焼いたり、塩焼きや照り焼きにもしますし、他にも「若狭焼」「柚庵焼」「奉書焼」「焙烙焼」などなど、さまざまな工夫をした焼物があります。

また、材料としては海老や貝類などを使ったり、最近では牛肉、鶏肉、鴨肉などの鳥獣肉を使ったりもしますね。

そして皿の上には、味のバランスをとるための添え物と口直しが添えられています。

添え物は、塩気のある焼物に対して甘みのあるものが多く、あんずの蜜煮、丸十の栗見立て、レアチーズ寄せなどさまざまですが、口直しは魚の臭みを消し、さっぱりとさせる「はじかみ」(筆生姜の甘酢漬け)が多いですね。

「中皿」は「ちゅうざら」または「なかざら」と読みますが、献立上で「ちょうど中間ごろに出るもの」または「中くらいの大きさの皿」ということで、焼物に限らず、合肴(あいざかな)としての一品が入ることがあります。

最近では日本料理といえども、各国の料理の影響を受けたものが献立にも取り入れられていて、薄切りのバゲットを敷き、オリーブオイルで焼いた太刀魚の上にトマトソースをかけて盛り付けたものや、生のカレイのそぎ身にたっぷりの白髪葱をのせ、熱した胡麻油をじゅうぅっ!!と回しかけたものなど、洋食や中華風のものが出てくることも多くなりました―。

ところで、テーブルマナー講習会でよくいただく質問に
「あらたまった席で、尾頭付きの魚を上手に食べるにはどうし
 たら良いですか?」
というものがあります。

もちろん、上手に食べていただく方法とコツはあるのですが、実は料亭やホテル内の日本料理店において、尾頭付きの魚をそのまま出すということ、基本的にはありません―。

なぜなら、お客様が食べにくいと思われるようなものはけしてお出ししない、それが作り手側のマナーだからですね―。

例外的に、お祝い事での鯛の姿焼き、鮎や山女魚、岩魚女などが一匹まるごと出されますが、本来はあらかじめ上手に骨を抜き、形を整えてお出しするか、または身をそいで一口大に切り分け、それを元の姿のように盛り付けてお出しするものなのです。

7.揚物 
   別名:油物、中皿、強肴、合肴などなど…

「海老俵揚げ かれい唐揚げ 手長海老 稲穂 茄子
 青唐 美味だし 赤おろし」
「甘鯛のけんちん揚げ 木耳 百合根 松の実 小柱
 青唐 天だし 富士おろし」
「海老北海揚げ ずわい黄身揚げ 丸十 青唐 煎りだし」
「ふかひれ豆腐 小柱新丈 三色揚げ 青唐 山椒塩」
「鼓筍 鮎魚女二身揚げ 青唐 くず水仙 美味だし」
「白魚千本揚げ 丸十 青唐 焼塩」

「揚物?ああ、天ぷらでしょ?」
とおっしゃるかたが大変に多いこの料理ですが、実は会席料理に「天ぷら」が出ることはありません―。

天ぷら専門店で、「天ぷら会席」などとしてコースを設定していることはあるのですが、いわゆる「料亭」「料理屋」においては、あくまでも「揚物」≠「天ぷら」なのです。

では、なぜそうなっているのでしょう?

じつは、「天ぷら」の成り立ちにその理由があります。

詳しくはいずれ、「知りたい日本料理―三大専門料理(天ぷら・寿司・うなぎ)」でご説明したいと思いますが(↑よ、予告っ?!自分で自分の首を…)、「天ぷら」とはもともとが魚河岸の近くに出来た屋台から始まった専門料理であり、いわゆる日本料理の系統ではなく、天ぷら職人達がひたすら独自に研究して作り上げたひとつの世界であること、これがその理由なんですね―。

そのため「料亭」や「料理屋」では、衣をつけて揚げるとしても「薄衣揚げ」「白扇揚げ」「黄身衣揚げ」などと称しますし、衣にこだわらず「素揚げ」「唐揚げ」などの使い分けもします。


また、そもそも揚げる材料も、天ぷらが素材をそのまま揚げるのに対して、必ず手を加えてあるのが特徴です。
魚介はすり潰して「しんじょう(新丈・真丈・糝薯)」にしたり、素材に何かを巻いたり挟んだり、まわりに何か(おかきを砕いたものなど)をつけたりという、一手間と工夫があるわけですね。

しかし、当然このようなお話をご存知のかたのほうが少ないですから、「コースの中に天ぷらは出るんでしょ?」とか「天ぷらメインのコースにして」とか言われたりして、ご説明に苦労することもありますよ。

さて、ここで言う「揚物・油物」は、「衣揚げ」「唐揚げ」「素揚げ」「二身揚げ」など、揚げたものをそのまま召し上がっていただく場合が多いのですが、何種類かを盛り合わせたものに「つけ汁」(天つゆ、美味だし、ちり酢など)と「薬味」(浅葱、柚子胡椒、紅葉おろし、大根おろし、おろし生姜など)を添えてお出しするか、塩(焼塩、抹茶塩、柚子塩、桜塩など)、レモン、酢橘などを添えてお出しします。

また、揚げたものにちょっと手を加え、アレンジしたものをお出しすることもありますね。

例えば「栗帆立真丈の沢煮あん」や「桜海老万頭のべっ甲あん射込み」、「名残り鮎姿揚げのトマトソース」などですが、この場合は献立に「口替り(くちがわり)」「合肴(あいざかな)」「強肴(しいざかな)」などと書くことが多いようです。

ただし、これは料理長によって書き方が変わりますし、料理の流派によっても違うようですから、明確な決まりごとではありません―。


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