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詩集 幻人録

275
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2021年6月の記事一覧

遠炎

遠炎

遠くで誰かが想うのは

遠くに暮らす私の心情

庭に咲いた小さな花に水を垂らす様に

窺い知れない遠里の花に
水を差すのは

巨人の長腕が必要物資

残念ながらに巨人は幽霊 夢の化身
触れられないから当てにはしちゃ駄目

屈強な花は雨を啜り
泥だらけの花弁でも
背骨の茎は曲がらないのだろう

そんな花だとしても尚
たまの便箋一通なんかじゃ
不安の球はハートのなかで静かに跳ねる

病と契約してないも

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菊に空

菊に空

鷹が翔ぶ
水気の無いダム湖を上を

鷹が翔ぶ
水気の無い水脈の上を

鷹が呼ばれる
大盤振る舞いの恰幅な太陽に

鷹は鳴く
私とあなたは無関係

鷹は翔ぶ
遥か遠くの野を目掛け

太陽は言う
鷹よ伝えてくれないか

太陽は言う
彼等に教えてくれないか

太陽は思う
ここは私より大きな星が牛耳るこの地

太陽は叫ぶ
私だってもう休みたい

太陽が怒る
彼等は私を憎んでいるから

鷹は思う
豆粒の様に

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時計ひとつに

時計ひとつに

あなたの心苦な1秒も

私が眠る1秒も

あの街の埃塗れの1秒も

私の空気清浄機の回る部屋の1秒も

同じ刻の一欠片だとおもうと

思考の平和は細穴に陥る

私の怠惰な時間と

涙に浸かるあなたの時間は

総じて同じだよって時計は言った

ぬるめの温泉に浸かった10分と

熱波師に扇がれるサウナの中の10分が

同じなんだくらいの心持ちで言い放った

時計よ
私にほいほいと言わないでおくれ

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獅子鰯

獅子鰯

田んぼの淵で皆一緒 カカシの様に突っ立って

遠い昔を見つめてる 口をあんぐり開けたまま

仄暗い深海と勘違いをした鰯の群れが
夜空を滑空する様は

数秒おきにシュっと煌めく

獅子座の頃の流星群

田舎の秋の真夜中は 耳が赤く染め上がる

鼻の頭も染め上がる

畦道外れの車の窓から毛布を纏った妹が
顔を迫り出し笑ってる

寒気や眠気は一閃の光束に

射抜かれたから消失中

幾度も落ちる希光の探求

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青春木

青春木

誰にもすれ違わない様に

一本はぐれた枝を行く

言葉が拙い思春期は

恥じらいを跳ね返す表情も知らない

あなたと隠れて話しましょう

長い廊下に子供達

秘密を厚らい着込んでいたから

あの夏はより暑かった

新しい屋根の隣には

古いトタンの錆びた屋根

大通りでは無い私達の

帰る場所がここならと言っては

あなたが小さく微笑んだ

あの瞬間が私のはじまり

駅まで歩く裏の枝

細くて短く

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旧木街

旧木街

余白を飛ばして訪れた

若葉の頃に暮らした街は

涙と汗を噛むほどに色気を増し

老艶に象った古い木窓の群列体

錫色に並ぶ扉の奥では

宵に酔った赤らめ頬のおじちゃんが

酒樽に腰掛け流暢に笑いをばら撒いている

無我に飛び込む社会の油で

べたべたになった私の心は

赤らむ街を抜け歩くだけで

ポッと安心

ポッととぬくい

この場所一帯消えるんだ

次の冬には消えるんだ

老いた飲み屋や食堂

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昼堕落

あの鉄柱よりも遥かに高い

水彩の様な快晴

雀が近くで鳴いてるが

どこに居るかはわからない

流れる1秒が織りなせば

騒めく杉も

雀の羽ばたきも

流線系の実態となる

それくらい大事な重なりの秒間を

私はただ小高いだけの細道から

街の外れの住宅の群れを

反神妙な顔持ちで

緩くてぬるい表情筋を携え

眺め下ろしているだけの昼堕落

それを悪人と罵られては

擦り減った私の思の動く部

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