見出し画像

#157 シリコンバレーの大手VCが少額シード投資をする理由

今回、日本で数年ぶりに温泉に行ってきました。温泉というのは単にお湯に浸かるだけでなく、食事や旅館の雰囲気を含めた総合的な経験であることを改めて感じました。 そして、やはりここまで質の高いサービスを提供できるのは日本ならではの強みだと思いました。日本ではよくアメリカや他の国のサービスが低いという話をよく聞きますが、他が低いのではなく、日本が世界平均より遥かに高いということだと思います。そのおかげで気持ちの良い旅行になりました。


以前こちらの記事で説明したように、VC投資において「ファンド・リターナー」の概念を理解することは重要です。この概念は、VCが投資を行う際の目標バリュエーションと投資金額を決定する重要な指標となります。ファンド・リターナーの概念によると、VCはファンド規模が大きくなればなるほど、投資サイズが大きくなり、より大きな持分を持つ必要があります。一方、ファンド規模が小さくなればなるほど、投資金額と目標とするべき持分は小さくなります。

theLetterでニュースレターを購読 & ポッドキャストで聞く

しかし、最近では、大型のマルチステージファンドが彼らのメインの投資である大型案件に加えて、小規模なシードラウンドに投資を行うケースが多くなっています。実際、Pitchbookによると、アンドリーセン・ホロウィッツのような大型のマルチステージファンドVCは、2023年より多くの小規模シードラウンドに投資しました。 61件のシードラウンドのうち、13件(21%)の投資が$4m(約5.8億円)未満でした。 $4m は決して「小さな」シードラウンドではありません。実際、昨年第3四半期のシードラウンドの投資金額の中央値は$3mでした。しかし、アンドリーセン・ホロウィッツのような大型ファンドにとっては「小さな」規模です。 このような投資が大型ファンドの間で多く行われている理由は何でしょうか?

アンドリーセンの過去3年間の投資金額別シード案件の数(データソース:Pitchbook)

一番目の理由は、このようなシード投資は彼らに「オプション」を与えるからです。 つまり、これらの大型ファンドは、シードステージのスタートアップに少額投資を行い、その中でうまくいっているスタートアップには、フォローオンラウンドでメイン投資を行うことができます。このようなメイン投資は、投資金額が大きく、ファンド・リターナーになることができる投資です。シードステージのスタートアップに少額投資をすることで、彼らの会社がどれだけうまくいっているかという情報だけでなく、次のラウンドへの投資機会に関する情報も得ることができます。 つまり、その後の投資に対するオプションを得ることができるのです。

もう一つの理由は、魅力的なロングテールの収益を生み出すことができるからです。 このような少額投資ではファンド・リターナーになり得るリターンを得ることはできないでしょうが、例えば、ファンドサイズの30%程度を回収することができれば、最高の投資ではないにしても、良い投資にはなります。

最近デュー・デリジェンスを行った著名VCの一つが数百億円の中型規模のファンドをローンチするのですが、このVCはファンドの数パーセントをこのような小規模シードラウンドに割り当てています。例えば、500億円のファンドで、5%を小規模シード案件に割り当てたとします。そうすると金額でいうと25億円で、25個のシードステージのスタートアップに1億円ずつ投資できます。

25件の投資がすべて0になったとしても、それでもせいぜいファンド全体の5%に過ぎません。しかし、そこからメイン投資機会が一つでも見つかり、その投資が大成功を収めることができれば、5%は十分に価値のあるものになります。あるいは、1~2件の投資がそれぞれファンドの30%のリターンを生み出すことができれば、それはそれでまともなロングテールの成果となります(ファンド・リターナーの2/3くらいにはなるので)。

これは、魅力的なシード案件に対する競争がより激化することを意味します。「#145 激化するシード投資」でも述べましたが、十分な競争力を持たない中型~大型ファンド、特に良いブランドを持たないファンドは、良いシード投資を行うことがさらに難しくなります。最近私の知っているあるファンドはこのような理由でファンドのクローズを決定しました。

同時に投資金額が小さくても構わない小さなVCファンドにとっては、より良い機会となる可能性があることを意味します。投資金額が小さいほど、魅力的なシード案件に投資できる確率が高くなります。大型ファンドと競争をしなくてもよくなるからです。このような最近のトレンドは、私たちのスモールファンドへの投資戦略に対する自信をさらに高めてくれます。

theLetterでニュースレターを購読 & ポッドキャストで聞く

References:
N/A

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?