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so.

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「so.(エスオー)」は、女子高のとあるクラスの一日の間に起こる出来事を、様々な時間、それぞれの視点から綴る群像劇です。
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2016年2月の記事一覧

【so.】佐伯 則佳[1時間目]

【so.】佐伯 則佳[1時間目]

 ホームルームが終わって、隣の席の山浦さんが面談へ行った。私は先週に面談を受けたけど、三条先生が何を言いたいのかよく分からなかった。あんな調子でみんなに聞いて回って、どうしたいんだろうか。

「おはよう!」

 逸見先生の大きな声にはいつもびっくりする。力強く黒板に書きだされたのは「檸檬」という2文字だった。

「新藤、これなんて読むか分かるか?」

「どう…もう?」

「お前の好きな食べ物系の言

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【so.】堀川 国子[2時間目]

【so.】堀川 国子[2時間目]

 廊下のロッカーを開けて現代文の教科書を入れ、生物の資料集を取り出した。次は生物室で授業だから、もうほとんどみんな行ってしまったらしい。私が購買で消しゴムを買って戻ってくると、まことが教室で待っていてくれたみたいで、慌てて生物の準備をしたところだ。それなのに、今度はそのまことが廊下へ出てこない。何か話し声がするみたいだ。もうすぐ授業が始まってしまうじゃないか。私がちょっと強めにロッカーの扉を閉める

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【so.】田口 吉美[3時間目]

【so.】田口 吉美[3時間目]

 体育が外だったら、つだまるたちとバックレてやろうかと考えていたけれど、小ホールで卓球だと委員長が叫んでいたので、それならと出席することにした。ジャージに着替えると寒くて、のりんと廊下を歩きながら、寒い寒いと唸っていた。

「でも教室が一番寒い」

 のりんがボソッと言ったけど、そんなことない、渡り廊下は風が吹き抜けて超寒かった。

「今日は寒いから暖房の効いた小ホールで卓球だ。喜べおまえらー。っ

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【so.】青江 つぐみ[4時間目]

【so.】青江 つぐみ[4時間目]

 4時間目の書道はいつも、視聴覚室の床の上だから寒くて嫌になっちゃう。紙に向かって筆を走らせるのは楽しいから好きだけど。

「つぐちゃんさぁ、朝に言ってたこと、他に誰かに話した?」

 制服に着替えていたら、やまちーがひそひそ声で尋ねてきた。さっきアヤリンとまこちんに相談してしまったけれど、そういえば、やまちーに口止めされていたんだった。

「ううん、言ってない」

 ウソついちゃった。

「それ

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【so.】大和 栞蔓[始業前]

【so.】大和 栞蔓[始業前]

 うちの生徒と思しき人の後ろで信号待ちをしていたら、横から声をかけられた。

「やまちー、いいんちょー、おはよー」

 つぐちゃんだった。全然気づかなかったけれど、わたしの前に立っていたのは、よりにもよって委員長だったのか。

「つぐちゃん、委員長おはよ!」

 笑顔で挨拶してみたけれど、顔に出ていないだろうか。成り行き上、3人で登校する形になってしまったことが歯がゆい。つぐちゃんを真ん中に、委員

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【so.】荘司 直音[1時間目]

【so.】荘司 直音[1時間目]

 ホームルームが終わって、廊下のロッカーへ荷物を入れて自分の席へ戻る途中に伊村氏の机の上に確かにそれがあるのを発見した。

「伊村氏! そ、それは、ひょっとして、mPlate proでは!?」

 店舗以外で是非一度実機を見てみたいと思っていたところにまさか学校で持っている御仁がいるとは。興奮で息が上がってきた。
 ぱっと顔を上げた伊村氏は周りの目を気にするようにそっとノートをズラし件のガジェット

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【so.】栗原 信子[2時間目]

【so.】栗原 信子[2時間目]

 生物係のわたしは、現代文の授業が終わるとすぐに生物準備室へ行かなくてはいけなかった。次の実験の準備を手伝わなきゃいけないからだ。荷物を持って席を立つと、たまきが一緒についてきた。

「許せない。ジョーのクソ野郎」

 一部の女子の間では、三条先生の呼び名が「サンジョー」から「ジョーサン」へと変化し、更に呼び捨てにするときは「ジョー」と呼ぶように、1~2学期の間に変化していた。授業中に飛んできたF

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【so.】川部 心[3時間目]

【so.】川部 心[3時間目]

「今日の体育は小ホールで卓球だそうですー!」

 委員長の言葉に救われるような思いがした。小学校は卓球クラブで、今も近所の卓球場に通っている私には稀有な得意種目。バレーボールでレシーブが出来ずに白い目で見られたり、バスケットボールでパスを受けてはトラベリングを取られたりといった恥をかかないで済むのだ。団体種目と球技は大の苦手な私が唯一得意といえる球技、それが卓球。

「体育というのは、我々のような

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【so.】津田 満瑠香[4時間目]

【so.】津田 満瑠香[4時間目]

「つだまるー、ミルクティー買いに行こう」

 体育が終わって着替えていたら、のりんに声を掛けられた。あたし達には暗黙の了解があって、下駄箱のそばの自動販売機まで飲み物を買いに行ったらそのまま、あたしが鍵を持っているバスケ部の部室へ行って次の授業をサボるというものだった。次は美術で、あたしは別に出てもいいんだけど、のりんに言われたら断ることが出来なかった。イズミンも来るかと思ったけれど、何だか神妙な

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【so.】野田 繁美[始業前]

【so.】野田 繁美[始業前]

「今日はさあ、何回繰り返すんだろうね?」

 思わず隣のタイラーにこぼしてしまった。トランペットを咥えたままのタイラーは、軽く首を傾げてみせた。時計が8時5分を指している音楽室。顧問の葵先生は、最初の8小節ばっかり何度も繰り返しさせる。吹奏楽部の朝練で、7時半からずっとだ。ずっと。

「ミス野田。おしゃべりしない」

 わたしは黙ってトロンボーンのマウスピースを咥えた。今日は2年生が3人、1年生が

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【so.】橋本 忠代[1時間目]

【so.】橋本 忠代[1時間目]

 ホームルームを終えて現代文のノートを広げていたら、よく通る低音が響き渡った。

「おはよう!」

 入ってきた逸見先生の大きな声で、左隣のつぐみちゃんが、いつものようにビクッとした。逸見先生は演劇部の顧問らしく、びりびりと響くような声をしている。先生はチョークを出すと、力いっぱいに「檸檬」と書きつけた。

「新藤、これなんて読むか分かるか?」

「どう…もう?」

「お前の好きな食べ物系の言葉だ

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【so.】月山 綾[2時間目]

【so.】月山 綾[2時間目]

 まっさと2人、生物室まで歩いている。ぴたっと足を止めたまっさは、首元にかけた一眼レフを構えると、窓ガラスから見える景色にさりげなくシャッターを切った。部長のまっさは私と同じ写真部だけれど、彼女が写真に掛ける情熱に対して、私のそれは素人に毛の生えた程度のものだった。まっさも、きっと主役になれる人生なんだな。私には、何もない。

「はい。じゃあ今日はメダカの血流の観察をしますねぇ」

 今日も島田先

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【so.】橘 ひろ子[3時間目]

【so.】橘 ひろ子[3時間目]

 トイレに行ってから教室で体操服に着替えると、廊下でタイラーともじゃが待っていた。

「部長とそねちゃんは?」

「そねちゃんは体調悪いとか言ってどっか行っちゃった」

「保健室かな。部長は?」

「なんかー、和泉さんと行っちゃったー」

「じゃあ行こっか」

 ひんやり冷える廊下から、暖房の効いた小ホールに入った時は生き返る心地がした。体育の石堂先生は寒さなんて関係ないくらいに今日も元気で、大き

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【so.】平 安代[4時間目]

【so.】平 安代[4時間目]

「そねちゃん?」

 もじゃがぼそっと呟いた。地理準備室から出てきたのは、紛れもなくそねちゃんだった。

「なんで?」

 体調が悪いからって、体育を休んだはずじゃなかったっけ。体育を終えたわたしは、教室に戻らず直に地理準備室まで、もじゃに連れられて来たところだ。

「ねーそねちゃん! なんで!」

 もじゃがそねちゃんに駆け寄った。そねちゃんはぎょっとした表情を浮かべていた。

「着替えないの?

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