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【so.】荘司 直音[1時間目]

 ホームルームが終わって、廊下のロッカーへ荷物を入れて自分の席へ戻る途中に伊村氏の机の上に確かにそれがあるのを発見した。

「伊村氏! そ、それは、ひょっとして、mPlate proでは!?」

 店舗以外で是非一度実機を見てみたいと思っていたところにまさか学校で持っている御仁がいるとは。興奮で息が上がってきた。
 ぱっと顔を上げた伊村氏は周りの目を気にするようにそっとノートをズラし件のガジェットを露わにしてくれた。なんと神々しい存在感!

「荘司さん、内緒にしてね」

 定価98000円のモンスタータブレットを持ち歩いているなんて知られたら盗まれたり担任の三条氏に取り上げられてしまうかもしれない。そのおそれ故こうやって人目を忍んで持ち歩く伊村氏の気持ちが痛いほど分かるのである。

「はっ、仕った」

 よもやクラスに理解のある御仁がおられようとは露とも思わず過ごしていたのでこの邂逅は僥倖とも呼べよう。

「皆、モガベーだとかFILOしかやらないなんて、デジタルガジェットのスペックを活かしきれていないのが嘆かわしいですよ、分かってもらえるか伊村氏!」

「確かに」

 秀才の伊村氏より同意を賜るとは! やはり選ばれし御仁にはその価値が分かるのである。

「荘司さんはFILOやらないの?」

「わ、わたしには必要ないノデッ」

「そうだね」

 思いがけぬ問いかけにしどろもどろになってしまったけれどこれはひょっとしてFILOで繋がりませうとのご勧誘ではありませぬか! 今までSNSなど頭のパーな輩のする物だと心に定めて生きて参ったがかくなる上は己への戒めを解く時。すぐにFILOのアカウントを取得してフィー友なるものの申請を致したい所存にt

「おはよう!」

 大きな声で現代文の逸見氏がやって来たので名残惜しいが席へ戻ることにした。

 現代文の授業中こっそりとスマートフォンを教科書で隠しながらFILOのアプリをダウンロードしアカウントを作成した。授業の殆どの時間をニックネームをどうしようか悩んでいたのはご愛嬌である。
 授業が終わりさっそく伊村氏にフィー友の申請を仕りにいこうとしたが素早く生物室へと罷られた様子。致し方無いので雪隠へ寄った後で生物室へ行くことにした。

川部氏すまぬ。花を摘んでから向かいます故、先に行ってくだされ」

「了解です」

 川部氏と分かれて雪隠の個室へ入りスマートフォンを取り出した。伊村氏にも語ってしまったがつくづく思うのはノートパソコンに匹敵するような性能を誇るデジタルガジェットを手にしながらそのポテンシャルを活かすような使い方の出来ない輩のなんと多く嘆かわしい事。わたしは外国語学習アプリduorangeでエスペラントの単元をもう20は消化した。世界中の話者との会話のきっかけがこの小さな端末だけで展開されたというこの凄さをもっと知らしめたいのだ。

いずみちゃんが言ってたけど、ヨシミが怪しいって噂があるらしいよ…」

 扉の外で話し声が聞こえてきた。この声は…細田氏

「あ、ノリちゃん見てみてこれ!」

 何人いるのか分からないが、彼らが立ち去るまで外へ出られないではないか。嘆息しアプリをいじって時間を潰すことにした。

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