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【so.】田口 吉美[3時間目]

 体育が外だったら、つだまるたちとバックレてやろうかと考えていたけれど、小ホールで卓球だと委員長が叫んでいたので、それならと出席することにした。ジャージに着替えると寒くて、のりんと廊下を歩きながら、寒い寒いと唸っていた。

「でも教室が一番寒い」

 のりんがボソッと言ったけど、そんなことない、渡り廊下は風が吹き抜けて超寒かった。

「今日は寒いから暖房の効いた小ホールで卓球だ。喜べおまえらー。って、何だ少ないな今日。まぁいいや。トーナメントやるぞー」

 今日も体育の石堂は無駄に熱苦しい。見回せば、確かに何人かバックレた奴もいるらしい。ワタシもそうしたら良かったかなと少し後悔した。
 適当なくじ引きで対戦相手が決まった。最初の相手は月山。ドン臭い奴だなとは前々から思っていたけれど、試合をしてみたら本当に大したことなかった。ワタシは帰宅部だけど運動神経は悪く無いと思っているから、文化部相手には負ける気がしない。次の相手は委員長。まー負けたっていいやと思ったけれど、委員長は気になることを言ってきた。

「田口さん、年末の件は田口さんが黒幕だって噂があるの知ってる?」

「は? 何ソレ」

 胃のあたりがザワッとするのを感じた。

「誰がそんなこと」

「和泉さんから聞いたって人がいてね。ねえ、思い当たることはあるの?」

 和泉だって? 何であいつがそんなこと言うんだ。

「ない。です」

 それきり話を打ち切って、委員長に1ゲームも与えずに勝った。ムカムカして体の反応するままに打ちまくっていた。だから次の相手になったタイラーには1ゲーム取られたけど、気がついたら勝っていた。トーナメント表に目をやると、次の相手に和泉が勝ち上がって来ているのが分かって俄然燃えた。絶対に許さねえ。

「ヨシミ意外と強いんだねー」

 ヘラヘラしながら話しかけてきた和泉を無視し、ワタシはサーブの構えをとった。

「いま委員長から聞いたんだけど」

 思い返すだけでまたムカムカしてきて思わず球をラケットで力いっぱい叩きつけていた。

「あたしが黒幕って何よ。あたしがやったってこと?」

 ワタシは手当たり次第に球を掴んでは打ちまくっていた。

「どういう事だよ! 答えろよ!」

「何の事かわかんないんだって! ほんとに!」

 狼狽した和泉は当たらないように左手で顔を遮っている。少々当たろうがどうなろうが問題のないブスヅラじゃねえか。ますます怒りが湧き上がってきた。

「もし今度変な噂流したら、ただじゃおかねーからな」

 そう吐き捨てて卓球台から立ち去った。

「ど、どっちが勝ったんだ…?」

 試合を見ていたらしい石堂が聞いてきた。

「私の負けでいいです」

 吐き捨てて壁際に腰掛けた。隣に、やまちが腰掛けてきて猫みたいな声をかけてきた。

「ヨシミ強いんだねー」

 この状況で声をかけてくるか普通? だいぶ怒りが収まってきたとはいえ、しばらく放っておいて欲しいと全身でアピールしているつもりなのに。

「負けたよ」

 顔も合わさず言ってやると、それ以上は話しかけてこなかった。小ホールの真ん中の卓では決勝として和泉と川部が戦っていた。和泉負けろと思いながら見つめていたけれど、予想外に川部が強くて、和泉はあっという間に負けてしまった。ざまあみろ。

「次の授業って何?」

 やまちに声をかける。

「次はね、選択授業」

 美術か。出てもいいかな。教室の真ん中で拍手を浴びている川部をぼんやり眺めながら、ワタシも適当に手を叩いていた。

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