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  • 抄訳・源氏物語〜空蝉〜

    第三帖 空蝉

  • 抄訳・源氏物語〜桐壺〜

    第一帖 桐壺

  • 抄訳・源氏物語〜帚木〜

    第二帖 帚木

  • 抄訳・源氏物語 a系

    源氏物語にはa系、b系と言われるものがある。ここにはa系をまとめました。

  • 源氏物語あれこれ

最近の記事

抄訳・源氏物語〜空蝉 その四〜

軒端荻はだんだんと目が覚めて、思いもよらない出来事に驚いているだけであった。 源氏は空蝉の時のような、気の毒に思う気持ちが湧いてこなかった。 軒端荻が初めてのように感じだが、恥ずかしさで慌てたり、恥じらう様子はなかった。 源氏はこのまま自分だと言わないでおこうかとも思ったが、軒端荻が後からこのことを誰かに話したりして、噂になりあの冷たい空蝉のことまでもが知れてしまっては、空蝉が気の毒だと思った。度々方違えにこの家を選んでいたのは、あなたに会いたかったからだと言っておいた。それ

    • 抄訳・源氏物語〜空蝉 その三〜

      碁を打ち終えたのであろうか、衣ずれの音がして女房たちが分かれ分かれに、各部屋に下がっていくようだ。 「若君はどちらにいらっしゃいますか。この格子はしめておきますよ」 と言って閉めている音が聞こえる。 「静かになったみたいだ。部屋に入って上手く事を運んでおくれ」 と源氏は小君に言った。 小君はかたくなな姉の心を変えさせることはできないとわかっていたので、もう相談はせずに、空蝉の側から人が少なくなったら、源氏を部屋に入れようと考えていた。 「紀伊守の妹もこちらにいるのか。それなら

      • 抄訳・源氏物語〜空蝉 そのニ〜

        灯火が近くに灯してある。母屋の中柱に横向きになっている人が、自分が思いを寄せている空蝉かもしれないと、すぐに目に止まった。濃い紫の綾の単重襲の上に何か上着をかけている。頭が小さく小柄な人で、何か物足りない感じがする。顔などは向かい合っている軒端荻から全部が見られないようにと、注意をしながら座っている。細くて痩せている手が恥ずかしいのか、袖の中に隠してはいるが、少しだけ見えている。 軒端荻は東向きに座っているので丸見えだった。白い薄衣の単重襲に淡藍色の小袿らしいものを引っ掛けて

        • 抄訳・源氏物語〜空蝉 その一〜

          源氏はなかなか寝られない。 「私は今までこんな風に人から冷たくされたことがなかった。今晩初めて人生は辛いものだと知って、もう恥ずかしくて生きていけない気がする」などと言うのを小君は涙を拭いながら聞いている。そんな小君を源氏は可愛いと思っていた。添い寝をしている小君を抱き寄せた時、ほっそりとした小柄な体つきや、髪がそんなに長くない感じも空蝉に似ていて、思わず懐かしく思う。 このまましつこく空蝉を追い求めるのも、体裁も悪く癪にも触るので、もうあきらめて帰ろうと思った。いつもなら小

        抄訳・源氏物語〜空蝉 その四〜

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        • 抄訳・源氏物語〜空蝉〜
          4本
        • 抄訳・源氏物語〜桐壺〜
          8本
        • 抄訳・源氏物語〜帚木〜
          12本
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        記事

          抄訳・源氏物語〜帚木 その十二〜

          例によってまた何日も御所にいた頃、源氏は自分に都合の良い方違えの日を待っていた。急な退出であるかのように振る舞って、途中で方向が悪いと気がついた事にして、紀伊守の家に行った。 紀伊守は源氏が来たことを驚いて、先日の遣水が気に入ったから、また来られたと思い喜んでいた。小君には昼に「こうしようと思っている」と伝えていた。小君をいつもそばに呼んでいるので、紀伊守邸でもすぐに呼んだ。 先に渡しておいた空蝉への手紙にも今日の事を書いておいた。 自分のためになんとかして会いにやってくる源

          抄訳・源氏物語〜帚木 その十二〜

          抄訳・源氏物語〜帚木 その十一〜

          小君が来たので、源氏は居間に呼んだ。 「昨日は一日中おまえが来るのを待っていたのだよ。私はおまえのことを思っているのに、おまえは私と同じ気持ちでないみたいだね」 と、恨言を源氏が言うので小君は顔を赤くしていた。 「返事はどこ」と聞かれて、小君は正直に話した。 「だめだな、呆れたよ」と言って、もう一度手紙を渡した。 「おまえは知らないのだね。私はあの伊予の老人よりも先に、おまえの姉さんと親しくしていたのだよ。でも私のような若くて頼りない男よりも、あの不恰好な男を夫にしてしまった

          抄訳・源氏物語〜帚木 その十一〜

          抄訳・源氏物語〜帚木 その十〜

          家に着いてからも、源氏はなかなか寝付けなかった。 もう一度会いたい、会ってみたいという気持ちではあるが、 相手の空蝉はそれ以上に色々と悩んでいるかもしれないと考えると、 気の毒なことをしたのかもとさえ思ってしまう。 特に優れた所があったかのかと考えると、そうでもないが、 でも立ち振る舞いなど品格があって、忘れられない感じの良さがあった。 『皆が話していた中の品とはこう言うものか、色々と知ってる人の言うこと本当だったな』と、品定めの夜の話を思い出して納得していた。 最近はずっ

          抄訳・源氏物語〜帚木 その十〜

          抄訳・源氏物語〜帚木 その九〜

          鶏が鳴いた。家従たちが「寝坊をした」「早く車の用意を」などと口々に言い出した。紀伊守も起き出して、「愛人の家に方違えに来られたわけではないのに、暗いうちに帰る必要もないではありませんか」などと言っているのも聞こえる。 源氏は再びこのような機会があると思えないし、だからと言って人目を忍んでまた会いに来ることはできない。手紙を書くことも難しそうだ。どうすれば良いか悩んで胸を痛めている。そこへ奥にいた中将の君が出て来て、とても困っているので空蝉を行かせようとするが、やはり離れるのが

          抄訳・源氏物語〜帚木 その九〜

          抄訳・源氏物語〜帚木 その八〜

          「私が間違えるなんて、そんなことありません。ただ私は心のままあなたに会いにきたのに、あなたは知らない顔をされるのですね。私は他の者がするような失礼なことはしません。ただ少し私のこの気持ちを、あなたに聞いてほしいのです」 そう言って、とても小柄な空蝉を抱き上げて障子を出たところ、先程呼んでいた女房の中将の君が向こうからやってきた。 「あっ」と源氏が声を出したので、中将の君があやしく思い、手探りでその声の方に近づいて行こうとしたら、源氏の着物に薫き込められた香が一面に広がっていた

          抄訳・源氏物語〜帚木 その八〜

          抄訳・源氏物語〜帚木 その七〜

          空しいひとり寝に、源氏は落ち着いて寝られず目が冴えていた。 この部屋の北側に人のいる気配がして『ここに先程の話の空蝉がいるのか』 と関心を持ち、静かに起き上がって立ち聞きすると、先程の子供の声で 「ねぇ、どこにいるの」とかすれた声でかわいらしく言うと 「ここで横になっていますよ。お客様はもうお休みなられたのかしら。ここと近くて心配だったけど、大丈夫みたいですね」 と言う寝床からの声が、二人よく似ていたので、姉弟だとわかった。 「廂の間で寝られましたよ。噂通りのお姿を拝見できま

          抄訳・源氏物語〜帚木 その七〜

          抄訳・源氏物語〜帚木 その六〜

          「あまり急なことで」と紀伊守は迷惑がるが、源氏の家従たちは聞いてもいない。寝殿の東面を片付けてきれいに掃除をさせて、源氏の宿泊所の支度ができた。庭に引き込んだ水の流れなどが、地方官級の家としては趣味よく作られている。田舎風の柴垣があったり、庭の植え込みなどの手入れが行き届いている。風が涼しく吹き、虫の声なども聞こえて蛍が沢山飛びかっていてなかなか風流である。 源氏の家従たちは、渡殿の下にある泉を眺めながら酒を飲んでいる。源氏は紀伊守が忙しそうに自分のご馳走を用意している間、家

          抄訳・源氏物語〜帚木 その六〜

          抄訳・源氏物語〜帚木 その五〜

          やっと今日は天気も良くなった。いつまでも宮中にこもっていることもできないので、源氏は久しぶりに左大臣家に行くことにした。 左大臣家では正妻の葵上がいる。妻も家もいつもきちんとしていて隙がなく気高い。昨晩の話じゃないけど、このような女性こそが他の人たちが言う、第一条件に合う妻になるのだろうな。と思いながらも、初めて会った時と変わらなく打ち解けてくれない妻を、物足りなく思って、中納言の君や中務などの若く優れている女房たちと、冗談を言いながらくつろいでいた。 この日は暑かったので、

          抄訳・源氏物語〜帚木 その五〜

          抄訳・源氏物語〜帚木 その四〜

          「私は愚か者の話をしよう。」と頭の中将が話し出した。 「私にはこっそりと通う女がいました。最初は軽い関係を続けても良い様子だったので、そんなに長続きすると思っていなかった。だが何度か会ってるうちに、愛しい人と思うように。 たまにしか会えないのに、女の方はすっかり私を頼りにするようになってきて、流石に恨言を言ってくるだろうと思った時でも、その女は何も言わない。かなり間を空けて会いに行っても、毎日会っているかのように振る舞ってくれるので、いじらしく思えて将来の約束事などを言いたり

          抄訳・源氏物語〜帚木 その四〜

          抄訳・源氏物語〜帚木 その三〜

          こんなに掘り下げて色々と話したのだから、秘密の恋の話などをしてみようとなった。まずは、左馬頭から話し出した。 「私がまだ若く下級役人だった頃、ある女と付き合っていました。容姿が今一つであったため、彼女一人と決めることができず、ついつい浮気心でよそにも女がいたりしたのです。そのことが彼女に知れてしまい、やきもちを焼かれてひどく責められることが多かったのです。それで懲らしめるために『そんなに私を責め立てたら、どんな仲でも冷めてしまう。もう二度と会いたくない。本当は長く連れ添って、

          抄訳・源氏物語〜帚木 その三〜

          抄訳・源氏物語〜帚木 そのニ〜

          恋の上級者と言われている左馬頭の話は、 「そんなに名を知られていない家に思いがけない良い姫が育てられているのを見つけた時や、年をとった父親が太って醜かったり、兄の顔が憎たらしかったりしていると勝手にその家の姫はたいしたことがない、なんて思っていたら、思いの他気品があって、少し風流なことができたりすると、たいしたことがなくても意外や意外と思ってします。想定外は男性からすると魅力の1つになりますしね。この上なく素晴らしい女性の部類には入らないかも知れませんが、何もしないで素通りす

          抄訳・源氏物語〜帚木 そのニ〜

          抄訳・源氏物語〜帚木 その一〜

          長雨の梅雨のころ。なかなか晴れ間がない中、宮中の物忌が続いていて、 正妻の葵上がいる左大臣家に帰れなく、御所の桐壺で過ごすことが多くなっていた。 左大臣はあまり家に居付かない源氏のことを恨めしく思うことはあっても、 やはり心配な息子の一人として、着替えや新しい衣服などを用意して、自分のの息子たちに御所に届けに行かせていた。息子たちは他のどの用事よりも、源氏のいる御所の桐壺へ行くのが楽しみだった。 左大臣の息子たちの中に、葵上と同じ母から生まれた頭の中将がいる。 この中将と源

          抄訳・源氏物語〜帚木 その一〜