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抄訳・源氏物語〜帚木 その九〜

鶏が鳴いた。家従たちが「寝坊をした」「早く車の用意を」などと口々に言い出した。紀伊守も起き出して、「愛人の家に方違えに来られたわけではないのに、暗いうちに帰る必要もないではありませんか」などと言っているのも聞こえる。
源氏は再びこのような機会があると思えないし、だからと言って人目を忍んでまた会いに来ることはできない。手紙を書くことも難しそうだ。どうすれば良いか悩んで胸を痛めている。そこへ奥にいた中将の君が出て来て、とても困っているので空蝉を行かせようとするが、やはり離れるのが辛くてまた引き留めてしまう。
「どのようにしてあなたに、お便りを差し上げたらいいのですか。あなたの冷たい態度、私のあなたへの想い。今宵一夜の事を思い出として、いつまでも悲しい気持ちで私は暮らしていかなければいけないのですか」
と言って泣いている源氏の様子がまたとても優美である。
鶏もしきりに鳴くので気が急かされる。

〜つれなさを恨みもはてぬしののめに とりあへぬまで驚かすらん〜
(あなたのつれない態度が、心残りなのにもう朝が明けてしまった。
どうして鶏までもが私をあわただしく起こして、急かしてくるのか)

空蝉は自分の立場を思うと、源氏からどんなに甘い言葉で口説かれても、不釣り合いだと思ってしまって全然嬉しくない。それに普段は真面目で面白みのない嫌な男だと思っている、旦那の伊予守ことが気にかかかりで遠い地で
『この事を夢に見ているのではないか』と心配になり恐ろしいと思っていた。

〜身の憂さを嘆くにあかで明ける夜は とり重ねてぞ音もなかれける〜
(わが身の辛さを嘆いても、嘆き足りないのに夜が明けてしまった、
鶏が繰り返し鳴く声に重ねて、私も泣かずにはいられません)

みるみる明るくなって、家の内も外も騒がしくなってきた。
源氏は彼女を襖障子口まで送って彼女を見送った。『この襖を閉めてしまえば別れの時となってしまう』心細くなった源氏はその襖がニ人の仲を隔てる関のようだと思いながら閉めた。

直衣などを着て身なりを整えた源氏が、縁側の高欄によりかかり空を眺めている姿を、すのこの中央に立ててある小障子の上のわずかな隙間から、女房たちが覗き見している。源氏の美しさに見惚れている者もいた。
明け方に残る月の光が弱くなっているとは言うものの、月ははっきりと見えて、なんとも言えない曙の空である。なんの意味もない空でも、見る人の気持ちで、美しくも悲しくも見えてしまう。人に言えぬ気持ちの源氏にはとては、とても切ない空に見えていた。文を渡す手段が無いことに後ろ髪引かれる思いで家に帰った。

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源氏物語では男と女が2人きりで会って、その後に後朝の文などを送ったら、
2人の間には何かあったと思うようです。
今回は離れる時に歌を送り合っているので、何かあったのかもしれません。
どうなんだろう?はっきりと書いていないのが、いい感じですよね〜。
流行りの匂わせですか?

夜這いして落としきれなかった女性のことを源氏は心残りに思います。
これってもし、落としきれて女の方がメロメロになったらきっと源氏はここまで執着しなかったんだろうな〜って思っていたら、この後に出てくる「軒端荻」がそんな感じ。
「好き〜♡」と来られるよりも、自分の思い通りにならない、
手に入りにくそうな女性に恋をしてしまう。源氏17歳の夏ですね。

今の若者たちはこんな恋愛はしていないのかな?
ガールハント(←古すぎ)やナンパって今もあるのかな?
合コンにねるとん懐かしいです。
 

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