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抄訳・源氏物語〜帚木 その七〜

空しいひとり寝に、源氏は落ち着いて寝られず目が冴えていた。
この部屋の北側に人のいる気配がして『ここに先程の話の空蝉がいるのか』
と関心を持ち、静かに起き上がって立ち聞きすると、先程の子供の声で
「ねぇ、どこにいるの」とかすれた声でかわいらしく言うと
「ここで横になっていますよ。お客様はもうお休みなられたのかしら。ここと近くて心配だったけど、大丈夫みたいですね」
と言う寝床からの声が、二人よく似ていたので、姉弟だとわかった。
「廂の間で寝られましたよ。噂通りのお姿を拝見できました。評判通りの美しいお顔立ちでした」と小君がひそひそ声で言っている。
「昼間だったら私もこっそりと拝見できたのに」と空蝉が眠そうに言って布団を顔まで上げた。『なんだ、もう少し興味を持って聞いてくれても良いのに』と源氏は残念に思った。
「私は端に寝ます。あぁ疲れた。少し暗いな」と言いながら小君は灯心を引き出している。空蝉は障子の所から斜め向こう側に寝ているらしい。
「中将の君はどこですか。誰もいないみたいで心細くて、なんだか怖い」と言うと、遠くの方で寝ている他の女房が「先ほどお湯に入りに行きました。『すぐに戻ります』と言っていました」と言った。
皆寝静まった様子なので源氏は、そっと掛金に手を伸ばして開けてみた。すると障子が開き、向こうからは掛金されていなかった。障子口の近くに几帳が立ててあって、ほのかな灯で中を見ると衣服箱など置いてあった。
ごたごたとした中をかき分けて奥まで入って行く。
奥のところで小さな空蝉が一人で寝ていた。源氏はなんとなく気が引けたが、空蝉がかぶっている布団を引いてみた。空蝉の方はさっき呼んだ女房の中将が来たと思って安心していた。
「中将をお呼びでしたので、参りました。人知れずお慕いしていた心が通じたのですね」
と、源氏が耳元で囁いたので、空蝉はびっくりして魔物に襲われたと勘違いして、「いや」と声を出したいが、顔に源氏の着物が掛かっていて声にならなかった。
「突然だったから、私の出来心だと思われるのも致し方ないのですが、そうじゃないのです。私は前からずっとあなたをお慕いしておりました。この気持ちを知っていただきたくて、こんな機会をずっと待っていたのです。決していい加減な気持ちではなく、前世の縁が導いたと思ってください」
と、とても優しい口調で源氏が言うので、たとえ鬼神でも手荒な態度できないと思ってしまうほどだったから、はしたなく大きな声で「ここに知らない人が」と言うことができなかった。
こんな状態を空蝉は情けなく思い「人違いでござます」と小さな声で言うのがやっとであった。
消えて無くなってしまうほど震えている様子がともていじらしく可憐で、良い女だと源氏は思っていた。

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夜這いですね。平安時代は普通にあったことらしいですが、人妻にはダメでしょう。この時代でも。でもまぁ結構あったみたいですが。
ここから須磨あたりまで、源氏の恋愛の大冒険が始まります。
17歳の源氏ですので色々な恋愛に興味深々です。
でもその前に『輝く日の宮』で、初恋やプラトニックラブ的な関係、秘密の恋、そして大人の恋愛。と13歳から17歳の4年間で様々な恋を経験してきてます。でもその帖はないけれど。
で、この帚木から17歳の源氏は本気モードで女性との関係を築いていきます。
「帚木」「空蝉」「夕顔」はb系と言われる帖で後から付け足されたと言われています。
a系だけを読むと源氏の素晴らしい成功物語になるけど、
b系は源氏の失敗談的な要素が多く、足すことで物語に深みが増すそうです。
なのでマガジンにa系、b系と分けて、順番通りに読むのはc系としました。
源氏物語は奥が深すぎて闇、もしくは富士山の樹海で、調べれば調べるほど、
迷子になります。
だから、面白いのかも。

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