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同じ穴のむじな

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大学に入学し、アパートに下宿したが、「おんな」に翻弄される毎日。
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#下宿生活

同じ穴のむじな(11)来訪の女②

同じ穴のむじな(11)来訪の女②

「今日はこれつけてくれる?」
明恵の手には避妊具の包みがあった。
やはり、危ない日なのかもしれなかった。
横山尚子が以前に、排卵日のころが危険日だと教えてくれたっけ。
「危ない日なん?」
「うん、たぶん。おとといあたりから体温が高いねん」
「体温でわかるんか?」
「そうよぉ。知らんの?男の子は知らんよねぇ。はい、こっちきて着けたげよ」
おれは、勃起を揺らしながら明恵のほうににじり寄る。
ピッと袋を

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同じ穴のむじな(10)来訪の女①

同じ穴のむじな(10)来訪の女①

つぎの日曜の朝、時計を見ると十時前だった。
「よく、寝たなぁ。あぁ」
おれは万年床で伸びながら、大きくあくびをした。
備え付けの笠の歪んだサークラインが目に入る。
雨漏りだろうか、天井板にアフリカ大陸のような染みが広がっていた。
金属をこするような音を立てて京阪電車が窓の外を通り過ぎて行った。
カーテンが中途半端に開いていた。まだ梅雨が明けていないのでどんよりと曇っている。
もう三日ぐらいカーテン

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同じ穴のむじな(8)明恵(あきえ)

同じ穴のむじな(8)明恵(あきえ)

実家から小包が届いた。
下着や夏物のパジャマ、「鶴の里」という棒状の和菓子が一棹(さお)入っていた。
双鶴庵という和菓子屋の銘菓である。

手紙には、皆元気にしているとあり、「お前はどうだ?不自由はないか?」とたどたどしい母親の字が連なっていた。
おれが、電話一つよこさないことを、なじってもいた。

ここ「玉藻荘」には電話がない。
よって、小銭を用意して最寄りの電話ボックスに行って、電話をかけるこ

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同じ穴のむじな(5)おれたちの失敗

同じ穴のむじな(5)おれたちの失敗

言葉にならないような声を発した小西由紀だった。
なぜかというと「玉藻荘」に足を踏み入れた感想が、彼女の脳の理解を超えていたからではなかろうか?
汚いかといえば、さほど不潔というわけではない。
ちゃんと大家の北川さんが、毎朝、掃除に来てくれるからだ。
実は、大家の北川しのと、この玄関側の一室に部屋を借りている山村富士夫という爺さんとは愛人関係にあるらしい。
スナックのホステスをしている斜(はす)向か

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同じ穴のむじな(4)夕陽

同じ穴のむじな(4)夕陽

赤川鉄橋を貨物列車が、牛のよだれのように長々と、カタンコトンと時を刻むように進んでいく。
西日(にしび)を背にしたその光景は、この淀川端の堤防からのおなじみの景色だった。
このゴミ箱のような街にあって、唯一といってもいいほどの自慢できる景色だった。

おれは、授業が引けて、部活動もない日には、こうして堤防を歩くようにしていた。
赤川鉄橋の反対側には豊里大橋という「斜張橋」が、これまた美しい点景を添

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同じ穴のむじな(2)作家の部屋

同じ穴のむじな(2)作家の部屋

机がなかったので、天文部先輩の本田昭(あきら)さんから折りたためるデコラ天板付きの机を頂いた。
椅子も付けて…
それを本田さんのお兄さんが西三荘(にしさんそう:京阪電車門真市駅の次の駅)の実家から軽自動車で持ってきてくれたのである。
「ありがとうございます」
「いや、うちも助かってんねん。邪魔で、ほかそう(捨てよう)と思ってたとこやから」
本田さんのお兄さんもそう言ってくれたのだった。

「すごい

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