フィリップ・トルシエが語る③

2024年 3月1日(金)

今朝の景色…



〈気になる記事・後半…〉

オシムが森保ジャパンに苦言「個の力頼り問題」は解決できないのか…「ペップ、三笘薫ブライトンのデ・ゼルビはそうだ」トルシエも直言

(記事全文…)

フィリップ・トルシエ電話インタビューの第3回である。

現在の日本代表は戦略的なコレクティビティを欠いている――そうトルシエは言う。

実は同じことを、イビチャ・オシムも東京五輪準決勝・日本vsスペインの後に指摘していた。連係が欠如し、個の力に頼ったための敗北だったとオシムは苦言を呈していた。

またオシムは、別のときに「私は日本のサッカーが規律に溢れているとは思わない」とも述べている。そうであるならば、トルシエやオシムが語るコレクティビティやディシプリン(規律)と、日本人が考えているそれらの違いを踏まえたうえで、日本代表はこれからどこに向かっていくべきなのか

トルシエの言葉は続く。

トルシエが考える「3つのプレー基準」とは

――監督は明確な理念や哲学を選手に示すことで、彼らにコレクティブな戦略に基づいたプレーをさせられるわけですね。

「繰り返すが、戦略とは11人の選手が個別に考えるものではない。むしろ共通の戦略のもとで、選手はそれぞれが決断を下す。優れた選手と凡庸な選手の違いは、そこにおける決断実現するクオリティだ。

プレーには3つの基準(段階)がある。最初の基準は選手がプレーを理解すること。どういう状況にボール、チームがあるかを理解する能力だ。2つ目の基準は決断・判断だ。決断とはボールをどこにパスするか、どこを見るべきか。クロスを上げるのか、それとも一度ボールを下げるのかを選手が決めること。そして3つ目の基準は――これが最も重要だが――正確にプレーする能力だ。つまり2つの基準を実現できるだけのテクニックを備えていることだ。よく理解して正しい判断ができる。そのうえで効果的なプレーができる。以上が一連のプレーの流れだ。

日本の選手もサッカーをよく理解し、どんなときにも的確な判断ができる。そしてその判断を効果的に実現できる。それは監督が決めた範囲の中で、最善の判断ができる選手でもある。

 プレーの範囲を決めるのは監督だ。そしてそれぞれの試合には固有の範囲ストーリーがある。試合はひとつひとつ異なるし、異なる力関係の相手と対戦する。だからそれぞれの試合に固有の戦略選手構成があり、新たな真実が出てくる。昨日と今日の試合は異なるし、明日の試合とも異なる」

森保にとって個の価値が、戦略の70~80%なのだろう

―たしかにその通りです。

「監督がそれらの試合を統括する。試合に際してはビデオミーティングが必要だし、入念な準備が必要だ。どんな相手と戦うのか選手に情報を与え、適切なチームを編成する。適切な戦略を立ててコレクティブな方向性を確立する。

 それを選手に知らせる段階で、試合を開始する11人に伝えるのがプランAだ。また監督は前もってプランBも用意しておく。Aがうまくいった場合もそうでない場合も、プランBはすでに用意されている。プランBはときに3人の選手をハーフタイムに交代したり、後半30分に3人を交代することだ。監督はプランAとプランB両方に責任を持つ。そしてときにプランCも用意する。というのも選手交代は5人まで可能だからだ。

試合ではさまざまなことが起こる。レッドカードや失点など、予想がつかないことも起こりうる。それに対処し、適切な判断を下すのは選手ではない監督が試合の流れを読んで対処すべきことだ。監督はチームの状況に常に繊細に対応しなければならない。それにはチームが今どういう状況にあるのかを正確に理解する。方向性マネジメントにおいて監督が果たす役割はとても大きい。

私の場合は方向性を示すこと仕事の80%を占めている。個に依拠した戦略、選手との心理的な関係は全体の20%程度だ。森保はそうではなくて、個の価値が戦略の70~80%を占めているのだろう。コレクティブな価値は20~30%でしかなく、私とは逆だ。これをフィフティ・フィフティにする必要がある。そこまで比率を戻さないと、選手はコレクティブに働くことの意味を理解できない

―ただ、ヨーロッパ組が主力を占める現状では、練習のための時間がとれないという、難しさがあります。

「そうは言ってもアジアカップの前に時間はあっただろう。大会中もノックアウトステージまで中6日の猶予があったハズだ。それにW杯前にもまとまった時間は取れる。コレクティブな戦略を提示し、実践できない理由にはならない

少なくともフィフティ・フィフティであるべきだ

―日本の次の目標はW杯アジア予選突破であり、その先の北中米W杯ですが、それらのためにも森保は個とコレクティブの割合をフィフティ・フィフティに変える必要があるということですか。

「私はそう思う。君は言葉を正しく用いた。まさに割合(パーセンテージ)の問題で、森保は70%を選手との個の関係のために割き、彼らの個人的な能力に依拠している。コレクティブのために割いているのは20~30%に過ぎず、それでは十分とは言えない彼は選手に自由を与えて判断を委ね、選手に信頼を寄せている

しかし個のレベルで選手が納得のいくチャレンジ(モチベーションとチームへの献身)を作り出してはいないし、彼らに拠り所となるもの十分な指示を与えてはいない。そのことを森保はよく考えるべきで、選手に拠り所を示すべきだ。つまりコレクティブな中選手それぞれの役割を明確にする攻撃においても守備においても、選手はコレクティブな役割を具体的かつ明確に持たねばならないし、周囲の選手たちとの位置関係も明確にしなければならない。そうして個とコレクティブな部分とのバランスを保つべきだ。日本の場合だと、それは少なくともフィフティ・フィフティであるべきだ」

グアルディオラ、デ・ゼルビもそうだ

―あなたが語るサッカー本来の意味でのコレクティビティが、日本では正確に理解されていないように思えます。

「そうかも知れないが、それは日本だけに限らない。今日、それだけコレクティブなスタイルを実践している監督は多くはない。ペップ・グアルディオラ(マンチェスター・シティ)は数少ないひとりで、(三笘薫が所属する)ブライトンのデ・ゼルビもそうだ。他にはインテルのインザーギやトッテナムのポステコグルー、マンUの監督(エリック・テン・ハフ)もそうかも知れない。しかし彼ら以外は心理面に重きを置いていて……リバプールのクロップは森保と同じで、コレクティブよりも個を重視するタイプだ。

ベトナムにしてもよく分かってはいない。ベトナムでは違い個の力で作りだされると思われている。チームが敗れたときには『どうして彼はちゃんとプレーしなかったのか』『彼はなぜあんなに酷かったのか』と批判される。

 もちろんサポーターやメディアは、監督のようにチームの内部にはいないから、正常な反応ではある。チームの内と外はまったく異なるふたつの世界だ。だからメディアにも、コレクティブやディシプリンの理解が難しい

例えばPSGのルイス・エンリケは厳しく批判されている。彼が構築したのはコレクティブなチームで、2位に勝ち点差10(註:2月25日時点で11ポイント差)をつけてリーグ首位を走っているにもかかわらず、人々は満足していない(笑)。

 たしかにコレクティブな側面はメディアに容認されにくい。メディアが望むのは選手が個として輝くことであり、チームが輝くことであるからだ。そこには常に軋轢がある。さらにソーシャルアカウントの影響力が高まった今日では、監督の仕事はますます難しくなっている」

日本がW杯で上位に進出したいのであれば…

―そうかも知れません。

「今日の日本代表は、国際的な評価を得た選手たちで構成されている。ヨーロッパのビッグクラブに所属して豊富な経験を積み、能力的にも申し分ない。攻撃面では得点能力に長けた選手たちだ。

 だが守備面においても、選手に自信を与えるためによりコレクティブで戦略的な解答を見出すべきかもしれない。守備においてすら森保は、選手の個の能力と彼らへの信頼に依拠しているからだ。

日本がW杯で上位に進出したいのであれば、ボールを失った際のレベルの高いディシプリンが求められる。守備におけるトランジションでも、同様のディシプリンが必要だ。それらはこれから身につけていくべきことだ。守備の戦略、守備のディシプリンは生来身についてはいない。獲得のためには努力が必要だ。その部分こそが、日本が今後高めていくべきことだ。

個とコレクティブなマネジメントについては、新たなバランスを得ることが必要だ。日本がW杯で上位に進もうと思っているのであれば、コレクティブなディシプリンは絶対に必要だ

―アジア杯の戦いぶりからコレクティブの解釈など、とても面白かったです。メルシー、フィリップ。

👉トルシエさんいわく…

優れた選手のプレーには3つの基準があるという…。

  1. 選手が試合におけるある程度基本となるひと通りのプレーをしっかりと理解していること…。

  2. そしてその試合におけるそれぞれの基本的なシチュエーションに対して、それぞれ適切な判断をしてそのプレーを決断すること…。

  3. そして最も重要なのは、その理解の中で適切な判断・決断をしたそのプレーを、実際に効果的に実現させるための技術的そして肉体的な能力(テクニック&フィジカル)…。

これら3つがちゃんと備わっていて初めて、そのプロとしての仕事が人並み以上に果たせます…。

そして…
今の日本代表に選ばれているほとんどの選手たちには、もう既にその能力が備わっていて、そういう選手たちがたくさん揃って集まっていると…。

そんな人並み以上の個人的能力を持ち合わせた選手たちが集まっているからこそ、ある程度のレベルの相手には、その選手たちだけの個人的な能力でも難なく戦える…。

ただ…
それなりのレベルの高い相手や…
日本代表チームの特徴を研究分析して対策して来る相手には、その個人的な能力だけでなく、それに対抗するだけのチームとしての戦略・作戦が必要になって来ると…。

そして今…
選手たちはみんな“そこ”を望んでいるのだと…。

そしてその選手たちが望んでいるところを提示出来るのは、やはり監督コーチングスタッフ陣しかいません…。
特にその守備面に対しては、そのチームとしての「決まりごと」であるコレクティブの比重を高めなければ、絶対的にその個々人の選手たちの判断だけでは到底守り切れないというレベルにまで来ています…。

もしそれ以上のレベルを目指すのであれば…
もし世界のベスト8以上のレベルに食い込もうと思うのであれば…
その部分をもっと高めて行くしかない…。
その部分にもっと比重をおいて、その部分に取り組まなければ、そのベスト8の壁は乗り越えられない…。
ましてや優勝を目指すというのであれば尚のこと…

もし今…
トルシエさんが今の日本代表チームを指揮するとしたら、その比率は「個の力を20%」の「コレクティブが80%」で指揮するとのこと…。

ただ例え個を重視する森保監督であったとしても…
少なくともそれを「個の力50%」に「コレクティブ50%」の半々にして行かなければ、そのベスト8のレベルには到達出来ないであろう…。
そうトルシエさんは仰っています…。

今後そこにしっかりと取り組んで行き、そのコレクティブの比重を上げて行く方向に進むのであれば、もちろんこのままの「森保体制」でも十分にそのベスト8以上の可能性はあるかもしれません…。
それだけの能力を持ち合わせた選手たちは既に揃っています…。
あとはその選手たちに、その「戦略的なコレクティブ」が加われば、もしかしたらもしかします…。

そこのところに注目して…
今後のアジアワールドカップ予選での日本代表チームの変化とその戦いぶりを見守って行きましょう…。

ということで…
最後に改めて…
つい最近出て来た守田選手ヘの最新のインタビュー記事がありましたのでご紹介します…。

《独占告白》守田英正がアジアカップ後の“発言”で本当に伝えたかったこと「言うなら僕しかいないと思っていた」「悪役のつもりは微塵もない」

(記事本文抜粋…)

しっかりとした“本物の軸”をつくるべき

―森保監督は選手から意見を吸い上げるボトムアップ型マネジメントを行っています。どんなメリットを感じていますか?

「選手ミーティングで出た意見を監督へ上げたときに汲み取ってくれて、チームとしてすぐ対応できるのが、森保さんのボトムアップの良い部分だと思います。まさにそれがカタールW杯で出ましたよね。チームとしてフレキシブルに振る舞えるので、短期の順応に優れている。森保さんだからこそできてる部分だと肯定的に思っています。

でも、長期的にチームを積み重ねていくとなると、やっぱり軸が必要だと思います。軸が安定しないと、積み重ねをしづらい。ボトムアップだとアーセナルやブライトンのやり方を取り込めるのでいいという意見があり、実際に今それをやれていると思う。けれど、太い幹がないと、付け加える枝の数に限界がありますよね。しっかりとした本物の軸をつくるべきだと思っています

守備が苦手なことは対戦国にバレている

―どんな部分で軸が欠けていますか?

「一番やらなくちゃいけないのは守備だと思います。日本は選手が個人として真面目に頑張るけれど、チームとしての守備が苦手なことは対戦国にもうバレている。例えば相手が可変で3バックにしたり、最初から3バックで来たりしたときに、選手たちから露骨に苦手意識が出ていると思う。相手が弱いとごまかせていますが、今のところ3バックに対してはマンツーマン気味に守るやり方しかチームとして持てていない。

イラン戦もそうでした。両センターバックが大きくサイドに開いて、GKを使ってビルドアップしてきたため、日本側はプレスをかける人数が合わなくなってしまったんです。ボール保持者に圧力がかからず、好きな形で放り込まれてしまった」

―イラン戦ではロングボールの出どころを潰して欲しかったわけですね。

「前の選手はきつい中、本当に前半からよく走ってくれました。人数が全然合わない中で(久保)建英と綺世の2人だけで行ったり、(前田)大然が頑張って下がってくれたり、個人の能力や頑張りで抑えていた。けれどそのやり方だと後半は疲れが出てくるし、メンバーが代わると役割が変わって、守備のやり方も変わってくる。出る選手ごとに戦い方が変わるのはチームの決め事が少ないからです。

おそらく監督やスタッフは、僕たちがピッチ内で修正できるだけの力があると信じてくれていると思うんですが、選手というのはコンディションや怪我、そのときの調子によってどうしてもがある。そうすると再現性のある戦い方をできない。

そのため、いいときはすごくいいけど、悪いときは崩壊に近い形になってしまう。常に勝つチームにするにはやはり、人に依らない決め事が必要だと思います。代表はクラブとは違うという声をよく聞きますが、スポルティングは中2日で試合があるときも、しっかり次の対戦相手を分析したミーティングを開き、相手に合わせた戦術練習をする。もちろん代表の方が時間がないのは間違いありませんが、それでも一定の決め事作りに取り組めるとは思っています」

僕は以前からW杯優勝を公言している

――森保監督はW杯優勝を目標に掲げています。それについては?

今のままだと程遠いと思っています。そう思っているからこそ、今回発言しました。僕は以前からW杯優勝を公言しているのでね。軸や決め事をいち早く作って、その上でボトムアップ型の良い部分、選手の視点や考え方を入れてチームをつくるのがいいのかなと。その両輪が機能すれば、次のW杯で間違いなくベスト8以上に行けると思います。前回W杯に出て感じたのはベスト16とベスト8の差がとてつもなく大きいということ。ベスト16まではダークホースも行けますが、ベスト8は優勝を狙えるチームでなければ行けない。裏を返せば、ベスト8に行ければ自ずと優勝が見えてきます」

👉どうでしょうか…。

まさにフィリップ・トルシエが語っているその部分そのものだと思います…。

選手たちはそれをみんな望んでいます…。

それを意を決して今回は守田選手が声に出して発したというところだと思います…。

その選手たちを代表したこの守田選手の声に、果たして森保監督を先頭としたコーチングスタッフ陣が受けとめ…受け入れ…そしてその方向に向かうのかどうか…。

そこが今後の最も重要な鍵となって来そうです…。

そこに注目ですね…

前半の〈守田選手の過去記事〉はこちらから…


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