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思い出の中の彼

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かつての恋人について
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影に思いを馳せること

影に思いを馳せること

彼のことを思い出す度、不思議な人だったなぁと思う。

伏せ目がちで、どこか人を恐れていて。厭世家のように振る舞って、人を嫌っていて。長い前髪に隠れた黒い目は全てを拒絶するような色が宿っていて。

だけれど、私に時折見せる不器用な微笑みが私は好きだった。2人きりの時は耳がくすぐったくなるような、少し気を許した優しい声で話してくれるのが嬉しかった。

私はそんな貴方に惹かれた。

以下はその記録。

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『優しくしないで』と彼は言った

『優しくしないで』と彼は言った

何かから目を背けるように。言った。

その何かが何だったのかずっと考えている。

手順を追ってその何かについて思索する。

まず、『どうして優しさを拒むのだろう。』と不思議に思ったということが問題としてある。

実はその問いの前提を疑ってみれば、その不思議さは解消される。前提として『優しさは受け取るべきもので、またそうするのが自然で普通の事だ』と無意識のうちに認識している私の偏見があるのだ。

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あなたに会いたくなる夜は冷えます

あなたに会いたくなる夜は冷えます

瞼を開くと夜の闇は依然として寝室を覆っていた。枕元の置き時計は無情にも午前3時前を指していた。

またか、と思った同時に溜め息が漏れた。数日、寝付けない日と眠れない日が続いていた。

布団から出た顔の肌越しに刺さる空気に外の気温を知る。底冷えのする11月の夜だった。

ブラインドの隙間からは遠くの商業施設群の明かりがいくつか、ぼんやりと丸い形をして光っているのが見えた。

まるでいつかあなたと見た

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花韮と、思い出の人と、かなしみ

花韮と、思い出の人と、かなしみ

一人の静けさが沁みるこんな夜には、思い出される花がある。

その花を初めて見たのは高校一年の頃だと記憶している。

学年末の定期考査(懐かしい響きだね)期間中の早めの帰宅。最寄の駅前の大通りを少し歩けば、白に薄いベージュを数滴混ぜたような色の壁をした家が見えてくる。洋風の門構えの向こう側に覗いた木製のドアの引き締まったような焦茶色が、その壁色に寄り添いつつも個性を醸し出していて良いアクセントになっ

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収まりのいい入れ物

収まりのいい入れ物


幼少期からの癖
昔から片付け紛いの行為が好きだった。床に散らばる物を集めて一箇所に纏めて整えると、散らされていた意識さえも整う感じがして快感だった。神経過敏な私にとっては気が散らないことが自身の存在を脅かさないためには重要だったようだ。それはある意味、気が散らなければそれで良い訳で、一箇所に纏めた物の全体としての見た目が良ければそれだけで私が求める片付けの基準は満たされる。その基準は人より大分と

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あなたがそこに立っている、流れる群衆の絶え間無さに、一人、浮かび上がるようにして