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影に思いを馳せること
彼のことを思い出す度、不思議な人だったなぁと思う。
伏せ目がちで、どこか人を恐れていて。厭世家のように振る舞って、人を嫌っていて。長い前髪に隠れた黒い目は全てを拒絶するような色が宿っていて。
だけれど、私に時折見せる不器用な微笑みが私は好きだった。2人きりの時は耳がくすぐったくなるような、少し気を許した優しい声で話してくれるのが嬉しかった。
私はそんな貴方に惹かれた。
以下はその記録。
あなたに会いたくなる夜は冷えます
瞼を開くと夜の闇は依然として寝室を覆っていた。枕元の置き時計は無情にも午前3時前を指していた。
またか、と思った同時に溜め息が漏れた。数日、寝付けない日と眠れない日が続いていた。
布団から出た顔の肌越しに刺さる空気に外の気温を知る。底冷えのする11月の夜だった。
ブラインドの隙間からは遠くの商業施設群の明かりがいくつか、ぼんやりと丸い形をして光っているのが見えた。
まるでいつかあなたと見た