かささぎ

喪失と向き合う日々。

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    かつての恋人について

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    いつか無くなってしまう思いを託しました。

  • 街への思いと、街での出会いについて。

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あなたに会いたくなる夜は冷えます

瞼を開くと夜の闇は依然として寝室を覆っていた。枕元の置き時計は無情にも午前3時前を指していた。 またか、と思った同時に溜め息が漏れた。数日、寝付けない日と眠れない日が続いていた。 布団から出た顔の肌越しに刺さる空気に外の気温を知る。底冷えのする11月の夜だった。 ブラインドの隙間からは遠くの商業施設群の明かりがいくつか、ぼんやりと丸い形をして光っているのが見えた。 まるでいつかあなたと見たクリスマスのイルミネーションみたいだと思った。だけれどすぐに、その例えにしてはそ

    • あなたがそこに立っている、流れる群衆の絶え間無さに、一人、浮かび上がるようにして

      • ふらりと立ち寄ったガーデニングショップにて、かすみ草が一年草であることを知る。それもそうかと妙に納得した。美しさと儚さは同値だし。 ある方が春になると頭がおかしくなると書いていたのを思い出す。面白いものだと思う。私は特に春に思い入れがない。ただ強いられることが春には多いと毎年思う。 始めさせられた新生活は面倒だし、何か始めないといけない気にさせられるし、何故かもたらされてしまう期待と希望はうざったいし。あと桜を見にいかなくてはという気にさせられるし、桜を見れば彼のことが思い

        • 冷気

          自分は何も持っていない。何か一つぐらい与えてくれてもよかった!と浴室で熱い涙が溢れそうになるのを堪えるくらい、自分の存在の矮小さと世界の不条理について大真面目に考えていた時期は遠く昔と言える程遠くは無く、認めるのが憚られる程近い訳でも無い。ただ最近久しぶりにそんな熱い思いを一瞬だけど抱いた。例の如く一呼吸の間にその熱は失われてしまった訳ですが。 置かれている状況を俯瞰して見ては生じている問題がどうでも良くその困難ささえも大したことと思えなくなってしまうくらい達観してしまった

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        記事

          薄暮の彼方へ

          ベランダに折り畳み式の木製チェアを置いていて、休日によくそこに座っていると、緩慢な時の流れが感じられる。まさに今がそう。⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎子羊みたいな雲が一つだけ斜め右上に浮かんでいるのが見える。⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎その雲を少しずつ左へ押し進めるような微風も向こうにはあるみたい。⬜︎そんなことを思っていると、気分がちょっと良くなってくる。 ⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎ 私には今日みたいな、頬が少し冷たくなるような肌寒い日が丁度良かったりする。平日に俗世で酷使

          薄暮の彼方へ

          収まりのいい入れ物

          幼少期からの癖 昔から片付け紛いの行為が好きだった。床に散らばる物を集めて一箇所に纏めて整えると、散らされていた意識さえも整う感じがして快感だった。神経過敏な私にとっては気が散らないことが自身の存在を脅かさないためには重要だったようだ。それはある意味、気が散らなければそれで良い訳で、一箇所に纏めた物の全体としての見た目が良ければそれだけで私が求める片付けの基準は満たされる。その基準は人より大分と低いはずなので、私は自分の片付けと呼ぶ行為は紛い物だろうなと小さい頃から薄々感じ

          収まりのいい入れ物

          収まりのいい入れ物みっけ 「元気かな」あえてつぶやき懐かしむ

          収まりのいい入れ物みっけ 「元気かな」あえてつぶやき懐かしむ

          生きるとは

          湿った道の上を一生歩き続けているが、この陰鬱なトンネルの先は見えない。おまけにここらは嗅いだことのない様な嫌な匂いがする。塩素系漂白剤と真夏の太陽に晒された生ゴミを混ぜた様な匂いである。最もそんな物を嗅いだことは無いのであるが。道には窪んだ穴が所々に空いており、穴並々に溜まった泥水に浮かぶ様にして深い緑の苔が繁茂している。それらに足を引っ掛けないようにしながら前へと進むには、目を閉じるわけにはいかないのもまたこのトンネルの陰鬱さを助長する。僕が道の先に黒く鈍く光る泥水らしきも

          生きるとは

          わたし的『詩的な感覚とその表現』

          思い出す度に何度も味わう「失敗の記憶の苦さ」を、「手に残り続けるチョークのざらつき」に喩えること。 「もう会えないけれど私を支えてくれる人の思い出」を、「秋の終わりの海辺で灯る静かな火」みたいだと思うこと。 浴室にて「掌からぽとぽとと零れ落ちてゆく水の粒」が、「失われてゆく人の記憶」みたいに見えたこと。 「今日は寒いねとあなたが言い終わったら、私を泣かせる十分前だね。」なんてその未来から過去を回想してみること。 「ふと思い出した昔の小さな幸せの記憶」を、「実家の古い文

          わたし的『詩的な感覚とその表現』

          燻んだnovelty #2

          #1はこちら。町と街とマチの捉え方とそれに対する私の思いについて。 少し前、こんなつぶやきをした。 novelty。真新しさ。 知らない物や人、理解が追いつかない価値観や態度との直面。その度私という存在が外の世界へ晒し出される。引き摺り出される。外の世界の波に私は削られ、洗われ、磨かれ、自己を私は形成しその形を理解していく。街はそんな自己を変えるnovelty に溢れていて、人生においていくつかの価値ある愛すべき体験をもたらす。 そんな理想を描いて私は街に来た。何か目

          燻んだnovelty #2

          燻んだnovelty #1

          私は街が好きです。 都会は高層ビルの樹林。その樹の隙間を縫うようにして人が行き交う。道ですれ違う人各々が何か思って生きているのだろうと街は感じさせる。それは街が人と人との交差点として機能している証だといつも思う。 街というこの字を書けば、誰もが都会を想起する。町と街の違いは田舎にあるマチか、都会にあるマチかの違いだと遠く昔からなんとなく私の中では一つの常識として認識していた。(どうしてだろう?そう教わったのか、その用法から意味を推測したのか?) その違いをもう少し深く調

          燻んだnovelty #1

          上京三年目、燻んだnoveltyそり立つ街を歩く

          上京三年目、燻んだnoveltyそり立つ街を歩く

          ちらついて触れては解けて滲みてもいつかの朝の枕辺に見る

          ちらついて触れては解けて滲みてもいつかの朝の枕辺に見る

          花韮と、思い出の人と、かなしみ

          一人の静けさが沁みるこんな夜には、思い出される花がある。 その花を初めて見たのは高校一年の頃だと記憶している。 学年末の定期考査(懐かしい響きだね)期間中の早めの帰宅。最寄の駅前の大通りを少し歩けば、白に薄いベージュを数滴混ぜたような色の壁をした家が見えてくる。洋風の門構えの向こう側に覗いた木製のドアの引き締まったような焦茶色が、その壁色に寄り添いつつも個性を醸し出していて良いアクセントになっているなぁといつも思っていたことを思い出した。そういえば高校生の私はこの家のこと

          花韮と、思い出の人と、かなしみ

          『優しくしないで』と彼は言った

          何かから目を背けるように。言った。 その何かが何だったのかずっと考えている。 手順を追ってその何かについて思索する。 まず、『どうして優しさを拒むのだろう。』と不思議に思ったということが問題としてある。 実はその問いの前提を疑ってみれば、その不思議さは解消される。前提として『優しさは受け取るべきもので、またそうするのが自然で普通の事だ』と無意識のうちに認識している私の偏見があるのだ。 その私の偏見は、常識としても受け入れられていると思う。(私の偏見が常識と一致した瞬

          『優しくしないで』と彼は言った

          影に思いを馳せること

          彼のことを思い出す度、不思議な人だったなぁと思う。 伏せ目がちで、どこか人を恐れていて。厭世家のように振る舞って、人を嫌っていて。長い前髪に隠れた黒い目は全てを拒絶するような色が宿っていて。 だけれど、私に時折見せる不器用な微笑みが私は好きだった。2人きりの時は耳がくすぐったくなるような、少し気を許した優しい声で話してくれるのが嬉しかった。 私はそんな貴方に惹かれた。 以下はその記録。 2月  彼は週末は私の家に泊まりに来て、2人で過ごした。そんな日々がこの2月で

          影に思いを馳せること