『お父さん』になっていく
僕は数年前にお父さんになった。でも、僕の中に『お父さん』は、いない。
実のお父さんというのは、戸籍上も生物学上も実在するし健在だけど、物心つく前に両親は離婚していて、その存在はどうしようもなく希薄だ。一緒に暮らしていた記憶もない。言ってしまえば、赤の他人のそれと変わらない。だから僕の辞書の『お父さん』は空白のままだった。
「お父さん」
と、子供の通う幼稚園で名前も知らない年少さんの男の子に声をかけられた。その「お父さん」はきっと、その子供のお父さんを指しているのだと思う。