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君が気付いた笑顔の力に

努力しても頑張っても報われない。そんなことは生きていれば山のようにある。いちいち深く悩んでいては時間が足りない。

ただ、自身のアイデンティティに関わるほど重要な問題であったならば、それが簡単に解消されたり望みが叶う魔法のアイテムが目の前にあったなら、手を伸ばしたくなる気持ち、私はわかる。


現代を生きる私達において、その魔法のアイテムが欲しくなる状態は、いろんなものに置き換えて考えることが出来る。

まず健康や身体の事がそうだろう。メガネや車椅子、先天的な事に対応するための医薬品や整形手術なんかも広い意味ではこのうちだ。これらが無い時代にはとても生きていけなかったと思う人もいれば、あって初めて“人並”になれると感じる人もいるかもしれない。

お金だってそうだろう。お金さえあればなんだって出来ると考える人は多いし、みんなそれを得るために努力したり苦労したりしているのが現代社会だ。

名声もそうだろう。人気者になることや影響力を持つこと。本当の自分以上に肥大していく周囲から認識されるそれは怪物と言って差し支えないはずなのに、その凶暴性に目をつむったまま追いすがる。

人間関係もきっとそうだ。恋人友達伴侶に親子……その枠の中の個人ではなくて、その枠自体に価値があると感じてしまうならば、それはアイテムになってしまう。


どうしても上手く出来ない。自分を信じることに疲れ果ててしまって、周りが見えなくなって、自分のことしか考えられなくなって、どんどん塞ぎ込んでしまって、どうにもならなくて、もがいてもがいて足掻いてみても、やっぱりどうにもならなくて、悲しみに暮れる気持ちを打ち明けることもできず、当然寄り添ってくれる人は現れず。

だから君が、鬱々とした思いをあざ笑うかのような祭りの気配に、心を痛めてしまうのも魔が差してしまうのも、魔法のアイテムにすがる気持ちも、私はわかるよ。それがたとえ呪いのアイテムになることがわかっていてもね。


そんな君の前に現れたのは、君ととってもよく似た、でも全然似ていない脳天気な少年だったね。

弱っちいのに口達者。根拠のない自信と過大評価。空回りする努力。幼さゆえの浅慮と勇敢を夢見る無謀さ。その少年を形容するならざっとこんんな感じだろう。でもね、その少年は誰にも負けない強い意志を持っている。絶対に諦めないし、困っている人なら助けたいし、相手がどんなに強大でも立ち向かう、そんな強さを持っている。その点に関しては、丸顔のみんなのヒーローに劣らないと私は思うよ。

似ている境遇と似ていない心。似ているからこそ反発するし、似ていないからこそ感化される。君と少年とが織りなす――友情が不在だからこそ自分の力で殻を破れた――有情物語に、キッズに囲まれた劇場で私はただ一人、涙を流したというわけさ。


君が最後に殻を破った、誰かを笑顔にしたいという熱い思いが、強さや願いを叶える力に繋がっていると私には感じられたし、同意できる。そのパワーの前には、どんな魔法のアイテムも敵わないのかもしれないね。


映画感想文
『それいけ!アンパンマン ドロリンとバケ〜るカーニバル』


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