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金利が上がらないのを祈ること

時事ネタを最近全く書いていない気がして思いたって書いてみる。結局エッセイになったけど。
(別にシリーズではないけど『〜こと』というタイトルは気に入っている)


今月頭に、年上のシングルマザーの部下から、家を買おうと思っているので助言下さい、と申し出があった。ちなみに私はファイナンシャルプランナーでも宅建免許を持っているわけでもない、畑違いのしがないサラリーマンである。


直近のニュースで大手銀行数社の住宅ローンの固定金利が上がるというのは見出しだけは読んでいたし、そういう流れなのは知っている。まさに今、住宅ローンを返済中の私からすればこのニュースに関心を寄せない道理はない。私の場合は変動金利でローンを組んでいるが、現実的な範囲の最悪の場合を想定しても返済可能であることを前提に購入を決めたので、現状問題はない。が、それでも多少の不安はよぎる。それくらい慎重に考える必要があるのが住宅ローンというものだ、と思っている。

そんな中、彼女はローンを組んで家を買いたいというのだ。ちなみに、何故私に相談するのかというと、身近に家を買っていてなおかつ知識があり(そうで)相談しやすそうな人が私だったかららしい、光栄なことだが荷が重い。一生で一番高価な買い物に付き合わされるのだ。責任は持てないぞ。


購入検討中なのは中古マンションらしく、物件情報を渡され眺める。悪くはないがちょっと気になる点がいくつかある。突っ込みたいけど、内覧も済まして子供も気に入っていると言うし……それよりも、何故家を買いたいのかを聞いてみた。

曰く、
・ずっと賃貸だから、終の住処にする予定
・今の家賃と月の支払いが同額
・将来、今小学生の子供にプレゼントにもなる
・今買わないと、諸々の事情で一生買えない
・あかんかったら貸し出す(好立地)なため
・それでもあかんかったら売る(好立地)なため
・それでもあかんかったら自己破産したらいい
というのが理由らしい。まあ、本当は理由なんてなんでもいいんだけど、とりあえず一番下のはやめとこうね。

少子化で家が余るとか、今後も住宅価格は上がるとか、主語が大きすぎる話は正直分からんし考えてもしょうがないから放り投げて、まずはローンを払えるかどうかだけ考えようね。


なんというか、彼女の給料は人件費という意味合いで私は把握しているんですよね。その金額のローンをして、月々の支払いが今の家賃(実際の額を聞いた)と同額ということは、可処分所得から返済額を差し引いた生活費は○万円くらいですかね、貯金は(今でも)厳しそう。ローンの返済を今の金利でざっくり計算すると返済期間は30年以上が確定で、完済は早くても70歳ころで、お子さんも40歳くらいになりますよね。と、無感情で計算していく。

月々の収支計算を見せてもらった。
・固定資産税を計算に入れていない
・住宅の保険料を計算に入れていない
・変動金利の今の安いものでしか計算していない
・子供のライフステージの変化を想定していない
 (具体的には大学進学とか結婚とか)
・自分の給与の上昇見込みが薄いことと
 昨今の物価上昇を勘案していない
(残念なことに、弊社の給料は上がらない!)

ちなみに貯金は諸費用等でほぼ無くなるらしい。

んーんーーんーーーー。


やめとけ!


と、言いかけてぐっとこらえた。

ローンの仮審査も通ったらしく、あとは本契約を進めるだけという段階までトントン拍子に話が進んでいるらしい。不動産屋も売りたいんだろう。

壁紙を統一して、玄関は大理石にして、ベランダには植木をたくさん置いて(規約違反)、子供が巣立ったらペットを飼って(規約違反)、とニコニコしながら語る彼女を前にして、私は何も言わなかった。
(さらっと書いてますけど、めちゃくちゃ悩みました。「言えない」だと私が後悔しそうなので、なんとか彼女を信じて「言わない」にまでもっていきました。)

子供が高校生になったらバイトして家にお金入れてくれるって言ってるのが嬉しい、とも言っていた。

キツかったら毎月の貯金額を減らしたり、多少なら生活の質を落としても構わないと言っていた。

そうか。
節約したり日々の生活を削ってでも、というのは好きにしてくれていいんだ。私が一番、気がかりなのは子供なんだ。

子供の自由を制限しすぎることにならないか。

同じく母子家庭で育った身からすれば、親のために稼ごうという思いを抱く彼女の子供の気持ちは良く分かる。でもその思いはふとした時に枷に感じてしまうことがあるのも知っている。よく知っている。

幸せになるために買う家が、不幸の象徴として捉えられないかが心配なんだ。子供の自由を奪う牢獄にならないかが心配なんだ。写真の中で無邪気に笑うこの子の顔が翳らないかが心配なんだ。



神様、仏様、日銀総裁様。どうか、彼女の子供のためにしばらくは金利を上げないでください。

金利を上げなければどうなるか、なんて高度な経済学を私は知らない。でもだからこそ、こう思わずにはいられないのだ。

今日が契約締結日だと言っていた。明日の彼女の顔はきっと晴れやかだろう。それがいつまでも続いてほしい。


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