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国道脇の歩道を歩く。左手には葛のフェンスが続いている。道路の反対側に並ぶ家と家の間に海が見える。金網を乗り越えて、垂れ下がる葛の葉叢を風が撫でて行く。風の去った先に、ふっと母の微笑む顔が現れて消えた。


丘の斜面を葛が這い登って行く。緩やかにカーブしながら上行するアスファルト道路の、ガード柵の白いパイプの間から、若葉を従えた葛の蔓先が幾つも覗いている。麓の畑で草取りをしている祖母の記憶が蘇ってくる。


山間の作業小屋の外に、夥しい数の葛の葉に覆われて、墳墓のように盛り上がった場所がある。濃緑色の闇の中に、鉄骨混じりのコンクリート塊や廃材や、錆びた機械部品等が埋もれている。森で父の働く気配がした。


ネムノキが葛に取り付かれている。天辺まで覆い尽くした葛の葉は、隣りのモチノキにまで広がる勢いだ。あちこちの葉陰から、長い花茎が斜めに突き出し、赤紫色の花を咲かせている。嫁いで行った姉の着物の柄のようだ。


中低木をがんじ搦めに緊縛して、河川敷を葛が制圧している。運動場よりも広くてぶ厚い緑のカーペットの下で、植物群落がじっと息を潜めている。滴り落ちて来る僅かな光を測定しているのは、農業技師だった兄だろうか。


葛の茂みの中には、ゾウムシやカメムシや、クズノチビタマムシなど、いろんな虫がいる。バッタが飛び跳ね、暗い地面をヘビやムカデが這っている。ネコが走り込み、イヌが鼻を突っ込む。時には私もいる。


海辺の廃工場の破れたトタン塀の下から、地面を匍匐し、侵入して来る葛の蔓。採石場跡の廃電柱に、枯れた葛の葉が大きな塊を作り、風に吹かれてカサカサ音を立てていることもある。いつか飛び去って行った、鳥の家族の巣跡のように。






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