横綱タカ乃花子錦さんの夢《Dream Diary 35》
xxxx年/06/03(x)
私はどこか分からない所へ向けて旅をしていた。いったいどこへ? どこか分からない所へ。それじゃあ何も分からない。だから分からない所と言っている。その分からない所と言うのはいったいどこなんだ? 決まってるじゃないかどこか分からない所だ。だからそれどこなの? だから分からない所だ。はあ?? あんたも分からない奴だな。何おぅ!分からない奴はいったいどっちなんだ! あんただよ。な、何おぅ!そもそもあんたが分からない所へ旅してると言ったんじゃないか。いや、だからね、私が分からないということがあんたが分からないということがそもそも私にはさっぱり分からない。ななな何おぅ!? 「まあまあお二人ともそう興奮なさらずに」と言って傍らにいた横綱タカ乃花子錦さんが仲裁に入って来た。「人は分からない所と聞いて、それはいったいどんな所なんだろうと、様々な場所を想像なさることでしょう。これについては人それぞれで千差万別、つまり多様性を本質としており、原理的に共通了解の成立が難しい意識の内在領域だと言えます。しかしながら、なんだか分からないが兎に角どこか分からない所であるらしいということそれ自体、これについては互いに意を尽くして話し合えば、私達は必ずや間主観的な共通了解を成立させることが出来る筈です」。土俵の上の横綱タカ乃花子錦さんはそう言って、蹲踞の姿勢で行司から勝ち名乗りを受けると、右手で左・右・真ん中の手刀を素早く切り、懸賞袋をサッと受け取った。ううむなるほど。それは言えてますな。長旅をしていたら、時には争い事に巻き込まれることもあるかも知れないが、横綱タカ乃花子錦さんがいてくれるなら安心だ。「これからガブリ寄りと浴びせ倒し、それとうっちゃりの反復稽古をしたいのですが、稽古相手になっていただけないか知ら?」。横綱タカ乃花子錦さんが頼んできたので、それだけは御免ですと私は断った。同時に、かつて所属していた大学の軽音楽サークルのことを思い出した。パンクバンドのボーカル&ギターをやっていた後輩が、私と二人きりの時、甲子園に出場していたトーカイ大相模高校は、トーカイ大相撲高校だと信じていたと告白した。よく打ち明けてくれた。辛かったろう。と思ったら目が覚めた。
*ヘッダ画像:Artwork by Jim Woodring
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