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2024年2月6日 「ヨルガオ殺人事件上」感想 ネタバレあり


Audibleで、アンソニー・ホロヴィッツの「ヨルガオ殺人事件 上」を聞き終わりました。
今回も非常に面白く、ワクワクしながら聞いています。
下巻まで聞いてから感想をと思っていたのですが、
まだ上巻のみの時点で感想を残しておくのも面白いかと思い、書いてみました。
大きなネタバレはないと思いますが、
(まだ推理らしい推理は始まっていないため)
ネタバレを嫌う方は、ここでブラウザバックしてください。

運動しながら、家事をしながら聞くのには、
考えながら聞く必要があるノンフィクション科学読み物より、聞き流せるミステリの方が気楽ではありますね。
ミステリ万歳!


帰ってきたスーザン

カササギ殺人事件の謎は解いたものの
犯人に殺されかけ、会社が灰燼に帰した主人公、スーザンが戻ってきました。
お帰り、スーザン。
ヨルガオ殺人事件の冒頭は、ギリシャのとある島から始まります。
小説の中で経過した時間は2年。
あんな衝撃的な事件に出くわし、2年も過ぎていたらスーザンも少しは変化しているだろうと思いましたが
あいかわらずです。
スーザンは決して悪い人間ではないし、推理力もあるのですが
どこかちょっと「読みが甘い」です。
ギリシャ人の長年の婚約者がいながら、男性の家に泊まるとか
どう考えても怪しい仕事の依頼をすんなり受けてしまうとか
探偵ではもちろんなく、その上編集者でもない、元編集者であるのに
捜査を始めてしまうとか
「甘さ」が目立ちます。
まぁでもこの「甘さ」こそが彼女がこのシリーズの探偵であることの利点なのかもしれません。
それくらい読みが甘くないとそもそもあんな厄介な作家がらみの事件に首を突っ込むわけはないですからね。

心配性である、人間としては
やや理解しにくいキャラクター、それがスーザンです。
もちろん、ホロヴィッツはスーザンが探偵業を引き受けざるをえない理屈をきちんとつけており、
矛盾はないといえば、ないのですが、
それでも、前作であんな体験をした割にはうかつな気がします。
またなんだかんだ言って、編集者であった頃の栄華を忘れられていないような描写が多く。
鼻持ちならない人間だなぁと思いながら聞いています。
友達にはなりたくはないかも、と2作目でも思います。
今回も読み手の上品なお声のおかげで補正がかかっているのと
今回は出てくる登場人物のほとんどがスーザン・ライランドに苛立ち
敵意を向けてくるので
さほどイラつかずに読めています。
しかし、どうしてあんなに皆に敵意を向けられているのかはまだ上巻ではわかりません。
アティカス・ピュントシリーズのせいだけなのでしょうか。

ホロヴィッツお得意の怪しい登場人物

今作では、
スーザンは8年前にあった殺人事件と
それと関連したと思われる失踪事件の解決に奔走する(報酬有り)ことになります。
またしても、登場する人物、皆が怪しく、秘密を持っています。
8年前に殺害されたのはオーストアラリア帰りでゲイの広告マン、事件の解決を依頼してきたのはホテルの元経営者夫婦、現経営者で経理を担当する冷たい姉、現経営者で失踪した妹、人当たりと見てくれはいいその夫、外国籍の乳母、人付き合いの苦手な夜間勤務担当者、口さがないジムトレーナー、8年前の事件の犯人としてすでに逮捕されている東欧の青年、ホテルの近くに住む広告マンの親戚夫婦など。多彩な登場人物が出てきます。
どの人物も事件の犯人になり得そうな、キャラクターです。
ホロヴィッツの作品は、犯人当てが醍醐味です。
ああでもない、こうでもないと聞きながら、考えている時が最も至福の時です。
ひとつの事件というより、小さなトラブルが絡み合って大きな事件になったということなのでは?と現在のところ考えています。

アティカス・ピュントシリーズが面白い


スーザンは、
警察官のように権限があるわけでもなく
探偵のように経験があるわけでもありませんが、
先にあげた事件に関連する登場人物に話を聞いてまわる…というのが上巻のあらすじです。
また、依頼者から「アティカス・ピュントシリーズの『愚行の代償』にヒントがあると思う」といわれ、自身が編集を担当した本を読み直すことになります。
アティカス・ピュントシリーズとは、前作で死亡した、 
性格がゆがんだ作家(こう書いても言い過ぎではないと思う)、アラン・コンウェイが書いていたとされる、1950年代を舞台にした、ミステリです。
ナチスの強制収容所を経験したギリシャ系ドイツ人のアティカス・ピュントが名探偵として活躍する、人気シリーズということになっています。
前作もそうでしたが、今回もスーザンの物語の後に、アラン・コンウェイの小説が挟み込まれる構成です。
今回の作品は「愚行の代償」となっています。
ホロヴィッツも、アラン・コンウェイになりきって、アティカス・ピュントシリーズを書いている時の方が楽しいのではないかというくらい、筆が乗っていて
ミステリとしての完成度が非常に高いです。
わざわざ作中作品にしなくてもよいのでは…と思うほどです。
スマホもメールも動画もない1950年代という設定もクラシックな英国ミステリらしくて楽しいのかもしれません。
お屋敷、主人夫婦、使用人、のどかな村の教会、村の医師など、アガサ・クリスティでもお馴染みの設定がでてきます。
普通に、「愚行の代償」を読みたくなります。

ちなみに、「愚行の代償」の部分は男性の読み手に交代します。
それもまた、スーザン編と切り替わった演出としてはあっていると思います。
こちらの読み手もスーザン編の読み手の女性同様、上品さのあるお声で、作品にあっています。、

上巻を読んでの推理

さて、今回も、スーザン・ライランドが関わる事件には、アティカス・ピュントシリーズの中にヒントがあるらしいのですが
上巻を読んだだけではまだわかりません。
ホテルの経営者姉妹の姉は誰かと深い関係にあったのではということと
経営者姉妹の妹の夫は、よからぬ過去があったのではないかということだけ予想しています。
スーザンの妹もやや動向が怪しいです。
この作品の恐ろしいところは、探偵であるスーザン、スーザンの周囲にもおそらく大変なことが起きるだろうということです。
前作でもスーザンは心身ともに酷い目にあいましたが、
今回もそうなのでは…と予想しています。
ホロヴィッツはそのあたり、容赦がないのです。
探偵側にいるからと言って、安全ではない!と書きながらニヤニヤしている気がします。

さぁいざ、下巻。
今回は犯人が当てられるでしょうか。


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