マガジンのカバー画像

あるいは幸いという名の人

23
旦那さんの惚気を書き殴ります。郵便屋さん、最高なんだから!
運営しているクリエイター

記事一覧

希望の輪郭

希望の輪郭

死にたくなってしまった。2ヶ月ぶりX度目。
職場の環境が日に日に悪くなっていく。危険予知能力が高い私は今後起こりうる全ての悲劇を脳内で展開し、この世の終わりだと頭を抱えていた。
ノストラダムスが肩を叩いて「いま世界が終わるよ」と耳打ちした直後に銃で脳天を撃ち抜いてくれたらいいのに。

『ばかまじめ』を近所の池に向かって歌ったり夜道をぶらぶらしてもどうしても駄目でセブンでアサヒスーパードライのロング

もっとみる
深夜の講義

深夜の講義

夫が優しくて良かった。そう思う瞬間は幾度となくあるが、夫の優しさはこれから私だけでなく私の子どもや子どもと関わる人々をも救ってくれるのではないかと思う。

私は馬鹿で学がない。社会科が大の苦手だった私は、27歳になったいまも日本地図を埋められない。元彼が長崎に行くことになったとき、「東北なら新幹線ですぐだね」と口走り赤っ恥をかいた。
私は映画が好きだが、歴史が頭に入っていないので時代背景や人種問題

もっとみる
二人の推し

二人の推し

最近の私といえば「将棋は頭脳のセックスだ」という色狂いの境地に至ったが故に藤井聡太七段に心を乱されまくっている。(これを書いた頃にはまだ七段だったのだが、今はもうタイトルを獲られて藤井聡太棋聖となっている。)
どう相手の動きを封じ、自分の手が有利に働くよう攻めるか、ということばかり何時間もかけて考えて争うのであるからそれはもう恐ろしいほどセクシーではないか。AIが四億手先を読んでも導かれなかった藤

もっとみる
香も滴る良い夫

香も滴る良い夫

先日、香水ガチャを引いた。
100ml約2万円の香水が2mlほど入ったサンプルを700円でガチャポンの要領で引けるというものだ。
店員さんがモンスターボール大のカプセルを開けて中を確認すると、テスターの前まで案内してくれた。
私が引いたのはアベルというブランドのホワイトベチバーという香りで、店員さん曰く「モヒートのような香り」とのことだった。三角フラスコの様なガラスのテスターを鼻の前で振り回しスン

もっとみる
餌追い馬のフードファイト

餌追い馬のフードファイト

郵便屋さんに好きになって欲しい。彼を好きだと自覚した瞬間から今までずっとそう思っている。

化粧や服装を選ぶ時いつも頭の中に居て意見をくれる。一人で服を見に行っても「彼が良いと言わないと意味が無いな」と諦めて攻めた服は買わない。
パーソナルスタイル診断で自分の顔には大ぶりで派手なアクセサリーが似合うことが発覚したのだが、ギラギラしたネックレスを当ててみると彼は「繊細な作りの方が時ちゃんに合ってるよ

もっとみる
かけ湯2019

かけ湯2019

寒い日が続いている。冷え性の私には熱めのお風呂がありがたい。
郵便屋さんが湯船に浸かっているところにお邪魔しようとすると、膝を折ってスペースを空けてくれる。
186センチと177センチの夫婦が悠々と入れる湯船はなかなか無く、郵便屋さんの膝はふたご山の様に水面から顔を出す。
広く場所を空けようとするほどふたご山は標高を増す。
私は『優しさの高さ』に感謝の気持ちを込めて両手でお湯をかける。
地蔵や仏像

もっとみる
夫孝行

夫孝行

郵便屋さんが好きだ。
郵便屋さんと知り合ってから沢山の喜びを知り、数々の傷が癒え、世界がワントーン明るくなった。そんな郵便屋さんと結婚という『一生一緒契約』を交わすことが出来、この上なくラッキーだった。私の生活を朝日のごとく照らし、暖かさとまぶしさを届けてくれる。

それに比べて私は最低だ。土曜の朝に見る他人のゲロだ。駅の和式トイレにはみ出た他人の糞だ。暴漢を止める手に受けた痛みだ。父の遺品に見る

もっとみる
ビュッフェの神さま

ビュッフェの神さま

郵便屋さんは何をしていても絵になる。
筋トレをする郵便屋さん、スマホで政治関連の記事を読む郵便屋さん、ザコシの動画でのたうち回る郵便屋さん……。
その中でも一番良いのは何かを真剣に選ぶ郵便屋さんだ。
ウィンドウショッピングも良い。
しかしそれだと私も買い物に夢中になってしまい、郵便屋さんに集中できない。
そこでビュッフェ・バイキングである。
席で食事を楽しみながら料理を選ぶ郵便屋さんを堪能すること

もっとみる
いつかランウェイで刃を

いつかランウェイで刃を

これさえあればどんなことが起こっても絶対最高!なんてものは存在しない。
それはモテない芸人が一流女優と結婚してもそうだ。
私も懐がマントルより深い郵便屋さんという伴侶を得ても「報われたい」「幸せになりたい」などとつい口にしてしまうのである。

よくある話だが、常に誰かを目の敵にしていないと気が済まない女に目をつけられている。
その女と同じ時間帯は重力が1.5倍になったように体が重く感じる。この原理

もっとみる
真実の口

真実の口

26歳にしてプーさんのぬいぐるみで遊ぶのにハマっている。
自分がこの歳でこんなことになるなんて思いもしなかった。

郵便屋さんと同じ布団に潜り、スマホからのブルーライトを瞳孔に吸わせていると、頬にフワフワとした触感が伝わる。
郵便屋さんがプーさんの手で私をつついているのだ。
「プーが、いるよ」
郵便屋さんがまったりとした語り口で黄色い腕の中へ誘なう。
そんなことをされたらもう、応じずにはいられない

もっとみる
夫婦は眠らない

夫婦は眠らない

転職してから1ヶ月。
認知症の患者さん達の前で涙を堪えながら激務に耐え、終バスを逃すと脱力感で更衣室から動けなくなる日も少なくない。

先日も世界遺産の絶壁のごとく落ち込んだ仕事帰り、郵便屋さんととんかつを食べても精神状態が回復しなかった。
最近は食べ物を食べている時も嫌なことを考えてしまうので全然美味しく感じられないし、その事実が更に悲しみに追い打ちをかけてくる。

2人でとぼとぼと歩きながらな

もっとみる

大人の中のナイフ

郵便屋さんも私も人を振り回すよりは人に振り回されることの方が多い。
それは自分の意思が無いからではなく、人に合わせた方が穏便に、良い雰囲気で居られそうだという考えのもとであり、自分が人のことを率いてまで進んだ道で起こるトラブルや責任への恐れが常にあるのだと思う。

こと私においては「怒られたくない」「否定されたくない」という気持ちが強い故に画期的なアイデアが浮かんだとしても話を聞いてくれる人が居な

もっとみる
みじかくも可笑しく燃え

みじかくも可笑しく燃え

付き合いたい人がいる。
郵便屋さんである。
郵便屋さんは私の旦那である。
故に彼は既婚者だ。
郵便屋さんと結婚した私もまた既婚者であり、その私が誰かと付き合ったら不倫になる。
郵便屋さんもまた然りだ。
郵便屋さんと彼氏彼女として付き合って、ダブル不倫を楽しみたい。
郵便屋さんとの夫婦生活を楽しむ一方で、郵便屋さんとの不倫を楽しみたい。
私は頭がおかしいだろうか。

郵便屋さんとは付き合い始めの

もっとみる

裏切りの挨拶

ひねくれ者の私は、いつも良い報告の前に不穏な雰囲気を演出する。
先日も私の主人である郵便屋さんの「おかえり」も無視して「あのさぁ……」と低めの声色で答えた。
「は、はい……」
ただならぬ空気を察して怖気づく郵便屋さんに私は振り返ってこう言った。
「すき!」
郵便屋さんは土偶のような顔で「こわーーーい!!」と言った後、私の腰を持って踊った。

そんな馬鹿げた夫婦の軌跡を先日エッセイ本にして売った。

もっとみる