「ネット情報の海に溺れないための学び方入門」第2回:ネット時代に、なぜ読書?なぜ図書館?~自分だけの世界地図と、脳内四次元ポケットを持とう~

ネットに飛び交う玉石混交の情報に踊らされないためには、今日までに学び「ここまでは確かだ」と言える知識を頭の中で自由に参照できるよう整理しておくことが大切ですが、個人の記憶容量には限界があります。しかし、未知の課題であっても、情報の海から確かなものだけを探し出す力があれば、対処が可能です。

「ローマ教皇がトランプ氏を支持」というフェイクニュースや、トイレットペーパー不足等のデマも、発信者の確認に加えて、教皇の立場や製品の産地など既存の情報を積み上げれば、真偽を見極められます(後者は、それでも現実には困りましたね……)。
前回、アニメ映画の聖地巡礼の旅を題材にしましたが、どうして「ここが舞台だ」という根拠なき情報が氾濫するのでしょうか?最も動機が分かりやすいのは、旅行業者など「その情報によって得をする発信者」です。また、それを信じて訪れた人々も、経験を共有したくてSNS等で拡散に加担してしまいます。いずれも、いまさら誤りであっては困るので「こうであって欲しい」という想いに囚われ、根拠を否定する情報にはなかなか目が向かなくなります。

この心理は「確証バイアス」と呼ばれます。デジタル大辞泉(小学館)によれば「自分の願望や信念を裏付ける情報を重視・選択し、これに反証する情報を軽視・排除する心的傾向」とあります。きっと誰もが、少しは心当たりがあるでしょう。
これに対抗するには、都合の悪い情報も含め、幅広く偏りない視座で自分を取り巻く世界を俯瞰するための「地図」(知識体系)を持つことが大切です。もちろん範囲が広くて精度が高いほど理想的ですが、まずは情報を鵜呑みにせず「ちょっと待てよ。別の見方もあるのでは?」と気づければ充分です。

その疑問を出発点として「現時点版の地図(穴だらでもOK)」を広げ、ジグソーパズルの空白のような未知のピースがあったら調べて埋めながら、探究の旅を始められます。歩みを進めるほど新たな発見があり、少しずつ地図は網羅的になるでしょう。どの部分がより精細で色鮮やかになるかは千差万別であり、それこそが個性となります。完璧を目指す必要もなければ、誰かの真似をする必要もありません。

たとえば高校1年生ならば、小中学校で教わった知識があります。今後の新発見により学説が変わることはときどきありますが、「現時点版の地図」としては確かで、頼りになります。
学校での学びは「世界遺産を巡るパッケージツアー」のように、まずは重要なピースを過不足なく埋められるありがたいものです。ただし、面白そうな匂いの漂う路地裏があっても、自分の意思でふらっと迷い込めないのが団体旅行の難点であり、実はその先にこそ、探究という「学びの醍醐味」が待っているのです。

実社会でぶつかる問題は、歴史や数学などの壁を越えて、知識を組み合わせなければ解決できません。分野の制約なく学べる反面、自由には不安もつき物です。もう教科書や先生が導いてはくれないからです。また、「どの教科にも属さないピース」も現れます。そこで、集めた知識を系統立てる指針となる「整理グッズ」があると便利です。
たとえば図書館では、「日本十進分類法(NDC)」という、全国共通のルールで本を分類しています。こちらの国立国会図書館サイトをご覧ください。
https://www.kodomo.go.jp/kids/images/res/pdf/use_ndc.pdf

NDCは、この世の森羅万象を10の分野に分け(上記サイト一覧表の最上段)、その中でさらに10に分け……と細分化した番号をつける分類法です。図書館の本の背表紙ラベルにある数字は、このようにして決まっています。似た分野が近くなるように工夫されているので、本棚を歩いていると次々にヒントになる本に出逢えます。
つまりNDC一覧表は、学びの地図(知識体系)そのものなのです。図書館という情報の宝庫のフロア案内図として使えるだけでなく、参照できる地図があれば知識を整理して記憶し、後から自由に取り出すための「脳内四次元ポケット」を構築する際にも役立ちます。

「分からなければググる」を繰り返していても知識はなかなか定着しませんが、系統樹という木の幹を持つことで枝葉のようには散らず、あるべき場所に根ざして他の知識と有機的に結びつき、アイデアという新しい実を生み出します。さらに、それを言葉や文章で発信する経験を繰り返すと、知識はもはや自分の血肉となります。
それでも、未知の問題解決は知識量や暗記力のテストではないため、自由闊達な応用力が必要です。そこで、実際には図書館のような「外部記憶装置」を使ってもいいので「どこをどう探せば必要な情報が見つかるか」を探知できる嗅覚を鍛えましょう。このような力は、近年ますます重要視されています。

たとえば、お茶の水女子大学の「新フンボルト入試」(AO入試)要項には「文系二次選考では『図書館入試』を行います。図書館入試とは、課題を提示し、本学の図書館所蔵資料を自由に使って関連する情報を集め、それらを組み立て、オリジナルな答えを導き出すという試験です。情報検索力や自分の考えを論理的にまとめる力は、今後の人生のあらゆる場面で絶対に必要となるスキルです」とあります。
http://www.ao.ocha.ac.jp/application/faculty/body/application_faculty_d/…

「絶対に」という言葉は、大学のような学術の場では滅多に使いませんが、必要性を断言していることに注目してください。
人類が文明を築けたのは、情報の記録(文字や言葉、絵や図)によって叡智を継承し、過去に学んで未来を切り拓けたからです。次回からは、あらゆるテーマについて基礎から体系的に学ぶ王道である図書館の活用法に入ります。それを身につけた上でネット情報を複合的に活用できれば、まさに「鬼に金棒」となるはずです。

(続きはこちら)
第3回:「鬼に金棒」の図書館活用術(その1)学術情報の流れと成り立ち

※この連載が、大幅な加筆のうえ書籍化され、
岩波ジュニア新書から
「ネット情報におぼれない学び方」として刊行されました。https://www.iwanami.co.jp/smp/book/b619889.html

[筆者の横顔]

梅澤貴典(うめざわ・たかのり)中央大学職員。1997年から現職。2001~2008年理工学部図書館で電子図書館化と学術情報リテラシー教育を担当。2013年度から都留文科大学非常勤講師を兼任(「アカデミック・スキルズ」・「図書館情報技術論」担当)。2012~2016年東京農業大学大学院非常勤講師(「情報処理・文献検索」担当)。主な論文は「オープンアクセス時代の学術情報リテラシー教育担当者に求められるスキル」 (『大学図書館研究』 (105) 2017年)等。

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