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しんたく
2019年12月4日 08:48
「まもなく越後湯沢駅に到着します。次の停車駅は長岡駅です」上越新幹線の車内に、次の駅への到着を知らせるアナウンスが流れる。窓の外をぼうっと眺めていた僕は、アナウンスに違和感を覚えた。ーーーあれ。なんか変だな。今回降車予定なのは新潟県の浦佐駅。そこから車で周辺地域をぐるっと回ったあと、今回の目的地・苗場へと向かうこととなる。10:34に駅で待ち合わせだが、時刻は9:30を回ったあたり
2019年12月6日 10:16
ガソゴソと人が動く気配に目を覚ますと、障子のあいだから明るい日差しが差し込んでいる。時刻は午前7時過ぎ。久しぶりに床で眠ったせいか、少しだけ体が痛い。こたつから体を起こすと、「おはよう」という声が襖の向こうから聞こえてきた。雪山の朝は早い。初日の夜はみなが持ち寄った日本酒で飲み会をやっていた。僕は2時ごろに眠りに落ちてしまったが、他の人たちは4時過ぎまでやっていたのだという。松任谷由実の曲
2019年12月8日 20:46
「タバコを吸うのって、瞑想と似てる気がするんだよね」ささやかな夕食のあと、机を囲んでぼんやりとしていると、タバコに火をつけた彼が唐突に呟く。なんで? と尋ねると、彼は深く息を吸い込んだあと、煙を吐き出しながら気だるげに答えた。時計の針は20時を指していた。「瞑想にしろ、ヨガにしろ結局は『呼吸を意識してリラックスしよう』ってわけじゃん?」タバコなんて深呼吸の最たるものだよ、と続けた。今年
2019年12月10日 09:53
窓からの強い日差しで目を覚ますと、午前7時ごろ。昨日は早々に眠ったとはいえ、こんな時間に起きることなど、東京ではありえない話である。それにしても晴れた朝は寒い。窓の広い僕の部屋は、夜のあいだに一気に冷たくなるのだ。布団をかぶっていても、どうにも物足りない。部屋に置かれているヒーターをつけようかとも思ったが、せっかくだから起きてしまうことにした。早起きは三文の徳である。散歩でもしようかな。
2019年12月12日 19:23
実務と呼ばれるものが大の苦手である。書類整理や、営業、挨拶など社会人に必要とされるスキルのほとんどが、とかく面倒でしかたがない。この歳になると、最低限のことはできるけれど、とにかく遅いし、ストレスがめちゃくちゃたまる。小さいころから「グズ」と呼ばれていた通り、致命的に要領が悪い人間なのだ。そんな人間がお店の運営を手伝おうなんて、よく考えたものだ。逆にいうなら、任せた方もすごい。採用の前にち
2019年12月18日 08:36
外に出ると、まごうことなき晴天である。一週間ほど滞在して気づいたことだが、どうやら晴れの日の方が寒く感じるらしい。気温自体は普段とほとんど変わらないのだけれど、少し肌寒い。風があるせいかもしれない。ここ、苗場は標高700mの高地。山の天気は変わりやすいというが、まさにその通りで、天気が一日中コロコロと変わる。そんな中で久しぶりに一日中晴天の日よりだった。そして今日で滞在からちょうど
2019年12月18日 08:38
車の助手席に座って窓の外を眺めていると、のどかな田園風景が続く。本日も晴天。久しぶりに10度を超えたせいか、昨日まで積もっていた雪はすっかり溶けきっている。山頂の雪は少しばかり残っていて、青と白のコントラストが実に気持ちがいい。遠くまで広がる視界の果てに山があるというのは、守られているようでなんとなく安心感がある。苗場は人里離れた土地なので、麓の町に降りるのでも一苦労だ。今日は往復で1
2019年12月28日 15:18
24日目の12月25日。ようやく開店の運びとなった。当初の開店目標から遅れること5日。ちょうどクリスマスである。苗場に来てから、ずっとバタバタとしていた気がするが、特に開店前の3日間は店舗準備でカンヅメ状態だった。朝から日をまたぐほどの時間まで働きづめだったのは久しぶりのことである。ちなみに昨年は開店前日の作業で朝4時くらいまでかかったそうだ。それに比べれば平和なものだが、とはいえ全員疲
2020年1月1日 09:45
時計の短針が8のあたりを過ぎるころ。店にいたお客さんがパッと途切れる。店の外に人通りはない。いわゆる凪の時間だ。「今年も終わりですね…」突然、しんみりとした実感に包まれる。そうだ。バタバタと走り抜けた12月も終わるのだ。そして、今年ももう終わる。アルバイトのアキさんがそうですね、と優しい笑顔をこちらに向けた。張り詰めていた糸がふっと緩む。外ではプリンスホテルのあたりから、いつものように
2020年1月9日 14:07
電話越しに泣きじゃくる声が聞こえる。普段あまり感情を表に出すことのない彼のそんな声を聞くのは、赤ん坊の時以来のことかもしれない。「別に、大丈夫だからさ」と、僕は答える。僕らは確かにポンコツかもしれないけれど、それでもこの年齢までなんとか生きのびただけでも十分にすごいんだ、と。うん、としゃくり上げるように彼は答える。少し楽になったよと。それに対して、僕はまた明日ゆっくり話そうぜ、と言う。そ