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短編小説

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2018年4月の記事一覧

『おさがりの赤い自転車』(短編小説)

『おさがりの赤い自転車』(短編小説)

(あらすじ)
姉からゆずり受けた赤い自転車が、大嫌いだった……自転車と友達、まだ僕らが何者でもなかった頃のコンプレックスをめぐる小さな物語。

『おさがりの赤い自転車』 上田焚火

 小学3年生の時、僕は二歳上の姉から赤い自転車を譲り受けた。少し錆びた女の子用の赤い自転車。僕はその赤い自転車が大嫌いだった。

 小学生にとって自分の自転車は特別な存在だった。それは、歩いて行ける近所しか知らない僕ら

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『雨で手を洗う』(短編小説)

『雨で手を洗う』(短編小説)

あらすじ
 三年前にわかれた彼女に偶然出会い、マンションに誘われることになった男。過去に戻ろうとする男と女のすれ違いを淡く切なく描く。

『雨で手を洗う』 上田焚火

「今はつきあっている人はいないの?」

 と彼女が訊ねてきたので、「いや、いないよ」と僕は答えた。

 だからといって、彼女と何かが始まるとは思えなかった。そもそももう終わったことだった。どうしてこんな所にいるのか、その理由をなる

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『不思議な人』(短編小説)

『不思議な人』(短編小説)

(あらすじ)
 彼女が愛した人は、ことごとく死んでしまう。友人にそう相談され、心配になった僕だったが、状況は思わぬ方向へむかっていくことに……夫婦にとって相性とは何か?

『不思議な人』 上田焚火

「私が愛した人はことごとく死ぬの、と彼女に言われたら、お前どうする?」

 そう友人に言われて、僕は震えるほど驚いていた。友人は彼女とすでに一年ほどつきあっていて、結婚も考えているようだった。彼女はそ

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『父に伝える』 上田焚火

『父に伝える』 上田焚火

(あらすじ)仕事がうまくいかない男は、彼女に結婚を切り出せない。だが、父の危篤の知らせを受けて、男の心に微妙な変化が生まれる。父と息子それに彼女。3人の間に小さな奇跡が起こる。

『父に伝える』 上田焚火

「お父さん、あなたが来るのを待ってるみたいなの......」
 母からの電話だった。

 腕時計を見ると六時十七分だった。

「今、そっちは何時?」と私は母に訊ねた。
「今?今は......深

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