見出し画像

イライラ+爽快さ=?

今回は松田青子さんという作家を紹介したいと思います。この方の作品に出会った時のことも、とても印象的だったのでそのことからお話ししようかな。ぜひランチのお供にでも。



碁盤目状の町で、四角いものに出会う

『自己紹介』の記事でもお話ししたのですが、最近京都・大阪へ美術館巡りの旅に行ってきました。(まだ読んでいない方は下のリンクから)

それはそれは楽しい美術の旅だったのですが、その他にも「京都にはいい本屋さんがたくさんあるらしい」ということを雑誌を通して知り、その中から一つの本屋さんに行きました。
それが「レティシア書房」という本屋さんです。いわゆる、個人経営の書店で古本・新刊・ミニプレス・CDなどを扱っているお店です。
嬉しいことに、この書店の店長さんがnoteをやっているので、ぜひ覗いてみてください。頻繁に本の紹介記事が更新されています。

お店を訪れた際に店主の小西さんから紹介されたのが、松田青子さんの『ロマンティックあげない』というエッセイ集でした。確か、京都の大学出身の作家を中心に置いている、という文脈で紹介してくださった本だと記憶しています。小西さん曰く「ジェンダー系のエッセイだけど、重すぎずサクッと読み進められます。女性が読んだら共感も相まってもっと面白いはず。」とのこと。(小西さんとのおしゃべり、とても楽しかったです。訪れた方はおすすめ本や書店の構造について質問してみると面白いはず!)
今までなぜかジェンダーをテーマにした本は読んだことがなかったので、「これは新しい扉を開くチャンスかも」と思い、その本を購入して帰りました。

これ〜〜!これ言いたかった!!

早速読んでみたのですが、「これ〜〜!これ言いたかった!!」という気持ちがどんどん湧いてきました。私も今まで同じようなことを思っていたけれど上手く言葉にできなかった感情たちを、いとも軽快にズバズバと言い当てていく。まるで屋台の射的で小さな高得点の的をどんどん打ち倒していくよう。読み終わった後は景品ザクザクです。

生活や仕事をしているだけなのに、ただその場にいるだけなのに、トンチンカンな言動が爆弾みたいに投下される、その瞬間のアホらしさ。そしてそれに気を遣って笑わなければいけないむなしさ。一人でもそういう木枯らし気分を味わう人がいる限りは、時代は変わっていない。

松田青子作『ロマンティックあげない』より「時代は特に変わっていない」

この本をきっかけに松田青子さんの語り口にどハマりして、他の作品も読んでみました。

イライラ+爽快さ=?

次に手に取ったのは『スタッキング可能』という短編作品集。標題作品である「スタッキング可能」は、複数の視点から物語が進んでいくという、少し特殊な構造をしています。ぜひ前情報なしで読んでいただきたいので、詳しく記述することは避けますが、「複雑だな」という印象に惑わされず最後まで読み切っていただきたい作品です。その”複雑さ”が最後に効いてくるので。

そして、この作品を通して読んだ私のファーストインプレッションはこれです。

めっちゃイライラする!でも爽快!

誤解を生まないようにこれから丁寧に説明していきますね。
まず、「イライラ」というのは、社会が女性に対して持つ固定観念をあまりにも的確に言い当てているので、まるで自分自身がそこに居合わせたかのように感じられるがゆえに生まれる感情です。
そして「爽快さ」というのは、固定観念に囚われる人やそれと戦う人の心情を周りくどくせず簡潔な言葉で登場人物に語らせている、松田さんの「言葉の神采配」がスッキリした後味を読者に届けているのです。
よって、
「イライラ」+「爽快さ」=「クリアな喉越し」
という素晴らしい図式がこの本で完成しているのです。(「クリアな喉越し」ってビールのキャッチコピーみたい。)
この図式を一つの文学作品に見出したのは初めてだったので、とても印象的な読後感でした。

松田青子さん。その神采配の秘訣はどこから。



いかがでしたか?気になった方はぜひ、松田さんの作品を読んでみてください。私も松田さんの世界に足を踏み入れたばかりなので、また新たな魅力を発見したらこのnoteでご報告できたらなと。

素敵なランチタイムのお供になっていたら幸いです。(もちろん朝でも寝る前でもいつでもいらっしゃってください。)


それではまた会う日まで。今年もあと10日もないなんて信じ難いです。


この記事が参加している募集

#スキしてみて

526,592件

#読書感想文

190,514件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?