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愛のパワーバランスを見せつけられる映画。

女王陛下のお気に入り

正直に言う。私はアン女王役のオリビア・コールマンがアカデミー賞主演女優賞を獲ったことが、あまり受け入れられない。

彼女の演技力には一切文句なく、すごいと思う。もう美しさとかかなぐり捨てて、エグさとどぎつさと哀愁漂う感じを併せ持った、孤独な女帝を演じていて、彼女だったからこそとも思う。

でも、私は知っている。「思秋期」で演じたハンナ役の彼女を。私がオリビア・コールマンという女優の凄さを認識した初めての映画で、私にとっては、彼女の存在あってこそ、あの映画はイギリス映画界に燦然と輝くものとなったと信じてやまない。

今回の映画ではどうか。コールマン扮するアン女王を「取り合う」サラ・モールバラ卿のレイチェル・ワイズと女中アビゲイル・ヒル役のエマ・ストーン、この二人ががいなければ…。

三人で主演女優賞を獲得、なら納得できたかもしれない。彼女らの巧さといったら、近年稀に見る「脇役がいない」映画であることよ。

***

さて、この映画のあらすじを超・端的に言うと、二人の女性が、どちらがより多く女王様から寵愛を受けるかのせめぎ合い、なんです。

サラとアビゲイル、どちらがしたたかだったのか。騙し合い、化かし合い。一瞬でも弱みを見せてしまうと、即座に相手の蜘蛛の糸に掛かってしまう、この女の戦いを見て、思ったことは、二人はおろか、アン女王も含めて、三人とも真の意味で、自分を愛せていなかったんだなって。

他人を愛すること。他人から愛されること。これらを「弄んでいた」のが、彼女らで、それぞれのパワーバランスが移り変わることで、ストーリーは展開し、観客である私たちは、その動きを凝視するしかない。

国を司る絶対的な権力を持つも自身の容姿や決断に常に不安しか感じることのできないアン。

そのアンの知己で、美貌と男勝りの政治力を振りかざし、自分しか信頼しないサラ。

上昇志向をひた隠しにし、純粋無垢な自分を演じてきたアビゲイル。

全然ハッピーエンドなんかじゃないし、誰かが高らかに笑う、してやったりの物語でもないし、三人ともドツボにはまって沈んでいく物語…。

三人とも自分がかわいくてかわいくて堪らないのに、本当の意味で、自分の愛し方がわからないが故に。

そんな彼女たちの間に介在する男たちの数の多さと、彼女たちを操っているようでいて、翻弄されまくる彼らの姿を見ると、歴史の影に女あり、というのは真だなと思った次第です。

いつの時代にも、どの国にも、道化的な君主と、それを巧妙に操る手下たちがいて、という史実を描いた作品はいくつもあって、それはそれで目新しさはないのだけど、随所にヨルゴス・ランティモスならではだなぁと思わせるシーンや風景が広がっており、彼の作品が好きな方は見ていただけたら。

とはいえ、決してオリビア・コールマンの受賞にケチをつけるわけではなく、いや、何かもっとあったんでない?って、ちょっと思っただけ。

私が勝手に、イギリス版石田ゆり子と思っているレイチェル・ワイズと、若き才能エマ・ストーン。二人の美しさを愛でるにも良い作品かと。

あとエンドロールを見ていたら、日本人の名前をお二方見つけました。ニシジマアツシ氏とミヤモトハルカ氏です。もしかして、他にもいるのかな。何の役割を担っていたかをちゃんと調べていないんですが、これから劇場でご覧になる方、その辺りも注目していただけたら。

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