見出し画像

Shopifyがアフターコロナでも二桁成長を続けられている理由とは?

利便性や価格メリットなどから日常的にECを利用している人も多いのではないでしょうか。そのような消費者ニーズに合わせ、様々な企業がEC展開を加速させています。近年は簡単にECサイトを開設・運用できるサービスも充実していますが、その中でも売上成長率を大きく伸ばしているのが、ECプラットフォームを展開する企業「Shopify(ショッピファイ)」。今回はShopifyの決算資料から、その成長理由を決算が読めるようになるノートさんに解説していただきました。

2020年以降のコロナ禍によって多くの企業が打撃を受けた一方で、一部のステイホームの恩恵を受けたIT企業には追い風となり、Zoomのように大きく業績や株価を伸ばした企業もありました。

しかし直近1年ほどは、新型コロナウイルス感染症の感染状況が落ち着くとともに、その業績成長の勢いが失われ、株価についても同様に大きく下落している企業が増えています。

そんな中、ECプラットフォーム最大手のShopifyの売上成長率に着目すると、コロナ禍の水準よりは低下しているものの、現在でもYoY(前年比)+20%〜30%前後の高い成長率を維持できています。

今回はShopifyが、コロナ禍が落ち着きつつある現在も二桁成長を続けられている理由を考察します。

■Shopifyとは?

Shopifyは2004年にカナダで設立されたECプラットフォーム最大手の企業です。具体的には、Webサイト構築の知識がない方でも、Shopifyが用意するテンプレートや決済手段、ホスティングサービスなどを活用することで、簡単に本格的なECサイトを開設することができるプラットフォーム型のECサービスを展開しています。
Shopifyの競合企業には米国のSquarespaceや、国内企業ではBASEやSTORESが挙げられます。

■アフターコロナでも伸び続ける売上

Shopifyの売上は多少の季節性はありますが、右肩上がりに拡大しています。

売上成長率を見ると、新型コロナウイルス感染症が本格化した2020年4-6月頃からYoY+100%前後と、驚異的な成長率を記録しました。

その後は徐々に成長率は低下していますが、未だにYoY+20%〜30%前後と高い成長率を維持しています

Shopifyの売上は、「1取引あたりの手数料収入」と「システムを利用するための月額収入」の2つによって構成されています。後者は、安定的な収益が期待できることから「Annual Recurring Revenue(ARR:年次経常収益)」と呼ばれており、SaaSの超重要指標の1つです。

ShopifyのARR推移は、次のようになっています。

上図から分かるように、ARRも売上と同様に、右肩上がりに増加しています。つまり、システムを利用するための月額費用という固定収入、そして決済金額に応じた変動収入の双方がバランス良く伸びていることが分かります。

ちなみに、両者の比率はおおよそ、「固定収入:変動収入 = 1:3」となっています。

■Squarespace、BASEと比較してみると?

ここで、Shopifyの競合であるSquarespaceとBASEとの比較をしてみましょう。ここでは、売上変化率(※) を見ていきます。
(前述の通り、STORESもShopifyの競合企業に当たりますが、STORESは未上場企業のため割愛)

 ※売上変化率:各社の2019年1-3月の売上を1として、どの程度売上が変化しているかを表しています。

上図を見ると、各社の売上は右肩上がりに成長していますが、特にShopifyが頭一つ抜けて成長しています

ちなみに、BASEは2020年4-6月のコロナ禍初期ではShopifyを上回る大幅な成長率を記録しているものの、それ以降はほぼ横ばいで推移していました。しかし、2023年4-6月以降は成長率が増加しており、成長軌道に入っていることが伺えます。

BASEについて特に知りたい方は、「決算が読めるようになるノート」の以下の記事で詳しく解説しています。よろしければ、ぜひこちらもご覧ください。
Q. 再び成長軌道に入ったBASEのテイクレートが下がっているのはなぜ?

■手数料収入が特に大きく成長

成長要因を深堀りする前に、前提整理のため、Shopifyのセグメント別の売上推移を見てみましょう。

Shopifyでは、前述の通り、手数料収入(Merchant solutions)とサブスクリプション収入(Subscription solutions)の双方が右肩上がりに成長しています。注目すべきは、近年、特に手数料収入が大きく成長していることです。

この手数料収入の急成長の背景の1つは、「エンタープライズの増加」が考えられます。1企業あたりの取引量が相対的に多いエンタープライズの利用が増加すると、サブスクリプション収入よりも手数料収入のほうが大きくなります。

次章以降では、Shopifyが競合他社に対して、頭1つ抜けて成長している要因を考察していきます。

■成長理由#1 グローバル市場における事業拡大

1つ目の理由は「グローバル市場における事業拡大」です。

Q4 2023 Financial Results」P20より

2023年4Qの同社決算資料を見ると、GMV(流通総額)の14%がクロスボーダーによる、とのことです。新規契約の企業として、日本企業からもサントリーのロゴが掲載されていますね。

Shopifyは、Shopify ShippingやShopify Fulfillment Networkを用いることによって、クロスボーダーの配送を比較的容易に実現することができます。EC運営事業者からすると、ShopifyでECサイトを開設すると、国内での販売と合わせて、グローバルへの進出も簡単に果たすことができるわけです。

また、様々な国ごとのパートナーも拡大することで、各国のECサイト構築ニーズにも応えています。業界2位の企業と比較して、Shopifyでは4倍のグローバルパートナーを擁しているという数字も発表しています。

SquarespaceやBASEでも、クロスボーダーの配送はできなくはないですが、Shopifyほど整えられているわけではないですし、各国のニーズの取り込みの観点でも比較対象にならない状況です。ゆえに、「グローバル拡大」は、Shopifyが継続的に成長している理由の1つと言えるでしょう。

■成長理由#2 B2B参入

2つ目の理由は「B2B参入」です。

前提として、米国のECの市場規模は、「B2C<B2B」です。B2Cが4.8兆ドルであるのに対して、B2Bは6.4兆円となっています。

参考:B2B e-commerce in the United States - statistics & facts
   B2C E-Commerce Market Size

このような市場機会を掴むため、ShopifyはB2Cだけではなく、B2Bにも参入しています。そして、規模的にはこれからではありますが、急ピッチで成長しています。

Q4 2023 Financial Results」P17より

具体的には、B2B領域のGMVは2023年4Qにおいて前年同期比でほぼ+150%、2023年全体では2022年のGMVの2倍という驚異的な成長率を誇っています

Q3 2023 Financial Results」P12より

また、Shopifyは卸売の超大型スタートアップであるFAIREと提携することで、加盟店向けのB2Bソリューションの構築も進めています。

Shopifyは既にFAIREに出資しており、Shopify加盟店がFAIREのプラットフォームを通じて、新たな仕入先の発掘ができるようにするなど、B2B領域の強化に注力しています。

ちなみに、FAIREは、2021年の資金調達時点で$12.4B(約1.9兆円)の企業価値がついており、同市場の大きさが分かるでしょう。

参考:Announcing $400 Million in Series G Funding at a $12.4 Billion Valuation

■成長理由#3 リテール決済

3つ目の理由は「リテール決済」です。

Shopifyは「Shopify POS」というPOSサービスの提供を開始しました。日本では、スマレジやリクルートのAirレジのような事業領域です。

Shopify POSを導入することで、リアル店舗でもECとの連携ができるため、一気通貫で商品在庫や売上を管理することができるようになります

POS領域は、Square等の競合がひしめく市場ではありますが、Shopifyを利用している店舗からすると唯一無二のメリットを提示することができます。

Q4 2023 Financial Results」P16より

最新の決算では、はじめてオフライン(リテール)での売上が公開されました。2023年全体で$441M(約662億円)、2019年から5倍と大きく成長しています。

Shopifyの2023年全体の売上は$7,060Mなので、リテール売上は全体の6.25%を占めています。ECの莫大な規模からすると存在感は小さいですが、リテール単体でBASEの売上の約8倍の規模感です。

■成長理由#4 SNSとの連携

4つ目の理由は「SNSとの連携」です。

Q3 2023 Financial Results」P10より

上図は、これまで解説した成長理由を1スライドにまとめたもので、SNS連携は左下の内容に当たります。

具体的には、ShopifyはTikTokやYouTube、InstagramなどのSNSとボタンをクリックするだけで連携可能で、Shopifyの商品を簡単に宣伝・販売することができます。

特に、TikTokとの取り組みは2021年から進んでおり、2023年9月にはTikTok Shopを開設し、顧客に対してTikTok上で直接商品を販売できるようにするなど、SNSとの連携によって販売機会の創出に注力しています。

参考:Set up shop on TikTok

■まとめ - 統合コマースプラットフォームへ -

ここまで、Shopifyがアフターコロナでも二桁成長を続けられている理由を考察してきました。

  • Shopifyの売上成長率は、コロナ禍の水準よりも低下しているものの、現在でもYoY+20%〜30%前後の成長率を維持している

  • Shopifyの競合であるSquarespaceとBASEの売上変化率をみても、各社の売上は右肩上がりに成長しているが、特にShopifyが頭一つ抜けて成長

  • 手数料収入(Merchant solutions)とサブスクリプション収入(Subscription solutions)の双方は右肩上がりに成長しており、特に手数料収入が大きく成長している

  • Shopifyがアフターコロナでも二桁成長を続けられている理由は以下と考えられる
    (1) グローバル拡大
    (2) B2B参入
    (3) リテール決済
    (4) SNSとの連携

まとめると、ShopifyはECのNo.1プラットフォームとして、TAM(Total Addressable Market:獲得可能な最大市場規模)の拡大のために必要な施策を網羅的に実行していると言えるでしょう

Q4 2023 Financial Results」P15より

まさにこちらの図が示しているように、Onlineから始まったShopifyは、「unified commerce platform(統合コマースプラットフォーム)」への進化の途上にあります。

このShopifyの成長がどこまで続くのか、引き続き注目していきたいと思います。

(文:「決算が読めるようになるノート」)

Shopifyが成長し続ける4つの理由を、決算情報から解説していただきました。Webサイト構築の知識がなくても簡単にECを開設・運用できるという価値を提供するだけではなく、SNS連携による販売機会の創出、リアル店舗との連動、グローバル展開への対応など、ただのECプラットフォームにとどまらない価値提供によって独自のポジショニングを確立していることがうかがえます。また、スタートアップや小規模事業者のみならずサントリーなどのエンタープライズ企業も顧客となっており、あらゆる企業の幅広いニーズに応えられるところも成長を後押ししている要因ではないでしょうか。ECプラットフォーム最大手が業界にどのような変化をもたらすのか、今後の取り組みにも期待したいと思います。


みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!