リアル店舗はワクワクするような可能性に満ちている。『小売再生』読みどころ紹介
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リアル店舗はワクワクするような可能性に満ちている。『小売再生』読みどころ紹介

東芝テックCVC

小売業界を取り巻く環境が目まぐるしく変わる中、店舗のあり方についてさまざまな議論が交わされ、数多くのプレイヤーが新しい事業やソリューションの創出にチャレンジしています。

そんな小売店舗の未来について、一つの可能性を提言した書籍『小売再生 リアル店舗はメディアになる』を今回は紹介したいと思います。

著者のダグ・スティーブンス氏は、世界有数の小売コンサルティング会社Retail Prophetの創業社長。WalmartやGoogle、Salesforce、BMW、Intelなどのグローバルブランドに影響を与える有名な小売コンサルタントです。

冒頭の「はじめに」にも書かれているように、小売業界では「コモディティ化」と「体験経済化」の2つの潮流が起きており、消費者は「安く買えるようになるのはありがたい」という本音を抱えつつ、同時に「貴重な時間は、自分にとって本当に価値があると思える体験に使いたい」とも考えています。そのような状況の中で、「未来の店」としてあるべき姿を捉えるためのロードマップを描き、実店舗ならではの「最高に充実した体験」を生み出す方法をあらゆる角度からガイドしてくれるのが本書の特徴です。

2015年、ついにAmazonがWalmartを超える

ウェブブラウザNetscape Navigatorの開発元の元共同創業者でテクノロジー分野の投資家として活躍するマーク・アンドリーセン氏は、2013年に「もう小売店は店をたたむしかないでしょう。みんなネットで買い物をすませるようになりますから…(一部省略)」と発言し、賛否両論を巻き起こしました。

スティーブンス氏は、「みんなネットで買い物をすませるようになる」というのは極論だとしつつ、このような問題提起を行います。

これだけの新しい技術が浸透したというのに、小売という概念や小売業のあり方は、この間ほとんど変化していない。店に足を運び、商品を見て回り、代金を払うという一連の行動が200年前から基本的に変わっていないのである

そして、小売業界で長年にわたって圧倒的な影響力を誇ってきたWalmartと、ネット通販事業者の王者であるAmazonの歴史をなぞりながら、「小売業界の崩壊」が起きていることを解説します。

国内でも海外でも同社は文字どおり前例のない成長を遂げた」というWalmartですが、2000年代末ごろから消費者意識の変化(じっくり検討してから買う)や、低価格路線の新興勢力の台頭についていけなくなり、「消費者が大挙してネットに移っていく動きが明らかになったが、それでもウォルマートは動こうとしなかった」と言います。その結果、2012年当時WalmartはAmazonの16倍の売上を誇っていましたが、2015年にはAmazonの社員1人あたりの売上がWalmartの3倍に達し、時価総額もWalmartを200億ドルも上回る2,500億ドル超を記録したそうです。

2015年、ウォルマートのネット通販は1100点の商品を揃えていたが、それはアマゾンが取り扱う2億6000万点の4%にすぎなかった」と、著者は品揃えの面でも大きな差が生じていた点に言及。さらに、「顧客満足度調査でアマゾンはウォルマートをはじめとするほとんどの従来型小売企業を常に圧倒し、ときには首位に立つようになった」と、顧客からの評価もAmazonに負けてしまったことを指摘します。

もちろん、Amazonの快進撃はWalmart以外の小売事業者にも多大な影響を与え、Amazonだけでなく中国のAlibaba、そして「アマゾンやアリババの背後には、数え切れないほどのベンチャーが続々と誕生していて、今の混沌とした状況に拍車をかけ、従来型の小売業の隙を突こうと虎視眈々とチャンスをうかがっている」とスティーブンス氏が述べるように、世界中で新しいネット通販事業者が登場し、品目やカテゴリを問わず小売業界全体にゲームチェンジをもたらしているのです。

また、「未来の小売の姿がオンラインへと向かっている」証拠ともいえる事例を他にも挙げて紹介しています。

従来は「認知」の役割を担っていたメディアが「購入」の場に

本書の副題にも「リアル店舗はメディアになる」とあるように、第II部・第Ⅲ部では、「「メディア」と「店」がそれぞれ担っていた役割が入れ替わるという歴史的な転換」についてまとめられています。

第Ⅱ部で語られるのは、メディアの店舗化です。スティーブンス氏は、顧客が商品・サービスの購入に至るまでの心理変化(認知→興味・関心→比較検討→購入)を表した「パーチェスファネル」を取り上げ、「メディアは最初の情報伝達を担い、店は最後の商品配給の場」という力関係が300年にもわたって続いていたと言います。

しかし今や、パーパスファネルの構造は大きく変わり、「商品に関するメッセージを送る段階から消費者が商品を購入する段階までの距離」は一気に縮まりました。メディアは実店舗に消費者を誘導するだけでなく、商品・サービスを直接購入できる存在となり、「メディアが商品供給の場=店になりつつある」そうです。

これは一例ですが、Amazonは特定の商品専用の注文ボタン「ダッシュボタン」をリリースし、「認知→興味・関心→比較検討→購入」という従来型のファネルを「破壊して一気に短縮しよう」と挑戦していました。「ダッシュボタン」は賛否両論あったようですが、この「大胆な企て」は「買い物のあり方を一変させるほど大きな可能性」が秘められていたとスティーブンス氏は評価しています。

なお、詳細は本記事では割愛しますが、同氏はこの他にもメディアの店舗化を推進するテクノロジーとして、チャットボットをはじめとするAI技術やVR、AR、MR、3Dプリンタなどの可能性を紹介しています。

では、メディアが店舗化したら、従来の店舗はどうなってしまうのでしょうか?もはや小売店舗は必要なくなってしまうのでしょうか?

スティーブンス氏は、「小売は死んだのか?」という問いに対しては、「答えは“ノー”だ」と言い切り、「これから起こるのは、わたしたちが思うよりもはるかに複雑で、大掛かりで、わくわくするような面白いことなのだ」と言います。

実店舗は不要になるどころか、今後ますます価値が高くなる!?

第Ⅲ部のテーマは、いよいよ本題の「リアル店舗はメディアになる」について。冒頭で紹介したように、著者は「最高に充実した体験」を提供することが実店舗のあるべき姿だと主張しているのですが、その裏付けとなる話が展開されます。

同氏はここまで挙げてきたようなテクノロジーが決して実店舗の存在意義を奪うものではないことを、このように解説します。

技術は、実際のショッピングという体験を奪ってしまうのだろうか。そんなことはあり得ないはずだ。人間はモノを入手するためだけにショッピングをするわけではない以上、実店舗が不要になることはない。現に技術が暮らしに入り込むにつれて、むしろ現実の店で買い物を楽しむことの価値が高まり、大切な経験になるだろう

例えば、Appleは創業当初から「現実の場で、人々を熱狂」させ続け、新商品発売時の長蛇の列はファン恒例のイベントとして浸透していますし、ネット通販専業からスタートした眼鏡ブランドWarby Parkerやオーダーメイド・スーツブランドINDOCHINOも特別な顧客体験を提供するショールームの位置付けで実店舗を次々とオープン。あのAmazonも「Amazon Book Store」や「Amazon Go」といった実店舗を展開しているのです。

スティーブンス氏はアクセンチュアをはじめとする調査結果を取り上げ、「デジタル世代の多くは、オンラインショッピングよりも店舗を訪れるほうを好む」という事実に言及。また、「ミレニアル世代が素晴らしいショッピングの機会を心から求めていることは、どの指標を見てもわかる」と、消費者の実店舗に対するニーズが明らかに存在することを指摘します。

しかし一方で同氏は、「小売店の大多数は、月並みで退屈の極みなのだ」と断じ、「ほとんどの店に入っても、ろくなことがない点に問題がある」と実店舗の課題とその理由について、「実店舗に渦巻く退屈のスパイラル」や、それを打破するための考え方などを解説しています。詳しく知りたい方は本書をお読みください。

実店舗の最重要商品は「体験」だ

ここで著者は、実店舗が目指すべき体験の目標を3つ提示していますが、これらの目標に共通して言えるのは、商品を売ること自体に重きが置かれていないということ。スティーブンス氏は、「あらゆる販売拠点や販売チャネルでの販売促進につながるような効果的な体験空間づくりこそ、店舗のゴールになる」と述べています。

つまり、実店舗のメディア化とは、「現実のショッピング空間こそが、最も強力で直接的な影響力を持つきわめて重要な存在になる」ことが求められるのです。

とはいえ、現実の小売の姿と上記に挙げたような小売の姿にギャップがあるのは事実です。それでも、「これまでの小売店の常識を破壊し、未来の小売店の可能性や行方に思いを馳せるときがついにやってきた」と、同氏は今が変革のタイミングであることを強調。「未来の小売スペースで買い物客に提供できる最重要商品は体験になる。そして、そのような時代に最大の勝利を収めるのは、体験をどうデザインし、どう実行し、どう評価すればいいのか考えている小売業者だ」と鼓舞します。

本書ではメディア化した店舗の未来像について、より具体的に事例を交えながら紹介しています。また、店舗がメディア化した際の小売店とメーカーの関係や、店舗で働く未来の従業員のあり方についても言及していますので、興味のある方はぜひ本を手に取ってみてください。

小売の未来は、「サングラスが必要なほど明るい」

最後の第Ⅳ部は「小売再生戦略」をテーマに、小売業界に関わるプレイヤーに向けたさまざまなアドバイスがまとめられています。小売業界には「今日の小売とは似ても似つかない未来が待ち構えている」ものの、「「唯一の最適解」は存在しない」のも事実。その中でもスティーブンス氏は、「「なにを売るか」ではなく「いかに売るか」」の重要性をていねいに解説したり、「今ある常識は、将来、必ず誰かの手で徹底的につくり直される」という視点から、イノベーションとは何なのか、どう取り組み、何がポイントになるのかといった実務的/心構え的な提言をしてくれます。


本書が一貫して主張しているのは、小売店舗をただ単に商品を販売する場として活用するのではなく、現実空間だからこそ得られる「体験」を提供すべきということ。それを実現させた実店舗は、他のメディアよりも強力で消費者の記憶に残りやすいメディアへと変革することができるのです。

コロナ禍もあって店舗の閉店などネガティブなニュースも多い今だからこそ、実店舗に関わる全ての人にとって学びと発見が非常に多く、そして何よりも勇気づけられる本ではないかと思いました。スティーブンス氏は小売の未来を「サングラスが必要なほど明るい」とポジティブに捉えていますが、その言葉どおり、小売業界はワクワクするような可能性に満ち溢れているのだという気持ちにさせてくれる一冊です。


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