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魅力的な空間を創り、活気ある地域に変える “空き店舗・スペース”の可能性

パンデミックが “スーパースター都市”に与えた影響

新型コロナウイルスのパンデミックが終息し、日常を取り戻したことで街も賑わっている印象がありますが、世界の都市ではパンデミックをきっかけに様々な変化が生まれ、不動産活用においても新たな可能性を模索するケースも出てきているようです。

マッキンゼー・グローバル・インスティテュートが2024年1月に発表したレポートでは、パンデミックが米国、欧州、アジアにおける「スーパースター都市」(ニューヨーク、サンフランシスコ、パリ、ロンドン、東京など)の不動産に与えた影響をリサーチ。各都市で影響の大きさは異なるものの、パンデミックがもたらした行動変容によりスーパースター都市では不動産が「深刻な問題に直面」している一方で、さらなる都市の繁栄に向けて「変革を実現する好機」でもあることを伝えています。

さらに、都市の繁栄に寄与するためには、オフィスや住宅、商業が多様な形で混在する街づくりや、顧客の希望に応じて医療ビルをホテルやマンションに転用できるような適応性を追求したハイブリッド型のビル開発を検討することが有効な手段と考えられること。さらにビルの適応性を高めることは、小売店舗の閉鎖や店舗面積の縮小など、昨今の変化するテナントニーズに継続的に対応できるようになることから有効なプローチであると述べています。

そして、商業スペースを利用する小売業者(都市中心部のテナント)は適応性と柔軟性に優れたスペース設計を通じて、オムニチャネルリテールや体験型店舗を展開するなど、「訪れたくなる環境の整備」への取り組みが求められているようです。

また、こうした取り組みを実現させるには、再開発の資金確保、ゾーニング規制に関する法整備なども必要になるため、投資家やデベロッパー、行政など多種多様なステークホルダーの動員が欠かせないことについても触れています。

参考:「未利用空間とハイブリッド空間
   (マッキンゼー・グローバル・インスティテュート)

都市の再興に向けて、空き店舗活用を行政が支援するケースも

実際に一部の都市ではパンデミック以降の変化に対応すべく、行政が主体となって様々な取り組みが行われているようです。

例えば、サンフランシスコではパンデミック以降に直面している課題を解決し、市街地を再活性化するため、2023年6月にダウンタウンの将来を支援する法案が承認。十分に活用されていないオフィスビルを住宅に転換することができるだけではなく、ユニオンスクエアでは建物をオフィス、サービス、デザイン、小売、エンターテインメントなどの多様な用途で利用することが可能になりました。

さらにダウンタウンの通りに活気と楽しさをもたらす取り組みとして、2023年10月に空き店舗を活性化させるプログラム「Vacant to Vibrant」の公式ローンチを発表。ダウンタウンの空き店舗で魅力的なポップアップ体験コミュニティスペースを創出するための取り組みを進めています。

このような取り組みはサンフランシスコをベイエリアの経済中心地および世界的な商業拠点として再興するためにブリード市長が2023年2月に発表したロードマップ「Roadmap to San Francisco’s Future」の一環としても推進されていることから、都市活性化のための重要な施策と位置付けられていることがうかがえます。

シアトルではもともと店舗の用途として許可される範囲が狭いことから閉店したままになってしまっている空き店舗を診療所、ジム、アートインスタレーション、美術館など、より柔軟な用途で活用できるようにする法案を2021年8月に可決。その後も、2023年6月にダウンタウン活性化計画の一環としてオフィスから住宅への転換を促進したり、路面スペースや全フロアで小売・レクリエーション用途の許容範囲を拡大するなどの計画を発表しています。さらに、2024年3月にはダウンタウンだけでなくベルタウン、アップタウン、サウス・レイク・ユニオンを含む都市における主要道路沿いの既存ビルの空き商業スペースを埋めることを目的とした新しい法案を提出するなど、積極的に取り組みが進められています。

ハレル市長によると「ダウンタウン活性化計画は、過去を再現するのではなく、私たちの都市中心部を活性化し、“One Seattle”の価値観に沿った未来のダウンタウンを構築するための包括的なアプローチ」と述べており、これらの取り組みは先述したマッキンゼー・グローバル・インスティテュートのレポートで言及されていた“都市繁栄の好機”と捉えることもできそうです。

また、ダウンタウン活性化計画には、空き店舗を活用したユニークな小売体験の創出も計画に含まれており、その一環として地元の中小企業やアーティストとダウンタウンの空き店舗をマッチングするプログラム「Seattle Restored」も展開。ポップアップストアやアートインスタレーションを開催することで地元の中小企業やアーティストを支援するだけでなく、空き店舗のオーナーにも利益をもたらすことで、活気に満ちた魅力的な街づくりを目指しています。

空きスペースのポップアップストア活用は、物件オーナーとブランドにとってWin-Winの取り組み

各都市で行われている空き店舗を活用したポップアップストアの取り組みは、地元のアーティストや小売業者にとって新しい顧客と出会う機会にもなっているようです。世界的なオンライン インキュベーター/アクセラレーターのFasterCapitalも、空きスペースをポップアップストアとして活用し地元の起業家の製品やサービスを提供することは、地域経済に波及効果をもたらすことだけでなく、アーティストや起業家にとって新しいコミュニティとつながる機会となり、小売業者にとっても新しい市場や製品をテストする機会になること。そして、ブランド認知度を高め、話題を生み出すための費用対効果の高い方法だと述べています。

その一方でポップアップストアの取り組みは場所の選定や契約など考慮すべきことも多いため簡単ではないようです。ポップアップストア活用にはチャンスと難しさがある中で、空きスペースを貸し出したい企業と、出店したい企業をマッチングさせるサービスがスタートアップを中心に登場しています。

例えば、2017年に米国ヒューストンで創業したPopableは、ポップアップストアを出店したいブランドと空きスペースを貸し出したい事業者をつなぐプラットフォームを提供しています。ブランドは手数料無料、スペース提供者も少額の掲載料でプラットフォームを利用できます。同社は2022年にウォルマートと戦略的パートナーシップを結び、中小企業がウォルマート店舗の小売スペースを長期契約せずとも一時的なリース契約が可能となりました。

スウェーデンのストックホルムで2019年に創業したxNomadも、ポップアップスペースのマーケットプレイスを展開する企業。すべてのスペースにおいて同社が検証・品質管理しており、出店したいブランド側はウェブ上でスペースを独自に検索できるほか、xNomadの専門スタッフによってスペースを探すサポートを受けることも可能です。オーナー側のスペース掲載料は無料で、スペースの契約が決まった際に手数料を支払う仕組み。法的契約や財務、預金などはオンラインで自動化されるため、負担を減らしながら物件を貸し出すことができます。

このように、空きスペースを貸したい人と借りたい人のマッチングには一定のニーズがあることがうかがえます。

国内で進む、商店街や商業施設の空きスペース活用

国内に目を向けてみると、冒頭ご紹介したマッキンゼー・グローバル・インスティテュートのレポートでは、東京はグローバルな他都市と比べ、どの区画も働く人以外にも来街者を呼べるコンテンツがあり、すでに適応性や柔軟性が備わっていることから、質的に異なる状況であるようです。
しかし、人々の働き方、住み方、買い方は常に変容しているため、オフィスや商業施設の空間が訴求できる価値について再度考える必要があること、そして、街や界隈としての価値を高める取り組みを通じて、東京にさらなる活気をもたらす可能性があることについて言及しています。

東京以外でも少子高齢化による地域経済の縮小や過疎化などが課題とされる中、地域活性化のため商店街の空き店舗を活用し、魅力ある街づくりを通じて来街者を増やす取り組みが各地域で行われています。
例えば、名古屋市は商店街の商業機能再生を図るためのモデル事業として、空き店舗のリノベーションを契機に商店街や地域の活性化を目指すための取り組み「ナゴヤ商店街オープン」を継続的に開催しています。単に空き店舗をリノベーションして開業させることだけが目的ではなく、周辺エリアへの波及効果も期待できる事業プランを検討し、継続的に商店街や地域の活性化を目指すチームづくりのきっかけにすることを目的としているようです。

他にも通行量の多い商店街では、空き店舗ではなく既存店舗の空きスペースを活用することで店舗の収益を確保し、地域活性化を図る動きが出てきています。
例えば、書店の提供可能な空きスペースと利用したい事業者を目的に合わせてマッチングするレンタルプラットフォーム『ブクマスペース』は、店内の催事スペースや軒先スペースを活用してポップアップショップを出店することで、書店だけではなく、出店者にも新たな顧客との接点を創出し、来店客には予想外のモノやサービスと出会う機会を提供することで、街の書店に新たな賑わいをもたらすことを目指しているようです。

また、SHIBUYA109渋谷店がファッションに特化した戦略的なポップアップスペースを開設したり、横浜市営地下鉄や神戸電鉄が運営する駅構内スペースをポップアップストアとしての利用募集を開始するなど、自社が持つ遊休スペースを活用する取り組みやニーズも拡大しているようです。

スペース所有者と出店者をつなぐマッチングサービスに注目

このような潮流の中、スペースを貸したい人とスペースを借りたい人をつなぐマッチングサービスに特化したスタートアップが国内でも登場しており、東芝テックは小売・商業不動産業向けのDX推進事業を展開するスタートアップ企業、株式会社COUNTERWORKS(以下、カウンターワークス)へ2023年に出資しています。

カウンターワークスは、「すべての商業不動産をデジタル化し、商いの新たなインフラをつくる。」をミッションに掲げ、ポップアップストアやイベントなどの商業スペースを簡単に発見、利用できる日本最大級のオンラインプラットフォーム「SHOPCOUNTER(ショップカウンター)」や、商業施設向けリーシングDXシステム「SHOPCOUNTER Enterprise」の企画・開発・運営を展開する企業です。

空きスペースの所有者はカウンターワークスのサービスを活用することで、出店者からの予約や問い合わせ管理を効率化できるとともに、全国で所有する遊休スペースの利用募集や貸出管理も可能となります。また出店者は、利用したい空きスペースをエリアやタイプ、用途別に検索することができ、スペースごとの詳細や利用条件、注意点や問い合わせ窓口を一覧で表示可能にすることで、両者の業務の効率化を実現しています。

なお、今年行われた「リテールテックJAPAN 2024」(以下、RTJ)では東芝テックのブースにカウンタ―ワークスのソリューションを出展。展示会に訪れた多くの小売業や商業施設オーナーの方々にカウンタ―ワークスから直接ソリューションのご紹介をするとともに、貴重な声を伺うことができたとのこと。

お店単位で行なっている催事を、集計なども含めて本部で共通の仕組みを作りたい」「自分たちが求めるテナントさんとつながりたい」「テナント候補を表計算ソフトで管理しているため、管理方法や更新頻度がバラバラになってしまった結果、テナントさんへのレスポンスが遅くなり機会損失につながっている」など、様々なニーズをお聞きするなど、これから催事やイベントを展開したい企業だけではなく、今すでに催事を運営している企業にもDXのニーズがあることを再確認できたようです。

また、空きスペース活用のニーズが高まっている理由をカウンターワークスの担当者に聞いてみたところ、「催事業務は煩雑で属人化されていることが多いため、業務改革が後回しになってしまいがち。コロナ禍が落ち着いて催事がどんどん増えていき、いよいよ既存の体制では回らなくなってきているのではないかと感じています。ただ、本業ほど優先順位が高くないので、人を増やすのも簡単ではありません。そのような課題を解決する手段としてデジタルに注目いただいているのではないかと思います」と述べていました。

商業施設や店舗の空きスペース活用が今後どのように発展していくのか、私たちも注目してウォッチしていきたいと思います。

※今回のRTJにはカウンターワークスのほか、私たちの投資先である株式会社Bespo、AIQ株式会社、株式会社HataLuck and Person、ハルモニア株式会社もブース出展いたしました。

東芝テックでは、共に小売の未来にチャレンジする様々なスタートアップに投資しています。ご興味ある方はこちらもご覧ください。


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