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バレンタインの岩チョコ -妹の創作と学校の思い出- #043

バレンタインの時期になると思い出すことがある。

それは妹の作った「岩チョコ」である。

小学校高学年か、中学の最初の頃、妹はバレンタインのチョコレートを手作りしていた。好きな子や友人にあげる用だったのだろうが、妹は兄である私と、父にもくれた。

しかし我々父兄にくれるのは、基本的に失敗したものだった。

手作りの初期の頃は「市販のチョコレートを溶かし、それを固めて、粒のおおきめの砂糖をかける」という、とてもシンプルというか原始的な作り方で、出来上がったチョコレートは、大きめのごつごつした石のような見た目だった。

「はい、お父さんとお兄ちゃんの分」

妹は笑顔である。

それは岩のように硬かった。食べた私と父は顔を見合わせた。

「これは…歯が、折れるな」

父が言った。

まあ味は美味しいのだが、それはそのまま溶かして固めたチョコレートに砂糖をかけた味だった。ここで美味しいと褒めてしまうと、来年も再来年もこの岩チョコをくれるかもしれない。

そう戦慄した私は「味はうまいけど…、ちょっとでかいし、硬すぎるのだが…」とおずおず言った。妹は「そうなんだ、私、食べてないんだよね!」と元気一杯だ。

妹はその後も毎年作り続け、数年後にはトリュフや生チョコなどを作るようになった。

それはもちろん美味しかったのだが、私はそれよりも、その岩チョコのことをよく覚えているのである。


もうひとつ覚えているのは、バレンタイン当日の謎のわくわく感だ。

学校に登校した私は、まず下駄箱を注意深く見る。

「ないか…。机かもしれないな」

そして、自席につくと冷静にかばんを下ろし、机の引き出しにそっと手を入れた。

「…ないか」

よく探してみたが、どうも箱や袋らしきものはないのだった。ある年何か固いものが手に触れ、出してみたら、それは自分の筆箱だった。

いやしかし、まだ朝である。放課後までは授業もあるし部活もある。私はそう考えて、放課後までそわそわしながら過ごすのである。

他の誰かがもらっているのを見ると、ちょっと悔しい気持ちになり、女子がそわそわしていると、こっちまでそわそわしてくる。これはもう授業どころではない。

授業や部活が終わり、「ということは、帰り際や帰り道か?」と思いつつ、その頃には半ば諦めかけた気持ちで帰路についた。

そうか、バレンタインはその数週間前から戦いが始まっているのだ、と私は間もなく気づいた。

女子からチョコをもらいたい男子は、数日前から重いものを持つのを手伝ったり優しいアピールをしたり、直接的に「チョコくれない?」と聞いていたりした。抜け駆けしやがって、と思いつつも、勇気があるやつだ。

それをしてこなかった私はもらえず、ああ、家族から今日の収穫を聞かれたらいやだなあと思っていた。

帰宅した私は、部屋で昨日少し齧って歯が折れかけたから冷蔵庫に戻しておいた妹からの岩チョコを、少しずつ噛んだり溶かしたりしながら食べたのだった。

2024年1月22日執筆、2024年2月4日投稿

(後記)
妹の話を書くつもりが、気づけばずいぶんと切ない話になってしまった。

読んだ妻は「これ…可哀想だね」としみじみ言った。気の毒に思ったようだった。

「まあでも、少なくとも読んでも誰も傷つかない話ではあるかなぁ」と呟いた私に妻は言った。

「…つなまよ以外はね」

せつない。

(追記)
2/3(日)にハンバートハンバートのLIVE、「ハンバートのFOLK村(東京国際フォーラム)」を聴きに行った。彼らのライブにはここ数年毎回行っているのだが、今回いつもよりセットリストに恋の曲や失恋の曲が多かったように感じた。

ライブの翌日に本エッセイを投稿予定だったので、なおさらそう思ったのかもしれない。でも恋をすることは生きることだから、フォークソングには恋の歌が多いのかもしれない(恋する気持ちがない方もいるし、それももちろんよいと思っていますが)。

1曲目が新曲の「恋はいつでもいたいもの」だったからかもしれない。もしまだ聴いたことのない方がいらしたらぜひ。

ライブはいつも通り素敵なトークと音楽で、最高の時間でした。遊穂さんと良成さんがご夫婦で通っている耳鼻科の方が、ライブにいらしているというお話が衝撃でした。

なんだか失恋の話ばかり書いてますが、今好きな方がいる方、その恋が実りますように。

(追記2)
最近Ado様にハマっていて、いろいろな曲(やラジオ)を聴いている。

youtubeのプレミア公開で「ショコラカタブラ」を、ファンの皆さんのコメントを観ながら聴けたのは楽しかった💙

USJのハロウィンや映画Onepieceなどなど、いろいろなコラボが立て続けに発表されている中で、ロッテチョコレートとのコラボまでとはまた素晴らしい。

バレンタインの曲は「ギラギラ」や「永遠のあくる日」などいろいろあって、どれも歌い方が違っていて本当にすごいと思う。4/27-28の国立競技場でのライブが楽しみだ。

(おすすめエッセイ)

妹が登場する別のお話はこちら。

父サチオの話

プロフィール、自己紹介はこちら

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