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小説 詩篇

11
聖書の中の「詩篇」と共に歩む大学生の日常を小説にしています。 人生のその時々に、必要な言葉が現れる。
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記事一覧

小説 詩篇 11篇

小説 詩篇 11篇

11

そうだ、祈ろう。

実家での朝。
ずいぶんと早く目が覚めてしまった。

昨日は最悪の気分で布団に入った。
ずっとモヤモヤ、イライラしていた。
そのまんまの気分で起きた。
どんな夢かは覚えていないが、随分と脳を使ったようだった。

そうだ、外に行こう。
歩きながら祈ろう。

スマホの画面に聖書アプリからの通知。
『鳥のように山に逃れよ』
少し気持ちが軽くなった。

詩篇の11を読みながら家の

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小説 詩篇 10篇

小説 詩篇 10篇

10

実家に帰ることにした。
大学の夏休みは長い。まだまだ続く。

僕には弟がいる。
二つ下の弟は高二。
仲はそんなに良くないと思う。

弟は勉強ができない。
いや、地頭は僕よりもいいと思う。
でも勉強をしない。

中学が終わりかける頃の、壮絶な反抗期の後、あまり家に帰らなくなった。
そんな弟に父さんは何も言わなかった。
母さんだけがオロオロとしていた。

僕はそれに腹が立っていた。

そんなこ

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小説 詩篇 9篇

小説 詩篇 9篇

9

「心を尽くして、
 心を尽くして感謝します!
 あなたのことを語り伝えます!
 あなたを喜び、誇ります!
 いと高き方!あなたの名を誉め歌います!!」

そんな祈りと共にキャンプは終わった。
感動して感動して、そんな大胆な祈りを心からしたのだ。

そしてまた、元の生活に戻っていった。

一人の部屋に戻ると孤独が襲ってきた。
孤独は不安を呼んだ。
不安は恥を生み出した。
恥は虚しさとなった。

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小説 詩篇 8篇

小説 詩篇 8篇

8

キャンプにきている。

キャンプと言っても焚き火したりテントをはったりのキャンプじゃなくて、
合宿みたいなやつだ。

聖書研究会みたいな部活は他の大学にもあって、
そのクリスチャンたちが集まってキャンプをする。
面白い文化である。
教会でも話はよく聞いていたけど、なんか苦手そうで行くことはなかった。

「わたしたちの神様」そんな祈りを、
前で自分と同い年の人がしていることが不思議だった。

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小説 詩篇 7篇

小説 詩篇 7篇

7

問題はカンニングがバレそうになった同級生たちだった。

急に緊張してきた。
すごく怒っていたらどうしよう。。。

教室に入る。
別の授業だが彼らはいる。
怖くて顔を上げられない。
彼らの顔も見れないが視線は感じる気がする。

席について聖書のアプリを開く
『わが神、主よ、わたしはあなたに寄り頼みます。
 どうかすべての追い迫る者からわたしを救い、
 わたしをお助けください。
 さもないと彼ら

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小説 詩篇 6篇

小説 詩篇 6篇

6

「主よ、僕を責めないで。
 僕を懲らしめないで。
 憐んでください。疲れました。
 癒してください。僕の魂が震えています」

疲れ切った体を、そんな祈りと共にベッドに沈めた。

学期末のテストだったのだ。
疲れてたんだ。
目の前で小さな紙を手渡しする場面を見て、また「あっ」と声を漏らしてしまったのだ。

集まる教室中の目。
先生に注意される彼ら。
こちらに向けられる敵意。
僕はいたたまれなか

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小説 詩篇 5篇

小説 詩篇 5篇

5

「私のことばに耳を傾けてください!主よ!
 私のうめきを聞き取ってください!
 私の叫ぶ声を耳に留めてください!」

こんな祈りと共に目覚めたのは、
二日酔いの朝だった。

昨日読んだ言葉が祈りとなったのだ。
本気で苦しいからだ。

初めての二日酔い。
こんなにも苦しいのか。

しかし、朝から祈るのも初めてだ。
苦しみもまた、良いこと、ともなんとか言える気もしないでもないこともない。
「私の

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小説 詩篇 4篇

小説 詩篇 4篇

4

文学部の授業に真面目に受けている学生はいない。
ある日の一般教養の授業で僕は最悪な状況に陥った。

入学して三ヶ月が経っても僕は、当然のように友達のいない生活を送っていた。
その日も日本史の授業では前の方の人気のない席に一人座っていた。

しかしその日はたまたま、キリスト教について触れられたのだ。

「えー、このようにキリスト教でも十戒を中心とした律法が重要な位置を占めており、
 信者はそれ

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小説 詩篇 3篇

小説 詩篇 3篇

3

もう入学して1ヶ月が経つのに、僕には友達がいない。
どうしても、大学生のノリについていけないのだ。
当然のように彼女もできない。

墨田聖書教会が僕の逃げ場所だった。
教会はいい。
座っている僕に誰も話しかけることはなく、そっとしておいてくれた。
静かな空間の中で寂しさが癒されていく。

この日も静かに端っこに座っていた。
そのうちに古い讃美歌が流れてきた。

「主よ、わがあだびと、いとも多

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小説 詩篇 2篇

小説 詩篇 2篇

2

今日も大学は賑わっていた。

新入生を盛ん勧誘する先輩たちに、
はしゃぐ後輩たち。

どうしてあんなに騒いでるんだろう。
どうして、なにを企んでるんだろう。
僕が感じる虚しさは、いったいなんなんだろう。

足を進めると、僕も取り囲まれた。
「ぜひ来てね!」
と、心のこもっていない、数えきれないほど吐いたであろう言葉が聞こえる。

「そんなことでいいのか君は!」
「せっかく大学に来たんだから楽

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小説 詩篇 1篇

小説 詩篇 1篇

1

「しあわせだなぁ」
そんな言葉が口から出てきて驚いた。

昨日はクラブで、
大学の新歓があった。

目の前で男女のあれこれが起こり、
虚しさを抱えて帰った。
教会にいた大学生の兄ちゃんが言ってたことは本当だった。

そして今朝はなんとなく、早くに目が覚めてしまって散歩に出た。
1人、神戸から東京の大学に通うために上京してきたのは、つい2週間前のことだ。

大きな川の近くに住むのが夢だった。

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