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#ファンタジー

小説『洋介』 エピローグ

 帰り道。
落ちている石を、おもむろに宙に浮かせる少年。
背負うランドセルより高く石は浮かびあがり、そしてクルクルと回る。

 秋、夕日がかった河原、周りに人はいない。

 土手の上から河原を見渡しながら、少年はこの一年のことを思い返す。
一年前のあの日、夕日が心に刺さったあの瞬間にすべてが始まったのだ。
あの日から世界の見え方が、感じ方が、広さが変わった。

「おーい!」
後ろから声をかけるもう

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小説『洋介』 最終回

小説『洋介』 最終回

 帰り道。今日は一人。
ゆっくりと朝の閃きを見つめなおす。

頭の中は水の様な透明で、澄んでいる。
心地がよかった。

「生きる意味は幸せになること」
このアイデアは心を元気にする力があると思った。

歩きながら考える。
僕の幸せってなんだろう。
お父さんとかお母さんの楽しそうな顔が浮かんだ。
ペスが元気な姿が浮かんだ。
あの子が笑っている顔が浮かんだ。
僕はみんなが幸せだったらいいなぁ、と思った

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小説『洋介』 19話

小説『洋介』 19話

朝。
学校に行く道。
河原の横を歩く。
太陽が水に反射して、キラキラと揺れながら光る河原を、少し早足で通り過ぎた。

もう少しで学校というところだった。
突然、頭にピーンとなった。
何がきっかけかはわからない。
閃きだけが急にきたのだ。

頭のてっぺんから一本の電流が心に向けて走り、
その閃きが頭をいっぱいにした。
うおお!と叫びたくなった。

「掴んだ!」
と、言った。

 その直感はまだ言葉で

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小説『洋介』 15話

小説『洋介』 15話

 春休みが終わり二人は6年生になった。
去年に引き続き、彼女と同じクラスになった。
と言っても、そもそも2クラスだけしかないので、確率は50%。驚くほどのことでもない。
発表の時に小さくガッツポーズはした。

 新しいクラスでも彼女は人気者だった。
わいわいと楽しそうに、囲まれている。
やっぱすごいな。
その光景を眺めながら、僕は教室の隅でぼーっとしていた。
時々、前の席の洋ちゃんが話しかけてくれ

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小説「洋介」 14話

小説「洋介」 14話

 季節は春になった。
一週間の春休みが始まる頃。
終業式の後、二人は河原にいた。きっと二人は両想い。

 石を浮かせるまでにもう1分もかからない。
彼女が隣にいても、スッと静まることができる。
そしてゆっくりと、縦にも横にも石を動かすこともできる。

静まりのスイッチをオンにしている状態は心地いい。
周りが静かになって、頭が冴えてくる。
いろんなアイデアが浮かんでくる。
それが楽しい。
本質を掴む

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小説「洋介」 13話

小説「洋介」 13話

 始業式の朝。
教室につくと、久しぶりに見るあの子がいた。
なんとなく緊張してしまった。
あのあと何度か河原に行って練習をしていたが、結局冬休みの間は一度も会えなかった。

そのときは目が合っただけで会話なかった。
他の女子と話していたし、そのあとすぐに体育館に移動したから。
そして校長のあいさつやら、連絡事項があり、その間、一度も会話はなかった。

すぐに帰る時間になり、校門を出たところで彼女が

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小説「洋介」 12話

小説「洋介」 12話

 冬休みに入って一週間が過ぎた。

 親戚が家に来たり、家族でおばあちゃんの家に行ったりした。
普段は仕事で忙しい両親に、ここぞとばかりに連れ回されて、僕も忙しかった。
そのため、冬休みに入ってから河原には、行くことすらできなかった。つまりはあの子にも会えない。
会うためには家に直接行くしかない。
河原からすぐのところにあるらしい。
三丁目のスーパーの近くの一軒家らしい。
探せばすぐ見つかるだろう

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小説「洋介」 11話

小説「洋介」 11話

 決意の翌日。

 学校であの子を見つけると、うれしくなって「おはよう!」と笑顔で話しかけた。
僕の前日からの変わりように彼女は驚いているようだった。
そうだった、昨日は気まずかったんだっけ。

彼女は少し照れくさそうに「おはよう」と言ってくれた。
その間に流れる空気に少し緊張した。
でも、自然な流れにゆだねようと決めたのだ。
リラックス、リラックス、感情が自然に出てくるままに。
緊張はあっても、

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小説「洋介」 10話

小説「洋介」 10話

 次の日の学校。

 ロクにあの子の顔を見ることができない。
さっと顔を避けてしまう。
彼女もこっちを見ないようにしている気がした。

 放課後、河原に行ったが、とても練習する気にはなれない。
今日、あの子が来る可能性は低いけど、なんとなく土手に座って、あの子のことを考えていた。
「どうしてキスしたくれたんだろ。僕のことすきなんかなぁ」
そんなことを、足をバタバタさせながら、にやにやして考えた。

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小説「洋介」 9話

小説「洋介」 9話

 最近は日が沈むのも早くなった。
河原に来ても、長くいられないのが残念だ。
夕日に間に合わないこともあった。

でも浮くまでのスピードも、ずいぶん早くなった。
最初の時は、浮くのはいつも、ピンポン玉ぐらいの大きさの、きれいな丸い石だった。
最近は、違う石が浮くこともある。大きめの石も時々浮く。。

この時はまだ、特定の対象を浮かすというよりは、浮いてくるのを待つという感じだった。どうやって浮く石が

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小説「洋介」 8話

小説「洋介」 8話

 石を浮かせられるようになったと、僕は確信した。
その方法を掴んだ、と。
あれから何度も、石を浮かせることに成功した。
特に意識していないが、いつも浮いてくる石は同じな気がする。

しかも、どんどん早くなっている。
浮かせるまでの一つ一つのポイントも言葉にして理解できている。
うれしい。
特に何がしたいとかじゃないけど、うれしい。

さらに熱心に、毎日夢中になって練習した。
練習は河原でのみ、ほか

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小説「洋介」 7話

小説「洋介」 7話

 河原についた。
誰もいなかった。
河原に来るともう、自然にスイッチが入る。
太陽のほうに体は向いていて、集中に入る。
ここまでは無意識だ。

心を静めて、自分の中の声を聴く。
目を閉じているよりは明るいほうをぼうっと見ているほうが集中できる。

「ん?あれ?お?」

 ぐんぐん集中が進んでいく。
今日はなんだか調子がいい。

自転車が乗れるようになった時を思い出した。
一度できたら、できなかった

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小説「洋介」 6話

小説「洋介」 6話

 次の日の学校。女子に話しかけられた。
「なぁ、昨日河原おらんかった?」
 ギクリ。なんとなく嫌な気持ち。
河原の練習のことを知られたら自分の世界に集中できなくなる。

「いやまぁ帰り道やし」
 ちょっとぶっきらぼうになってしまった。

「ふーん。なにしてたん?」
「べ、別に。ただ河原すきやねん」
「そうなん?!私も!」
 いきなりテンション上がるやん。
クラスで話すときは関西弁になるんだ。

 

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小説「洋介」 5話

小説「洋介」 5話

 初めに石が浮いてから3か月。
二回目から2ヶ月。
今日もいつものように、誰もいない河原で練習していた。

もはや石を浮かそうという気持ちは薄れている。
むしろこの静まる時間が好きになっていた。
石を浮かすことは頭の片隅にそっとある、という感じだった。

ちょうど1時間ぐらいたち、周りの色がオレンジを過ぎ、青が少し混じってくるころが好きだ。
心は静かに、温かい気持ちになっていく。

そして段々と、

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