今週の書評欄 20241103週

今週分の、日経、読売などの5大紙の書評欄から。

●未整理な人類
人間の持つ目的合理性、あるいは社会的に理解できる範囲から逸脱し、はみ出たものたちに眼差すエッセイ集。「男子トイレの小便器のフタだけ全部盗んでしまう人」みたいな、訳わからなさに光を光を当てている著者とのこと。
生成AIの登場と脳科学の進歩で、人間の脳はインプットされた情報から行列計算する機械で、予測マシーンであるという認識が出てきた。だが人間の特異な点があるとすれば、自律神経系やホルモンといった身体から生成される「ヘンテコさ」、すなわちランダムネス、予測不可能性であろう。
映画マトリックスでAIが人間を飼っていたのは、著者が光を当てるような「訳わからなさ」を調達するためだろう。そして自然の中に複雑系を担保させている。意外とこういった予測不可能性に目を向けることは、これからの生成AI時代に無視できない作業になったりして。
最近、ヴァージニア・ウルフの『灯台へ』が、新訳で文庫販売されている。ただただ登場人物たちの「意識の流れ」が描かれている小説だ。使われなくなった洋服を見て、これまで使用者が忙しなく手を動かしてボタンの開け閉めがされたのだろうなどと意識に上ってきたりする。こんな目的合理性の外にありそうな記憶と意識をAIに発生されるにはやっぱ人間の身体のような機構が必要なんだろうと思った。

●ほんのささやかなこと
毎日新聞の中島京子さんのすばらしい書評だった。
アイルランドのカトリックに基づいた保守的な国と主人公の織りなす小説である。
マグダレン洗濯所なる収容所が、1996年まで存在し、婚外子女性の収容、その子どもは強制的に里子に出されていたのは知らなかった。

そのマグダレン洗濯所と現在の政治観について、コリン・ジョイス氏のレポートもおもしろい。アイルランドが上記の収容所などの反省から、ここ30年でめちゃくちゃリベラル化しているとの報告。

●強い通貨、弱い通貨
通貨の変遷と今後の予測。
現在はアメリカドルが、世界経済の重心になっているが、果たして。アメリカドルの信用が崩れたら世界経済の覇権は一度大きく揺らぐだろう。
まもなくアメリカでは大統領選である。トランプ大統領になったら自国中心主義が加速する可能性もある。そうなると経済体制や世界の海上の安全保障などに影響があるだろう。ドル通貨の信用の安定性を保てるのか。

●バディ入門
社会がリベラルになり、個人の自由が最大化されて、これまでの普通とされていた人間関係以外にも多様な関係がありうる。
男女、先輩後輩、夫婦といったこれまでのカテゴリーには、幾分かの非対称性が含まれている感覚がある。もちろん力が完全に対等な関係などありえない。
だが、バディという言葉と関係性は、フラットな関係性、これからの関係を考えるうえでヒントになるのかもしれない。

●神と銃のアメリカ極右テロリズム
トランプ大統領が2020年選挙で敗れた際、必要なら武器を持って闘うべきとした共和党員は当時3割にのぼった。白人至上主義者は7〜10万人、高度に武装した民兵は最大2万人。書評を読むだけでお腹いっぱいである。


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