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すまいの変化は、人生の旅。 どこへ行き、何を感じ、どのようにくらすか。 Interview 大田由香梨さん 後編

築190年の日本家屋〈シラコノイエ〉の改修をきっかけに、都市と自然、それぞれのくらしにおける「日常」の捉え方が変化してきたという大田さん。後編では、ライフスタイリストとして、美意識やもの選びの確かな審美眼を持つ彼女ならではの日々の生活の楽しみかた。また、幸せや豊かさの定義が多様化する現代を軽やかに生きるための、すまいづくりの心得をお聞きしました。

>前編は、こちら。
「築190年の日本家屋に考える、本質的なくらしの豊かさ。」


ー 改めて、大田さんのライフスタイリストの活動について教えてください。

大田さん(以下、大田):現代は多角的な社会とのつながりの中で生きる時代。なので、ライフスタイリストの肩書きは「大田由香梨」を伝えるうえでの総称のようなイメージです。

もともと、わたしはファッションスタイリストとして活動をスタートしているのですが、スタイリストは眼にみえる物質的な組み合わせを考える仕事。デザイナーがつくり上げた服をどのように組み合わせて、どのように着こなし、どんな方に着てもらうことで価値を高めるか。ただ、 結果的に求められることは、その空間や人、ものごとから醸し出される目には見えない空気感やオーラのようなものを引き出す仕事だと思うようになりました。

大田:これは衣食住すべてに共通することで、さまざまな要素を、いかに組み合わせていくことで最大価値を創造していくかという視点から考えています。今まで役割が分断されていたものが、ライフスタイリストとして横断したものの見方をすることで、プロジェクトや社会を俯瞰で見ることができます。この数年は“今”だけではなく“未来”にとっての価値を想像することに仕事の基準を置いています。

ー そんなお仕事の一環として、千葉市美浜区にある「稲毛海浜公園」のプロデュースなども手掛けられています。もともと、大田さんと千葉はゆかりが深かったのですか?

大田:千葉とのご縁は数年前から始まり、稲毛海浜公園でのプロジェクトもそうですが、木更津の〈KURKKU FIELDSクルックフィールズ〉にも訪れるようになり、オーナーで音楽プロデューサーの小林武史さんの思考や活動に共感したことがきっかけで、この7月には「Living Workshop」という循環型のくらしを通じて生まれるウェルネスなライフスタイルについて参加者のみなさんとともに考えるプログラムも実施しました。

n'estateの提携拠点のひとつでもある千葉県木更津市の〈KURKKU FIELDS〉

大田:そうして導かれるように千葉という土地と触れ合う機会が増え、私の中で存在意義がとても大きくなっていきました。東京という世界的に見ても特殊な大都市のすぐ横に、循環型のスローライフがあるということは、とても素晴らしいですよね。物質的な豊かさももちろんですが、これからの時代は心や精神がつくり出す世界も同じく大切で、豊かさの基準となる時代。そんな豊かな心をつくり出す環境として最高のフィールドだと感じています。

ー 現在、どれくらいの頻度で東京と千葉を行き来されているのですか?

大田:週に一度は必ず。週末になることが多いですね。
まだまだ修繕の途中なので、今年一年は徐々に手を加えつつ、自分たちでくらしながら。来年くらいからは、もっと開けた場所にできたらいいな。
〈シラコノイエ〉は核家族がくらしていく家というよりはパブリックスペースとして、みんなで関わっていかないと維持していけないと思っているので、くらしのケーススタディやリトリートの場所として、ワークショップなどさまざまなかたちでコミュニケーションを取っていきたいと思っています。

季節の手触りを感じて、記す。この家だけのくらしの暦。

格子窓から柔らかな光が差し込むバスルーム。

ー 〈シラコノイエ〉にいるあいだは、どのように過ごしているのですか?

大田:家の修繕や庭の手入れなどもありますが、ぼーっとするような時間もあります。とくに夏場は日中は暑すぎるので、何か作業をするならば朝イチで。この辺りは日本のなかでも早く日が昇る地域なので、4時半頃に起きて海へ朝日を見に行って、少し作業をしたあとは水風呂を浴びて、昼寝をしたり。朝と夕方しか作業ができないから、東京で過ごす一日とはライフバランスが違ってきますね。

2021年の春から、庭の整備をしながら家の解体をはじめて、解体が終わった2022年はずっと修繕を。やっと今年から家に身をおけるようになったので、四季を感じることもそうですし、家の中の気温や空気など、一年の移ろいを日々、新鮮に感じながら過ごしています。

現在は、カレンダーとは別に〈シラコノイエ〉の二十四節気にじゅうしせっきを作成中。その暦をもとに庭の手入れやくらし方を記録するようにしています。

ー ゆっくりと四季を巡るのは今年がはじめてとのことですが、〈シラコノイエ〉に通いだして三年目。大田さんのお気に入りの季節はいつですか?

大田:わたしは冬が好き。〈シラコノイエ〉はすごく静かなんですよ。
今はちょうど夏の虫がやっと鳴きはじめた頃で、これもまた気持ちのいい時期です。辺りの田んぼからはカエルの声が聞こえてきて、これからセミも出てきたら、それこそ大合唱です(笑)。
そうして秋が近づいてくると鈴虫がやってきて、その時期も過ぎるとすごく静かになるんです。冬になると植物も落ち着くので、しんとした空気のなか、庭仕事に励みます。

夏はどんどん植物が生えてきちゃうので、それはもう放置。そのぶん食材もたくさん採れるので、収穫や加工に時間を充てて。先週と先々週は梅を収穫しました。〈シラコノイエ〉に通うようになった2021年から梅酒を漬けているので、今年は2年前のものを味わっています。

ー 大田さんのお話を伺っていると、四季の移ろいを五感で楽しんでいることがとてもよく伝わってきます。そんな大田さんが目指している理想のくらしとは、どんなものなのでしょう?

大田:すべてのことは通過点でしかないと思っているんです。それこそ現代は、家族のありかたや、豊かさの基準が変化していく時代。自分のライフステージとか健康とか、家族構成が変わればもちろんすまいも変わっていくし、住みよい場所も変わっていく。だから、わたしの親世代が思い描いていたような「夢のマイホーム」といった感覚も全くなくて、わたし自身もずっとここに住み続けるつもりはありません。

トレーラーハウスも、今このくらしだからこそ最適なんです。ミニマムなので掃除も30秒で終わるし、ガスで調理もできるし、オーブンもあるし。そういうふうに、自分のライフステージに合わせてすまいの理想も変わっていくものだと思うから、自分の環境が心をつくるように「自分に必要な場所に身を置く」ということが、きっと一番理想的なくらし。〈シラコノイエ〉も、このすまいにとってのあるべきくらしかたがまた生まれてくるような予感がしています。

心の声に耳を傾け、認め、大切にすることで、心地よいくらしにつながっていく。

大田:土地や環境、空間が変われば食べるもの、触れるもの、思考、服装、行動のすべてが変化します。いわば、すまいの変化は、人生の旅のような感覚。どこへ行き、何を感じ、どのようにくらすことで、この限られた時間の中での旅を楽しむか。そして日々の選択が、自分自身と環境と、未来をつくり上げていると思うので、その一つひとつを大切にしていきたいです。

目に見えるもの、見えないもの。くらしとは、ひとつの視点で捉えるものではなく、ゆらぎのような、あらゆる要素の流れのなかの一部分が顕在化して いるもの。やはり、自分の内側から自ずと湧き出てくる想いには意味があると思いますので、その心の声に耳を傾け、認め、受け入れ、大切にしてあげることこそが、 心地よいくらしへとつながっていくと思います。

わたしの理想は、そのときに出会い導かれた土地や人から学び、感じ、くらすこと。ひとつの場所にとらわれることなく、しなやかな人生を歩んでいきたいです。

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Photo: Ayumi Yamamoto


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