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進みすぎた時計の針を戻してくれる、街と人との軽やかなつながり。 Interview 南貴之さん 前編

自分に合ったライフスタイルを実践する人、未来のくらし方を探究している人にn’estate(ネステート)プロジェクトメンバーが、すまいとくらしのこれからを伺うインタビュー連載。第5回目は、クリエイティブディレクターの南貴之さん。現在は東京のご自宅のほか、京都、福岡にすまいを構え、三拠点生活を実践されています。

人気ブランドのクリエイティブディレクションを手掛け、忙しく全国を飛び回る南さんがオフモードの自分に戻れる京都でのくらし。そこには「住む」ことでしか見えてこない街の魅力があるといいます。空間プロデュースやバイイングにも携わる南さんならではのフィルターを通してセレクトされた心地よいインテリアに囲まれた、京都のおすまいでお聞きしました。


南貴之 | Takayuki Minami
1976年生まれ。千葉県出身。Graphpaper(グラフペーパー)、FreshService(フレッシュサービス)、OGAWA COFFEE LABORATORYなど、様々なブランドやショップのディレクションを行うクリエイティブディレクター。2023年6月には角打ち居酒屋「寄(よせ)」や新たなカルチャーを発信する「Vektor shop®(ヴェクターショップ)」などファッションのみならず、食やカルチャーにまつわるあらゆる領域を手がける。「alpha.co.ltd」代表。                                     

南さんの京都のおすまい。高い天井を生かしてリノベーションされた、開放感あふれる空間。

ー まずはじめに、東京にすまいを持ちながら、京都にもすまいを持つことになったきっかけをお聞かせいただけますか?

南さん(以下、南):じつは、東京以外に店舗を出すなら京都がいいと、ずっと思っていたんです。それで店舗用の物件を探していたら、設計士の友人が「物件持っている知り合いがいるよ」と言うので、京都に行ってみたら見せられたのが町屋の物件だったんです。店舗用の物件を探していたはずなのにね(笑)。でも、ひと通り話を聞いているうちに、なんだかこれもいいかもと思えてきて。なにより、とても安かったんですよ。

―それで、とりあえず町屋を借りてみた?

南:
そうそう。それに、僕らみたいな東京から来たヨソモノが急にお店を出すのであれば、一回住んでみないと分からないなと思ったんです。その後、4年ぐらい京都に住みながら、店舗用の物件を探すもなかなか見つからず。僕は食べることと飲むことが好きなので、飲み屋の友人ばかり増えていきました(笑)。

2020年にオープンした〈グラフペーパー京都〉。築100年以上の京町屋を改装した店舗は、奥に深い“うなぎの寝床”のような構造を活かした空間が特徴。                           

― まずは、その土地のことを知ることからはじめられたのですね。その後、京都を拠点にさまざまなアパレルブランドを運営している堂阪さん(株式会社バディー)をパートナーに迎え、2020年には〈グラフペーパー京都〉をオープンされました。

南:
それがオープン直前で、ちょうどコロナ禍に。東京のブランドとしては、東京の人をこちらに呼べなければ何も出来ないところだけれど、幸いなことにその頃にはたくさん京都の友人がいたので、わんさか来てくれて。

―京都で暮らした4年間が、ここで活きてきたのですね!

南:京都に住むことで、本当にいろんなつながりが生まれました。最近、東京で「寄(よせ)」という、立ち飲みの角打ちのお店をはじめたのですが、それも京都で知り合った人たちが手伝ってくれています。京都で「すば(suba)」というお蕎麦屋さんやっている人が蕎麦を出してくれたり、僕が大好きな四条大宮の居酒屋さんがメニューを考えてくれたり。

― 素晴らしい! プライベートで培ったネットワークがお仕事にもつながっているのですね。土地を知ることは、お店づくりにおいても為になることは多かったですか。

南:そうですね。やっぱり、お店づくりをする上で土地勘がないというのは、結構ネックになると思うんですよ。そこで何が求められているかが分からないから。なんとなく街の中心に高い賃料で店舗を借りるだけでは、大変そう。逆に今の僕だったら、京都のどこに出店しても大丈夫なんじゃないかな(笑)。

ストーリーのあるものを、愛する。心地よいすまいのヒント。

― 今日お伺いしているおすまいについても、聞かせてください。最初に住んでいた町屋から引っ越されたのには、何か理由があったのですか?

南:
僕は音楽が好きなのですが、町屋は隣と壁一枚で繋がっているので、音楽を流していると響いちゃう。それでも4年ぐらいは町屋に住み続けていたのですが、遊びに来る友人も気を遣うだろうし、引っ越すことにしました。
今の家は同じフロアに僕の部屋しかないので、ちょうどよかった。

―音楽がお好きなんですね。音楽を聴くためのオーディオセットは各拠点に?

南:各拠点にあります。そこだけは妙に気合いを入れていて。オーディオが好きなんですよ。古いものから、あたらしいものまで。

―部屋の所々に飾られたオブジェも、とても素敵です。

南:僕らが運営している「白紙(HAKUSHI)」というギャラリーがあるのですが、そこに出展される作家さんは関西や関西より南のほうで活動されている方もいらっしゃって。彼らが京都で個展をやると聞いたら顔を出して買うのですが、壊れそうなものばかりで東京には持って帰れなくて、京都のすまいに置くことになりがち(笑)。

― すまいづくりにおいて、南さんが意識されているポイントは何かありますか。

南:
基本的にあまり考えないで、好きなものを並べているのが一番心地いいと思います。もちろん、全体としての統一感は気にしますけれどね。

― 統一感というのは、例えば色味や素材感など?

南:そうですね。京都のすまいは、内装の造りは無機質に仕上げたので、家具までパキッと決めてしまうと何だか住みづらくなるかなと思って。古いものや、木のぬくもりが感じられるものを組み合わせるようにしています。

ー 南さんがおっしゃる“好きなもの”には、共通点があるのでしょうか。

南:やっぱり、ものに対する思い出やストーリーがあるかどうか。最近はコロナ禍で海外に買い付けも行けていないのですが、ヨーロッパやアメリカに自分の足で買い付けに出掛けて、話をしたり、苦労して手に入れたものと、ディーラーさんから送られてきた写真を見て買い付けたものでは愛着が違う。どちらもものとしてはいいんですけれどね。

「泊まる」だけでは分からない、街の景色が見えてくるのが「住む」ことの面白さ。

―思い入れのあるものって、やっぱり特別ですよね。それこそ、街というものにも住むほどに思い入れが生まれると思うのですが、京都に長らく住んでみて、実感したことは?

南:やっぱり「泊まる」のと「住む」のでは、感覚が違うし、見える景色も変わってくる。ホテルに泊まっていたら、近所にスーパーや薬局があることを考えないですよね。ご飯も観光客で賑わっているようなお店に行くと思うし。 僕も最初の一年ぐらいは、楽しいから有名なお店にも行きましたけれど、そういうのはすぐ満足しちゃうんですよ。そうじゃない場所を探しはじめて、そこで出会った人たちのコミュニティがどんどんつながっていくのがやっぱり楽しい。

ー そのコミュニティは、どうやってつなげていくのでしょう?

南:飲食店などでスタッフさんが紹介してくれたりして、仲良くなることが多いですね。僕、あまり同業の方々と飲まないんです。相手にも気を遣わせてしまうし。だから、飲食店やインテリアショップをやっている人とか、アート作家さんとか、全然アパレルと関係ない人たちがほとんど。

ー 業界の異なる人たちと交流することで、あたらしい刺激も受けられそうですね。

南:楽しいですよ。誰かひとりとつながると、だいたいその人のまわりに面白い人がいて、飲み行こうよって連絡すると「友達呼んでいいですか?」「いいよいいよ」って、いつの間にかみんな友達になってる(笑)。

ー でも、その関係性を3つの拠点でそれぞれ維持するのは大変じゃないですか?

南:維持しようと思うから疲れちゃうんじゃないですかね。普段、自分からはほとんど連絡もしないので、気が付いたら「最後に連絡取ったの、いつだったっけ?」みたいなこともしばしばあります(笑)。だから、そのときにタイミングが合う人たちで遊べばいいし、そこに別の知り合いが来たら「もう全部一緒にしちゃえ!」みたいな感じです。思っているよりも、気楽ですよ。

京都のすまいは〈グラフペーパー京都〉でポップアップをやってくれる作家さんに泊まってもらったり、年末年始には会社のスタッフも呼んで一緒に過ごすこともあるのだそう。 

ー なるほど、もっと楽に考えればいいんですね(笑)。そういった肩肘張らない気軽なコミュニティを複数持っておくことは、とても人生を豊かにする気がします。南さんご自身、そういった実感はありますか?

南:そうですね。東京にいると、なんだか「詰まっちゃう」ことが結構あって。時間の流れも早いし、社長業をやりながら、自らデザインやクリエイティブを進める案件もいくつか抱えていたりするので、ときどき煮詰まっちゃう。そういうときに京都に来ると、突然時間の流れが遅くなる感覚があるんです。それはきっと、リラックスできているということ。だから京都の友人たちは僕のこと、暇だと思ってるんですよ(笑)!

―のんびりリラックスしているお姿を見ているから、東京での南さんの顔を知らないのですね(笑)!

南:そうそう。京都にいると飲み歩いたり、遊んだりしているところしか見えていないんだと思う。だから京都の友人が東京に来ても、僕が朝から晩までミーティングしていたりするのを見て「あっ、ほんとに働いてはるんやな」って(笑)。
でも、僕にとってはそれくらいの関係性でいられるほうが気が楽なんです。

>後編は、こちら。
「くらしの幅を広げると、見える景色も広がっていく。」

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Photo: Ayumi Yamamoto

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