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[気づきの日記帳11]世界が感覚渦巻く場であることはわかった。で、論理的思考はそれと、どうつながるのか?

[社会人10~20年目の気づき]

感覚と論理の接合

[気づきの日記帳08]の続きです。
その企画がいい企画なのか、そうではないのか。その判断基準は、世の中での響き方です。話題になるのか、商品が動くのか、ファンが増えるのか、サービスが流行るのか。どんなに巧みにユニークに組み立てられた企画であっても、世の中に理解されなければ意味がありません。どんなに新しい視点と切り口をもった企画であっても、同じような視点で生まれた企画が直前にあれば、それは二番煎じと言われてしまい強く届かなくなることもあります。企画のプロは、そうした先行事例も踏まえた上で、今の世の中が何を感じ何を考え、何を新しいと思っているのかを日々感じ取り、今届くベストを考える人、というわけです。

日記帳08の中で、まずはこの世界が感覚渦巻く世界であることを書いたのは、強く届く企画を考えるには、届けたい世界がどんな世界なのかをまず正しく認識して作戦を立てる必要があるから。特に今の時代は、対象となる世の中が多様化し情報がものすごい速度で流通し、激しい変化を繰り返している時代。だからこそ、届く企画を生み出すためには、その思考の前提として、世界の今の認識が重要になっている、ということです。

日記08を受けてこの日記10では、世界の今と向き合いながら、企業課題や社会課題と向き合う企画設計はどう考えるのか。そこを整理していきたいと思います。

私たちは自身の成長とともに、
企画を組み立てる工程をどう進化させてきたか。

強い企画を考える。私たちは、そのゴールに向けて、常にそのベストなあり方を自問自答しながら大人になっていきます。時に迷いながら、時に自信を失いながら、時に先人に教えられながら。そうして企画設計の工程は少しずつ進化していきます。最初は、課題と向き合うシンプルな構造の中で。そして経験を積みながら、多様な変数を読み込み、複雑な工程を通じて最適解に行き着く術を学んでいきます。

課題とアイデアのシンプルマッチングを考える〜初期企画工程

課題とideaの効果的マッチング

新人として企画の仕事を始めると、まず、クライアントからの依頼内容をきちんと読み込んで、そこで提示されている課題ときちんと向きあって企画を考えるように指導されます。ただやりたい企画を無邪気に語っていてはいかん、と。そして、訴求テーマはどんな表現アイデアとのマッチングでもっとも効果的に世の中に刺さっていくのか。それをさまざまに考え、クライアント課題が最も効果的に解決しそうな組み合わせを考え、提案物に落としていきます。課題、アイデア、課題、アイデア。課題に寄りすぎるとアイデアのジャンプにバランスを移し、アイデアジャンプに夢中になりすぎると課題に立ち返り。それを繰り返していきます。

考え方を考えることで企画を太くする〜第2段階企画工程

課題とidea + 考え方を考える

数年の経験を積んでいくと、課題とアイデアの間に「考え方」という要素が入ってきます。自分が面白いと思ったアイデアはただ何となく面白いと思って考えていたが、そのアイデアの核には課題の解決にマッチする「考え方」が存在していること。それがそのアイデアを強くしていたこと。そうした気づきが頻繁に訪れることによって、次第に「考え方」の重要性を学ぶようになります。ただガムシャラにたくさんのアイデアを考え続けていた時には、アイデアの表目的面白さにしか気づかないもの。でも星の数ほどアイデアを出し星の数ほどボツにされる経験を経る中で、選ばれるアイデアには選ばれる確かな理由があることがわかってくるのです。表面的面白さの奥に優れた考え方が存在していることをわかってくるのです。さらに、考え方という視点を持てば、その考え方を多様に派生させてさらに強い別案も思いつける。その工程は、その人の提案書の書き方をより明確にしていく効果も生んでいきます。

表現工程の重要性を理解する〜第3段階企画工程

表現デザインの工程の重要性

さらに経験を積む中で、考えついたアイデアは、そのまま制作物に落とし込んでも、強く届くものにはならないことが多いこともわかってきます。まんまでは粗い原石のような状態であるため、もう一工程、表現として磨く工程が必要なのです。そのひと磨きが必要だという概念がないままでは、そこそこ良い制作物は生まれても、頭ひとつ抜けたものは生まれない。そのことに気づけないまま終わっていく制作者も多い。

そのひと磨きには、さまざまな作り方・伝え方を試しながらベストなアウトプットに至るまで検証を続けたり、プロデューサーやディレクター、デザイナー、アートディレクターなどの外部力を借りて最後のひと磨きを依頼したり。経験を積めば積むほどいいものに至る工程が単純ではないことがわかってくるのもこの時期。複数存在する頑張りどころ、そのすべてに目配りしチューンしながら仕事を進めることの重要性を実感するようになります。

時代変化を織り込んでいく第4段階

時代変化の読み込みの重要性

変化の激しい時代と向き合っていると、企業課題とアイデアをマッチングさせる前に、時代変化をどう読み込むかが重要になってくることに気づきます。時代変化・社会変化・市場変化を前提に課題との向き合いを考えていかないと、解決の筋道を読み違える可能性が大きくなってくるからです。「今の時代は」とか「今の市場は」とか「今の社会は」とか「今のターゲット層は」とか。課題を取り巻く環境に起きている変化に対する一つ一つの考察。常日頃から世界を凝視し、そこで起きている大きい変化、小さい変化を敏感に感じとりその「今」を考え続けることで、解決の精度が高まっていくことを実感していきます。

重要要素の統合マネージメント〜第5段階企画工程

時代変化の知覚、企業課題、アイデア、コンセプト、表現デザイン、この5つの要素に目配り、効果的な編集を実践していくことで強い制作物が生まれれていくことがわかってくるチームリーダー期。1つ1つの仕事の中で、これら要素と丁寧に向き合い、それぞれの精度を高めることでアウトプットレベルは上がっていきます。そう考えて、日々精進もします。その成果に評価もついてきます。ただ、自分の頭の中で5要素はまだバラバラに意識されている段階で、1つのクリエイティブシステムとして大きく動くものになっていないことが気になるのもこの頃です。

歴史に残るほどの良い仕事を見ると、大きな戦略軸に基づいてソリューション全体が効果的な塊を構成しているように見える。そうしたアイデアを生み出した先人は、時代変化、企業課題、アイデア、コンセプト、表現デザインなど重要因子すべてを織り込んだストラクチャー的なものをイメージして案件と向き合っているように見える。そう感じながらも、その実態はなかなかよくわからない。そこにもどかしさを感じるのですね。

そして、未曾有の変化の時代、欲望がぶつかり合う時代

この20年、私たちは未曾有の変化の時代を体験してきました。おそらく数百年後、この時代に起きた社会変化、産業変化、暮らし変化は、何がしかの括りとともに語られるに違いありません。それほどの大きな変化が起こり、現在も進行中なのです。

インターネットの誕生がもたらした影響は、さまざまに語られています。社会やビジネスに大きな影響を与え、構造変化をもたらし、新たな競争の時代をもたらした。同時に、インターネットは個人の暮らしや生き方にも大きな影響を与えてきた。マスの時代の受け身の情報生活から自ら望む情報を自ら望む深さで得ていく情報生活に変化したことで、情報生活の主導権が生活者側に移っていった。それだけでなく、好きなものや欲しいものをどこまでも深く探すことができるようになった。それは結果的に、世界の個人ひとりひとりが自身の欲望に正直に向き合っていく流れも生んできた。

マスの時代は、マスメディアが一定の「常識」や「当たり前」「普通のこと」をブロードキャストしていたため、多くの生活者はその「当たり前的なるもの」が正しいのだと信じていたのだと思います。しかしインターネットが生まれ多様な価値観、多様な趣味趣向、多様な生き方・あり方があることが共有され始めると、自分が封印してきたものは自分一人の特性ではないこと、自分はマイノリティではないことに気づき始めた。さらには、同じ考え方、同じ好み・嗜好の人同士が繋がり、多くが胸を張ってそれを主張することも悪くないと思えるようになっていったのだと思います。

欲望の蓋を開ける時代。感情の扉を開く時代。

欲望の蓋を開ける時代。感情の扉を開く時代。

世界は1つである。そんな理想に基づいて世界が動いていた時代もありました。が、いつの日からか、理想よりも現実、世界の幸せよりも自国の幸せ、正しさよりも本音が語られ、議論される流れが目立ってきました。移民がたくさん自国に入ってくるのは何か嫌だなあという本音は誰にもあった。でもみんな「正しい自分」「良識ある自分」の裏側にその本音を封印してきた。その一方で、移民の流入を嫌だと思うのは自分だけではないこともわかってきた。それも、少なくない数の人が、同じ気持ちを持ちながら黙っていたこともわかってきた。そのインサイトをいち早く掴み、選挙で勢力を伸ばす新興勢力も現れてきた。イギリスやフランスなど多くの国の選挙では、新興政党がじわりじわりと勢力を拡大する流れが顕著になってきた。トランプ元大統領の政治手法も、欲望や感情の蓋を開け始めた大衆の気持ち変化をよく理解したものだと言えると思います。

感覚は理性を超えて存在する。世界の本質がそうであり、その流れが顕著になってきているなら、私たちのプランニングも、感覚渦巻く世界との向き合いを大きな構造として考えていく必要があります。あらためてそう考えると、企画設計の基本工程のあり方も違って見えてきます。課題解決のための論理的思考と議論は重要、でもそのソリューションが世界で機能していくためには、必ず感覚的変換が重要になる。そして、私たちクリエイターの役割は、企業と感覚渦巻く世界との間に立ち、多様に議論される課題解決の論理的解決工程を感覚渦巻く世界に届くものに変換し届ける役割を担っている。

感覚渦巻く世界と企業課題・社会課題の間に

あらためて重要要素の統合マネージメント〜第5段階企画工程

そうした変化を前提に整理し直した統合マネージメント工程は、こんなイメージに着地しました。

強い企画をうむための統合マネージメント図(777バージョン)

この図が、絶対的に正解であるとも言えませんし、言うつもりもありません。ただ、今の時代に世界に届く強い企画を生むための1つの解釈にはなっていると思います。そして、強いクリエイティブを生むクリエイターになりたいと奮闘している若手に、自分がすべきことの全体像をイメージさせる一助にはなると思います。要素が複雑に絡み合っていて何が大事かよくわからないこの時代に、全体理解の糸口を与えるものにはなっていると思います。私が主宰する企画私塾777塾では、数年前から、この図を使って、「強いクリエイティブをプランニングするとは何ぞや」を若きプランナーたちに説くようになっています

1.感覚渦巻く世界から、変化を感じとる

工程01

変化激しい感覚渦巻く世界。まず、クリエイターの重要な役割は、そうした世界をウォッチして時代変化および変化の兆しを感じとること。日常的にそれを実践すること。感覚渦巻く世界の「今」の観測と解釈です。変化の激しい時代に常に変化しているその前線。どういう感度でそれをセンシングできるのか。どういう視点で、重要要素をフィルターできるのか。その人なりの「時代感」を持てるのか。クリエイターの力が試されるポイントです。「なんか世界全体が保守的になってきたなあ」というセンシングでもいい「糖質やカロリーを重視する食品の売れ行きが伸びてるなあ」「女性の下着が大胆になってきてる」というような特定市場のセンシングでもいい。そして企業から何がしかの課題をいただいたら、日頃からセンシングしている時代変化要素と重ね合わせて、その課題解決のあり方を考え始めます。

自身の時代感で課題を再解釈し、そこから解決の仮説を立てる

工程02

僕たちは時代変化から何を発見し、解決すべき課題に対してどんなユニークな仮説をたてるのか。常に時代変化を感じ見つめていると、課題解決の思考の中に、こんな時代だったら、こんな意識変化があるなら、という思考が自然にPOP-UPしてきます。サブスク販売が企業と個人を結ぶ新しい関係を作っているなあと感じたら、自分の課題解決にも、サブスク的な発展系があり得るのではという仮説を立ててみる。個人のSDGs意識が高まってきたなあと感じてきたら、自分の課題解決はSDGs的視点でこう変わるかも、という仮説を立ててみる。AIが進化し多様な領域に変化を起こしているなら、AIが自分の課題解決にこう機能すれば未来は大きく変わるかも、という仮説を立ててみる。解決すべき課題を中心に据えながら、多様な時代変数が変えうる未来をさまざまに組み合わせながら、最もリアリティと実効性の高そうな組み合わせにフォーカスしていく工程。

その仮説からどんなコンセプトをつくるか?

工程03

コンセプト:【concept】
1 概念。観念。 2 創造された作品や商品の全体につらぬかれた、骨格となる発想や観点。

「おいしい米を食べるためなら大金を払う人たちがたくさん市場発生しているなら、炊飯器の次の争点は精米機能に移るはず」。そんな仮説が生まれたら、その実体化の骨格となる概念を言語化していきます。それがコンセプトです。例えば「美味しいお米を食べるための最適精米機能を搭載した世界初の炊飯器」。

時代から導き出した課題解決の仮説を、プロジェクトの芯となる言葉に着地させる工程。それは、その先の具体着地フェーズで控えるさまざまなスタッフや関係者、パートナーを導く基礎概念。そこに経営資源を振り向けることに同意する経営者を納得させるコア概念。シンプルに、そしてインパクトフルに届く「筋」みたいなものを形にするプロセスです。

そのコンセプトはどんな企画&デザインによって届くもの、伝わるものになっていくか?

工程04

コンセプトは、言葉で構成された意味の固まりです。そのままではゴツゴツとした原石のような状態なのです。表現という磨きのステップを経て、はじめて輝くもの、届くものとなっていきます。

この工程では、デザイナーやAD、プランナー(時にプログラマー)という表現担当の職種が大きな力を発揮します。「それってこういうことでしょ」。概念で定義されていることを、感覚的形式に変換する。それは実はとても高度な技術でありスキルです。だからこそ、優秀なデザイナーやAD、プランナー、プログラマーを内部スタッフや外部パートナーに抱えていることが重要なのです。表現者はビビビといったひらめきで勝負しているように思われがちですが、彼らがやっていることは、膨大に脳内アーカイブされた感覚的伝わりのレファランスの中から、コンセプトが伝える意味との最適マッチングを考え「それってこうでしょ」を提示すること。その構造は、とても合理的なものです。アーカイブされている内容が多様でユニークであれば「それってこうでしょ」もユニークなものになる。図の中では、idea poolという形で表現されていますが、プロジェクトの前半に行う、多様な企画だしのフェーズで蓄積されたアイデア群をさす時もあります。

クライアントの課題が絶対ではないのか。

全体工程

この図を見て「まずはクライアントが提示する課題ありきではないのか」「課題が出発点になってなくていいのか」と指摘する人もいるかもしれません。確かにその通り。大元の企業課題、社会課題は絶対的に重要です。しかしながら、変化の時代、欲望の扉が開く時代には、その変化を前提に、企業課題・社会課題の読み解きが重要になると言いたいのです。変化を前提とした解き方が必要になると言いたいのです。変化の変数を巧みに読み込むことによって、この全体工程が、シュアに世界に届いていくアウトプットになる、と言いたいのです。

前のブロックでも書いたように、この図が絶対的に正解であるかどうかはわかりません。そう言うつもりもありません。そもそも、たった1つの正解があるとも思わない。ただ、変化の時代に世界に届く強い企画を生むための1つの解釈にはなっていると思います。そして、強いクリエイティブを生むクリエイターになりたいと奮闘している若手に、自分がすべきことの全体像をイメージさせる一助にはなると思います。

皆さんの時代知見を入れながら、どうぞこのモデルをどんどんいじって、モデルB、モデルCを作ってください。


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