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「魔法のように一発で治す」の真相
みなさんも凄腕の治療家の先生が 魔法のように治してゆく っていう動画を目にされたことってあるのではないでしょうか で、我が秘伝を今なら○○○○円で大放出!! 的なCMへと続くやつ あれです 一回の治療で治す=クイックフィクス これって私が治療業界に入ったころには厳に戒められてきた言葉 だったはずなんですが… 最近はあまりうるさく言わなくなってるんでしょうかね 私が整形外科に努めていた25年前、 医師であり院長のA先生から 「一回で治す、とか一撃で、みたいな発想は危険だよ 患者さんに迷惑だから捨てなさい」 と、耳にタコができるぐらい言われていました 内心『そんなこと考えてないけどなぁ… 院長もやっぱり鍼灸マッサージ師に偏見があるのかなぁ… ま、(自分を含め)変人の集まりだから仕方ないか…』 とやんわり聞き流していたのを覚えています しかし、「治療する」ということが理解でき始めてみると、 ドクターの言わんとしているところが俄然よく分かるようになりました 一回の治療で痛みが消えた患者さんは、そうなる条件が整っていただけのこと 痛みがなくなったとしても、再発の憂き目にあわなくなるようになるには 痛みを抱えてきた期間に染みついた 崩れた身体のコントロールを正す必要が残るかもしれません 萎えて弱った筋肉や関節を強く育てる必要があるケースも考えられます 痛みが消えたその後も、実はやった方がいいこと、やるべきことってあるものなのです 一方、一回で痛みが消えないような条件というものもあります 痛みを感じている箇所に炎症をともなう傷があるとか 腫れは引いてるけれどもとても脆くて刺激に敏感になっているせいで痛むとか そうした手合いは時間をかけて計画的に対処する必要が出てきます 少なくともその場で元通りとはならないのです そこを知っていれば、状況に合わせた対処が可能ですが そもそも一回で治すことができる、 という前提ではそういった当たり前の状況判断ができなくなってしまうのです お師匠さんとのやり取りで叱られたのは 「○○さんのリハビリどうだった?」 「いや、どうにも痛みが取れなくって…」 「なにいってんの?○○さんのカルテちゃんと読んだ? 一回で治るような症例じゃないでしょう!?」 となったときなんですね 「そもそも身体が傷つき痛むってどういうことか理解しなきゃダメでしょ!(怒)」 「君が手をかざしたら、一瞬で千切れた組織が細胞レベルで再生するとでも?(怒)」 「一回で治すなんて、治療家の傲りだよ(怒)」 ときつくお叱りをいただいてましたね 前提が解ってなかったから間違った返事をしていたんですね 切り捨てずに育ててくださって、心から感謝です 最近、前出の演出にためらいがない動画も増えているように感じます その被害をこうむるのは患者様ですので、 ちょっと危なっかしいなと思いこんな動画を公開させていただいた次第です ちょっとした警鐘となることを祈ります
- 再生
私の治療】腰痛編|デッドリフトで腰を痛めたというトレーナーさん
魔法のように一撃で治す! のような動画になっていますが、実際は治療で痛みが消える条件がそろっていた例だっただけのことなんです。 私たち治療家は、若いころには仙人のような治療家を夢見てしまうことがよくあります。 競技をやっていてもそんな空想、しますよね。 私もリングに向かう花道を、お気に入りの曲で入場する自分の姿を妄想したり、してました。 そこまでの努力もしていないのにね。お恥ずかしい。(^_^;) その後、故障が重なり競技を離れて治療の世界に入りました。 整形外科クリニックのリハ室に勤務していた20代のころの話なのですが、 当時、ドクターから「一撃で治す」という幻想を捨てろと度々注意されていました。 治療の世界には「クイックフィクス」という戒めの言葉があります。 痛みの原因が筋肉の痙攣だったり、関節の引っかかりだったりしたケースでは一回の治療で魔法のように痛みが消えることもあります。 でも、腱や靭帯、はたまた神経線維が今にも千切れそうなロープのようにボロボロになっていたらどうでしょう? 千切れた筋繊維から出血していたら? それらが一回の治療で魔法のようにつながるでしょうか? いくら揉んでも、いくら針を刺しても、いくら電気を流しても、その場で元通りの組織が出来上がることはありません。 痛みの原因にはどうやっても時間が必要となるものがあるんです。 一撃幻想はそんな当たり前のことを麻痺させてしまいます。 「あれ?まだ痛みが消えない…もっと治療の手をかければあるいは…」 となると、場合によってはかえって傷を深めてしまうケースも出てきます。 治療で一番に大切なことは、痛みの原因を見極める(推理する)力を持つこと です。 競技をしていた頃、あちこちの「凄腕治療家」を紹介していただいては治療に通っていました。 食費を切り詰めて、すがるような思いで方々に通いました。 結果は誰も「一発」で治すことができず(無茶し続けてたので当然なんですが…)、そうした経緯から、治療業界に入ってからも一発で治るなんて端から考えていないつもりでした。 でも、今思い返すと「一回の治療で治る」を前提とした考えが 『あれ?なんでうまくいかないんでろう???』 の根っこにあったなと、 ドクターはそこを見抜かれていらっしゃったんだなと、 いま思い返しても気恥ずかしく、そしてありがたく思います。 ネットでは「一発で!」が相変わらず隆盛で、若手の技師向けのセミナー広告を観ても「魔法」のような装いの治療技術セミナーが氾濫しています。 これ、とても危なっかしいなって思うんです。 治療をする上で治療技術よりも大切なのは、その場の治療で痛みが消えないものに出会ったとき、痛みが消えない要因を読む(推理といってもいいでしょう)ことができるかどうかです。 「一回の治療で治す」を追いかけているとその力(臨床推論といいます)を養う機会が失われます。 ゆえに、「クイックフィクス(一回で治す)」は治療の世界では戒められる思考となるのだと思います。 このところ治療の動画を挙げているのには、そんなトレンド?への警鐘の意味も込めています。 端から正論を突き付けても「できない者のやっかみ」と思われるのがオチでしょうから、「やれるけれど、事実はそうではないですよね」というメッセージを込めて治療シーンを公開させていただいてます。 ご同業の先生方には映像よりも、ぜひ左側のお手紙に目を通していただけたら嬉しいです。 何を長々書いているのでしょうね(^_^;) しかも偉そうに上から…(-_-;) 長文お読みいただきありがとうございました。