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平成東京大学物語 第15話 〜35歳無職元東大生、初めての渋谷駅でその広さと人の多さに驚きながら東大へ向かったことを語る〜
翌日、ホテルのビュッフェで朝食を済ませたころに、叔母が迎えに来た。試験会場までの移動が大変だというので案内にきてくれたのだった。事前に調べていた限りでは渋谷から試験会場の駒場東大前という駅まではそう遠くはなかったので、わざわざ迎えに来てくれなくてもよさそうなものだと思わなくもなかったが、ぼくはすぐに叔母に感謝の念を抱くことになった。渋谷駅の構内は羽田空港みたいにどこまでも広がっているように思われ
もっとみる平成東京大学物語 第14話 〜35歳無職元東大生、受験前日の深夜に自分自身を慰めていたことを語る〜
今にして思えば、その渋谷のホテルの部屋こそがぼくが初めて勝ち得たぼくだけの秘密の部屋だった。実家にも子供部屋はあったがそれは隣の妹の部屋とふすみ1枚で隔てられただけのもので、プライバシーなどあったものではなかった。他人の目がまったく届かない密室で18歳の高校生たちがやることといったら、性的な結合か、自慰しかない。ぼくは、その夜、自分に言い訳ができる程度に断続的に参考書を見直しながら、合計3度、下
もっとみる平成東京大学物語 第13話 〜35歳無職元東大生、高校のころ花火大会にかこつけて告白するもすぐふられたことを語る〜
季節は夏になった。田舎の一大娯楽である、港の花火大会が近づいていた。ぼくは一年生のときにそれをクラスの男たちと五人で見に行った。今年は松久さんと見よう。そこで告白しよう。彼女もそれを望んでいるはずだった。ぼくは他の誰にも知られぬようにメールで彼女を誘った。塾があるので最初から行くことは難しいが、塾のあとであれば問題ないということだったので、会場で待ち合わせることにした。ぼくは征服の予感に胸を打ち
もっとみる平成東京大学物語 第11話 〜35歳無職元東大生、初めて上京した日にホテルで自分自身を慰めたことを思い返す〜
調度品は品のいいアイボリーホワイトとサーモンピンクで統一されていたが、設備は貧弱だった。ぼくは部屋の隅に申し訳程度に備え付けられた机で翌日の二次試験に向け最後の復習をした。学校の教科書やら参考書やらノートやらをスーツケースで大量に持ち込んでいた。それらは高校三年間の生活の痕跡がぎっしりと刻まれたものばかりで、ちょっと感慨を覚えなくもなかった。試験前夜だというのになにかしんみりとした心持ちになった
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