📕ササキあやな📕

目指せ女子大生小説家📖平成時代の東大生のお話を書いていきます💘この世はすべてフィクショ…

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目指せ女子大生小説家📖平成時代の東大生のお話を書いていきます💘この世はすべてフィクションだ💖ツイッターやってます💕@toudainovelist💕

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平成東京大学物語 第17話 〜35歳無職元東大生、受験のあとで友達と話したことを語る〜

 試験の結果がでるのは三月の半ばだった。卒業式は三月の頭にあったが、合格発表までぼくは毎日高校に通った。前期の試験に落ちた場合のために後期の試験の対策をしていたのである。国公立大学の試験には前期と後期の2つのものがあり、前期が普通のテストで、後期は小論文が課される。ぼくは後期は九州大学に出願していた。  前期の試験を終えて田舎に帰ってきて、学校にでてきたその日、ぼくは友人と以下のような会話を交わした。 「どうやった?」 「すごかとこやったよ、東京は!」  友人は狐につ

    • 平成東京大学物語 第16話 〜35歳無職元東大生、最高のおしゃれをして入試に臨んだことを語る〜

       叔母とは改札前で別れた。渋谷駅は井ノ頭線の始発駅だからともかく電車に乗りさえすれば間違いようがないし、東大は最寄り駅を降りたらすぐに分かるから、とのことであった。ぼくは叔母の適切で十分な支援に感謝した。  電車を駒場東大前で降りて駅のホームから階段をあがって改札を出て階段を降りるとそこはもう東大であった。門の前は受験生でごった返していて、みな開門を待ち構えていた。人だかりの向こうには東大の象徴とも言える安田講堂があった。それは思いのほか小さく、東大は思ったほど大したところ

      • 平成東京大学物語 第15話 〜35歳無職元東大生、初めての渋谷駅でその広さと人の多さに驚きながら東大へ向かったことを語る〜

         翌日、ホテルのビュッフェで朝食を済ませたころに、叔母が迎えに来た。試験会場までの移動が大変だというので案内にきてくれたのだった。事前に調べていた限りでは渋谷から試験会場の駒場東大前という駅まではそう遠くはなかったので、わざわざ迎えに来てくれなくてもよさそうなものだと思わなくもなかったが、ぼくはすぐに叔母に感謝の念を抱くことになった。渋谷駅の構内は羽田空港みたいにどこまでも広がっているように思われた。ぼくらは新南口という改札から駅に入って京王井ノ頭線の改札を目指した。駅に入っ

        • 平成東京大学物語 第14話 〜35歳無職元東大生、受験前日の深夜に自分自身を慰めていたことを語る〜

           今にして思えば、その渋谷のホテルの部屋こそがぼくが初めて勝ち得たぼくだけの秘密の部屋だった。実家にも子供部屋はあったがそれは隣の妹の部屋とふすみ1枚で隔てられただけのもので、プライバシーなどあったものではなかった。他人の目がまったく届かない密室で18歳の高校生たちがやることといったら、性的な結合か、自慰しかない。ぼくは、その夜、自分に言い訳ができる程度に断続的に参考書を見直しながら、合計3度、下半身に手をのばした。ちょうど買い替えたばかりの携帯電話の画面はフルカラーになって

        平成東京大学物語 第17話 〜35歳無職元東大生、受験のあとで友達と話したことを語る〜

        • 平成東京大学物語 第16話 〜35歳無職元東大生、最高のおしゃれをして入試に臨んだことを語る〜

        • 平成東京大学物語 第15話 〜35歳無職元東大生、初めての渋谷駅でその広さと人の多さに驚きながら東大へ向かったことを語る〜

        • 平成東京大学物語 第14話 〜35歳無職元東大生、受験前日の深夜に自分自身を慰めていたことを語る〜

          平成東京大学物語 第13話 〜35歳無職元東大生、高校のころ花火大会にかこつけて告白するもすぐふられたことを語る〜

           季節は夏になった。田舎の一大娯楽である、港の花火大会が近づいていた。ぼくは一年生のときにそれをクラスの男たちと五人で見に行った。今年は松久さんと見よう。そこで告白しよう。彼女もそれを望んでいるはずだった。ぼくは他の誰にも知られぬようにメールで彼女を誘った。塾があるので最初から行くことは難しいが、塾のあとであれば問題ないということだったので、会場で待ち合わせることにした。ぼくは征服の予感に胸を打ち震わせた。でも最後の決定打はどう撃てばいいのか、ぜんぜん想像がつかなかった。時間

          平成東京大学物語 第13話 〜35歳無職元東大生、高校のころ花火大会にかこつけて告白するもすぐふられたことを語る〜

          ボン・ソワール

          ボン・ソワール 自由が丘でおじさんに話しかけられた ボン・ソワール 私も挨拶を返した おじさんはなにか話したそうに私を見つめた 私は話したいことがなかったので黙っていた やみかけていた雨がまた降ってきた おじさんは去っていった

          ボン・ソワール

          パイナップル

          パイナップル 私は言った パ・イ・ナ・ッ・プ・ル 彼は言った スイカ メロン サクランボ ねぇ、なんでパイナップルは、それらのものではないのだろう?

          死は死 死は別れ 死は不可避 死は売りもの 死は不可解 死は祈り 死は詩

          魔法

          右手をふったら魔法をかけられる気がした

          夢の中の話

          君と手をつなぐ夢を見たんだ。 と彼は言った。 セックスはしなかったの? と私は聞いた。 しなかったよ。 と彼は答えた。 私たちは並んで授業を受けていた。

          詩は死につながるから。と彼は言った。 私には彼の言いたいことがよくわかった。

          下北沢でリクガメに教えてもらった話

          授業が終わったので井の頭線に乗って下北沢にでた。 大学で話す人は誰もいなかった。 下北沢の町には大きなギターケースを背負った人たちがたくさん歩いていた。 その中にリクガメもいた。私は彼に話しかけた。 こんばんは。こんなところで何をしているの。 彼は答えた。 もし天才というものがあるとすればそれを作るのは街なんだから僕はこうして街を歩いている。 彼はそれだけいうと下北沢のネオンが輝く街中をのっしのっしと歩いていった。

          下北沢でリクガメに教えてもらった話

          平成東京大学物語 第12話 〜35歳無職元東大生、初恋を語る〜

           深夜、ぼくは、人生で唯一、告白をした女の子のことを思い出した。ぼくの記念すべき東京での最初の堕落行為を捧げた女の子のことだった。丸いメタルフレームの眼鏡をかけていた。ぼくが社会人になったころに丸眼鏡が流行り、街中でもよく見かけるようになったが、当時はそんな眼鏡なんて誰もかけていなかった。英語の授業で、買ってみたい服を一人一人英語で紹介するという日があった。彼女は Animal tail と発表した。彼女の美的感覚についてはやや理解が難しいところがあった。でも彼女のぱっちりと

          平成東京大学物語 第12話 〜35歳無職元東大生、初恋を語る〜

          平成東京大学物語 第11話 〜35歳無職元東大生、初めて上京した日にホテルで自分自身を慰めたことを思い返す〜

           調度品は品のいいアイボリーホワイトとサーモンピンクで統一されていたが、設備は貧弱だった。ぼくは部屋の隅に申し訳程度に備え付けられた机で翌日の二次試験に向け最後の復習をした。学校の教科書やら参考書やらノートやらをスーツケースで大量に持ち込んでいた。それらは高校三年間の生活の痕跡がぎっしりと刻まれたものばかりで、ちょっと感慨を覚えなくもなかった。試験前夜だというのになにかしんみりとした心持ちになった。でも好きだった世界史の資料集を軽く眺めていると、ぼくはむらむらと下半身にわきあ

          平成東京大学物語 第11話 〜35歳無職元東大生、初めて上京した日にホテルで自分自身を慰めたことを思い返す〜

          平成東京大学物語 第10話 〜35歳無職元東大生、初めて訪れた東京の街に圧倒されたことを語る〜

           ぼくは叔母の先導するままに空港からモノレールに乗った。その近代的な車両はしばらく東京湾岸の空港の施設やコンテナ埠頭や倉庫群の脇を走っていたが、いくつかの運河を超えて浜松町に近づいてきたころ、何本もの超高層ビルがあらわれだし、やがてそれらは林立してぼくの視界を閉ざした。モノレールは巨大なビルの谷間を縫うようにカーブしながら目的地へと近づいていった。そんな光景を現実に見るのは初めてだった。まるで20年先の未来へやってきたような気がした。それも人類の素朴な生活が終焉したあとの未来

          平成東京大学物語 第10話 〜35歳無職元東大生、初めて訪れた東京の街に圧倒されたことを語る〜