【書評】『失敗の本質――日本軍の組織論的研究』(中公文庫)
第二次世界大戦で、日本はなぜ敗北を喫したのか。大戦中(ノモンハン事件を除く)の6つの失敗事例を取り上げ、経営学・組織論の視点から分析した名著です。
「失敗の本質」の特色
第二次大戦期に日本が犯した失敗といっても、いくつかのレベルに分けられると思います。
例えば、
・国力差の大きいアメリカと戦争に突入した。
・中国との和平の道を閉ざした。
・ソ連の裏切りを見抜けなかった。
など、上位の国家戦略レベルの失敗があります。本書で取り上げられているのは、戦争中の各作戦のレベルで、上記よりも下位の事象を取り上げていると言えます。
本書は太平洋戦争を扱っているものの、歴史研究者が書いた本とはやや毛色が異なります。
①ノモンハン事件②ミッドウェー作戦③ガダルカナル作戦④インパール作戦⑤レイテ海戦⑥沖縄戦――という個々の事例研究は3分の2ほどで、残りは組織論の枠組みで分析されています。
それゆえ、太平洋戦争の基礎知識をつかむのに適した書物ではありません。下記のような入門書を読んでから取り掛かるといいでしょう。
無数の教訓
言うまでもなく、本書では失敗の終わった作戦の原因が淡々と描かれています。
牟田口廉也軍司令官が立案した、無謀な「インパール作戦」。不合理な作戦を制止できる立場にあった河辺正三軍司令官は、牟田口と個人的に親しかったため、彼を止めませんでした。「何とかして牟田口の意見を通してやりたい」という私情が原因で、無数の兵が犠牲になったのです。
このように、日本軍では理性ではなく感情によって重大な決定がなされる傾向がありました。
沖縄戦においては、軍の中央と現地の指令部の間で、作戦目的について齟齬がありました。中央は航空隊によって敵に打撃を与えようとしたため、沖縄の飛行場の確保を命じました。しかし、現地司令官は地上戦での持久作戦を行うつもりだったので、飛行場はすぐ米軍に占領されてしまいます。
組織の上と下で目標が違い、両者がすり合わせることもしなかったのです。これで戦いが上手くいくことはないでしょう。
少し例を引いたように、「失敗の本質」には現代の政治や経営にも通じる教訓に満ちています。文庫版の帯には小池百合子氏を始め、政財界のリーダーたちの名前が推薦者として並んでいます。
さて、本書を絶賛している政財界のリーダーたちは、教訓を本当に生かしているのでしょうか。沈みゆく日本を見るに、いささか疑わしいと判断せざるを得ません。
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