【書評】吉田裕『アジア・太平洋戦争』(岩波新書)
先の大戦を取り上げた書物は無数に存在しますが、「社会で困らない程度の教養を身に着ける」レベルを求めるのであれば、本書がお勧めです。
第二次世界大戦への日本の参戦に至る経緯、戦局の逆転から絶望的抗戦期、敗戦までの流れが簡潔に説明されています。
「なぜ日本は無謀な戦争に突入したのか」は重要な論点ですが、それにも比較的紙幅が割かれています。
例えば、陸軍・海軍が官僚組織として肥大化し、国益よりも自らの組織の利益を求めて動くようになったことが挙げられています。
海軍は予算を獲得したいため、南洋への進出を唱えます。これが必然的に英米との対立を生みました。既に大陸で中国と戦争していた日本にとって、無理のある戦略だったことは言うまでもありません。
また、昭和天皇についても「能動的に意思を持った君主」と評価し、開戦において一定の役割を果たしたことが言及されています。
これ以外にも、個人的に興味をひかれる箇所が多くありました。
東条英機の意外な才能
例えば、開戦時の首相であった東条英機は、「テレビ・ラジオなどの新しいメディアを積極的に利用した日本初の政治家」と評されています。総力戦を遂行するため、「率先して働く指導者」として国民の目に自らを常にさらしたのです。
東条の巧みな自己演出は成果を挙げ、大戦前期の国民は彼を熱狂的に支持することになりました。
国民は戦局の不利を知らなかったのか
1942~43年ごろから徐々に戦局は悪化していきます。国民に対しては戦果を過大に報じる「大本営発表」がなされ、正確な情報が伝わっていなかったことは有名です。
しかし、国民の中には正確な情報をつかんでいる者もいました。海外からのラジオ放送の聴取は禁止されていましたが、ひそかに聞いている人々がいたのです。
1945年に入ってから、株式市場では民需関係の株の騰貴がみられました。おそらく、投資家たちが終戦を見越して株式を購入したためです。
戦局が連合軍に有利になり、終戦が秒読みになっているということは「分かっている人には分かっていた」のです。
本書のページ数は多くないですが、政治・軍事面だけでなく経済や民衆の生活といった面にも触れてある充実した内容でした。
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