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【スーパーヒューマン】統失2級男が書いた超ショート小説

坂山海輝は統合失調症の27歳の男性です。以前の海輝は統合失調症の症状に酷く苦しめられ、自殺未遂も1度起こしていましたが、現在は精神薬を真面目に服用する様になり、症状も落ち着いて平穏な日常が送れる迄に回復していました。また障害者雇用枠ではありますが、フルタイムの仕事にも就いています。そんな初夏のとある日曜日に朝食を食べようと箸を持った瞬間に、こんな声が海輝の頭の中に響いて来ました。「私は誇り高き目玉焼きである。その誇り故に立派な人間に食して欲しいというのが、私の切なる願いだ。私はフランシス・ガヌーの様な強靱な男に食されるべき崇高なる目玉焼きなのだ。だから、お前の様な貧弱な男は私を食べてはならない。分かったか」海輝に取ってこれは始めて聴くタイプの幻聴だった為に、一瞬躊躇しましたが、次の瞬間には気を取り直して、(うるせぇ)と頭の中で呟くと、目玉焼きを食べ始めました。咀嚼中、頭の中には「助けてくれぇ、頼むから助けてくれぇ」との叫び声が聴こえていましたが、海輝は幻聴がいじわるをして自分をからかっているものだと思い、食事を続けていました。

この日の昼食はコンビニの唐揚げ弁当でした。海輝が座卓テーブルの上に置いた弁当の蓋を取って、箸を持った瞬間にこんな声が頭の中に響いて来ました。「私は誇り高き唐揚げである。その誇り故に立派な人間に食して欲しいというのが、私の切なる願いだ。私はハリー・ベイリーの様な美貌の女に食されるべき崇高なる唐揚げなのだ。だから、お前の様な醜悪な男は私を食してはならない、分かったか」(うるせぇ)海輝は頭の中でそう呟くと、何事も無かったかの様に唐揚げを食べ始めました。海輝が咀嚼している最中、頭の中には再び「助けてくれぇ、頼むから助けてくれぇ」との叫び声が聴こえていましたが、海輝はそれを無視しました。

この日の夕食はファミリーレストランのハンバーグ定食でした。海輝が箸を持った瞬間に予想通り頭の中にこんな声が響いて来ました。「私は誇り高きハンバーグである。それ故に立派な人間に食して欲しいというのが、私の切なる願いだ。私はネルソン・マンデラの様な聡明な男に食されるべき崇高なるハンバーグなのだ。だから、お前の様な愚昧な男は私を食してはいけない。分かったか」海輝はここでも(うるせぇ)と頭の中で呟くと、気に留める事もなくハンバーグを食べ始めました。例の如く咀嚼中は、「助けてくれぇ、頼むから助けてくれぇ」という声が海輝の頭の中に聴こえていましたが、海輝はまたもやそれを無視しました。海輝は帰宅するとシャワーを浴び歯を磨いた後に、睡眠導入剤を飲んで寝てしまいました。

翌日、目覚めると海輝はハリー・ベイリーと瓜二つの外見になっており、フランシス・ガヌーの強さとネルソン・マンデラの賢さを併せ持つスーパーヒューマンに変身していました。最初はこの変身に戸惑っていた海輝でしたが、5分もするとすんなりとその状況を受け入れました。それから5ヶ月後、海輝はMMAの格闘技団体でチャンピオンとなり、ベルトを20回防衛して1億ドルを稼いだ後は、映画女優に転身しアカデミー主演女優賞を受賞しました。そして、ハリウッドで3億ドルを稼いだ後は、政治家に転身し日本の総理大臣となって、日本を長期の不況から救い、更に世界の平和にも貢献しました。そして、ノーベル平和賞を受賞する事になったのです。海輝は総理大臣を12年間務めましたが、その後は国連で初代世界大統領に選出され、海輝の指導の下、世界は完全なる平和を獲得して更なる発展を遂げました。海輝は世界大統領を16年間務めた後に83歳で他界する事となりましたが、海輝の死後、世界中には等身大の海輝の銅像が6万4千体も建立される事となり、天国の海輝はその様子を何処かしら気恥ずかしい気持ちで眺めていました。しかし、それは決して悪い感情ではありませんでした。

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