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【閉鎖病棟】⑥聞こえるもの、見えるもの、感じるもの

あなたとわたし。

それぞれ同じようで違うこと。
だけど、誰もが持っているもの。

病について、誤解はつきもの。
それは統合失調症に限ったことではないはずで…。


よく分からない病院。
よく分からない病気。

それが、
人を怖いと感じさせるのか…。
暗く閉鎖的に思わせるのか…。


精神科病棟に入院している患者は実に様々で、
与えられた病名、
主なその症状、
回復のペース、
みながそれぞれに違うのは当然のこと。


ただ、その光景。



一般的な他の病院と比べるなら、
確かに閉鎖病棟の中は少し異様。

だけど、決して私たちは不気味ではない。


私にとって彼女たちは同士であり、
彼女たちにとっても私は、同士だったのだと思う。


閉鎖病棟で過ごしていた数ヶ月。

互いに自分のことを話したり、相手のことを聞いたりすることは、多くの患者が日常的にしていたこと。


保護室から出て過ごすことに慣れてくると、
ただホールに座って過ごすか、
無意味に廊下を歩いて回るか、
興味のないテレビを眺めているか…。

そんなことばかり。

そんな私を見かねてか…。

時々、私に声をかけてくれるのは看護師たちではなくて、患者たち。

単に私に興味を持って、話しかけてくる方や、
自身の体験を踏まえ、私を応援してくれる方や。

良い話し相手が見つかったと喜んでくれる方や、
同じ病室に移ってくることを心待ちにしてくれる方。

私は、新参者のようね…。

そんな感覚が、何だか少し嬉しかった。


病棟に移動した頃からは、
人と話すかどうかは、それぞれの自由。

例えば、
単に煙草のついでだったり、
退屈をしのぐものだったり、
ただ独り言と同じだったり。

そんな風に「なんとなく」の時もあれば、

例えば、
聞いて欲しいことがあったり、
誰かの共感を得たいことだったり、
この感覚を確認し合いたかったり。

そんな風に「相手」を必要とする時もある。


もちろん、入院していた全ての方が統合失調症ということではありません。
しかし、私が病棟内で出会った方々は、とても個性的で興味深かった。


私たちは同じようでそれぞれ違う。


…例えば、こんな感じ。

彼女はいつも音楽を聴いている。
私と話をするよりも、イヤホンから流れるその音がよほど好きなのだろう。

精神科で多くの方が症状として経験する幻聴。
私には、発症時も殆どこの症状はありませんでした。

なので、彼女が常にイヤホンをしていることを初めは少し不快に思っていました。

彼女の中に常に存在する声。
時々大きな恐怖を与える声。

「死ね、とか。消えろ、とかね…。」

何が聞こえるのかと尋ねた私に、彼女が教えてくれました。
だから、大好きな音楽は、それをかき消す為の彼女の大切なもの。

いつだったか、電車で2時間以上をかけて私に会いに来てくれたことがあります。
今の彼女は、好きな音楽をとても楽しそうに聴いています。


彼女はいつも絵を描いている。
私と話をするよりも、スケッチブックに訳の分からない絵を描くことが好きなのだろう。

精神科で多くの方が症状として経験する幻覚。
私には、入院治療と共に多くの症状は殆どなくなりました。

彼女の中に今も鮮明に残る景色。
時々彼女を襲うその時々の記憶。

「絵を描くのが、前から好きなの。」

彼女はそう言って、訳の分からない絵を見せてくれました。
スケッチブックは、彼女にとって頭や心の中にあるものを解放し、病気と向き合える大切な場所。

退院してから数年。
彼女から届く年賀状には、とても可愛らしい干支の絵が描かれています。


彼女はいつも何かに怯えている。
私と話をするよりも、自分をこの状況に追い込んでいる「奴ら」のことばかりを気にする。

精神科で多くの方が症状として経験する妄想。
私には、入院治療と共にこの症状も次第に消えてなくなりました。

彼女の感じる世界。
妄想と現実との行ったり来たり。

「やっぱり、こんな風に感じる私はおかしいと思う?」

時々、彼女は我に返ったかのように私に確認していました。
後に、彼女は両親の希望で少し管理の厳しい病院へ転院しました。

退院したら、連絡をするから。

その言葉に、私はあまり期待はしていなかったけれど…。
一応と、私は彼女に携帯電話の番号を教えました。

数年後、忘れずに電話をかけてくれた彼女の声は、とても穏やかで明るかった。
他愛無い会話と笑い声。
それは、私もつられて、つい笑顔になってしまう程でした。


…これらは、私が閉鎖病棟で親しくなった「彼女たち」のほんの一部。



自分の病について。

その頃、私は多くのことを理解できていませんでした。
きっと、今もこの病を完璧に理解することは難しくて。
それは、寛解に近付いたとしても未だに同じことで。

これを言葉でまとめるなら、

つ づ く

だけど、それは決して諦めじゃないもの。

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