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映画感想 ザ・フラッシュ

 DCコミックによるタイムトラベル映画。

 2023年『ザ・フラッシュ』はDCコミックのヒーロー、フラッシュを主人公にした映画。ただし、すでに物語がDCエクステンデッド・ユニバースの一部となっているので、ザック・スナイダー監督『ジャスティス・ヒーロー』の後の物語となっている。
 監督はアンディ・ムスキエティ。アルゼンチン出身の映画監督だ。2013年、短編ホラー映画『ママ』を制作し、ギレルモ・デル・トロに注目されてハリウッド進出。長編デビュー映画は2017年の大ヒット映画『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』。本作『ザ・フラッシュ』は長編3作目となる。俳優として少しだけ活動しており、『ザ・フラッシュ』ではフラッシュにフランクフルトを奪われる人でカメオ出演している。
 制作費はおよそ2億ドル。興行収入は世界で2億7130万ドルとかなり稼いだが、しかし損益分岐点が4億ドルであったために、2億ドルの赤字となった。2億ドルも稼いで赤字になる……というのはもはや予算かけ過ぎでは?
 評価は分かれ気味で、映画批評集積サイトRotten tomatoでは389件の批評家のレビューがあり、肯定評価63%と微妙。ただ一般レビューは83%の高評価。だいたいどこのレビューを見ても賛否両論気味になっている。
 アワードは2022年ゴールデントレーラーアワードで、ベストティーザーにノミネート。第51回サターン賞では最優秀スーパーヒーロー映画賞と映画助演男優賞にノミネート。第22回視覚効果協会賞、新興技術賞にノミネート、第32回俳優女優連合賞で国際作品の最優秀女性パフォーマンス賞受賞。いろいろノミネートはされたものの、受賞は一つだけである。

 本編の話に入る前に、主演のエズラ・ミラーの“問題行動”について取り上げておこう。
 エズラ・ミラーは2008年から映画出演を始め、最近では『ファンタスティック・ビースト』シリーズのクリーデンス・ベアボーン役で知られている。本作も『ファンタスティック・ビースト』での出演後、すぐに撮影を始めている。
 問題となったのは、2022年、『ザ・フラッシュ』撮影後のことである。
 2022年4月、ミラーが女性の首をしめて、地面に押し倒す様子を撮影した動画が、Twitter上に流れる。場所はレイキャビクにあるバー近くであった。
 それから1ヶ月遡り、ミラーはハワイ島を訪れて、そこで様々な問題を起こし、地元住民から10回近くも通報されていた。そうしたなか、スーパーで知り合った夫婦と仲良くなり、この夫婦と一緒に生活することとなった。
 その後の3月28日、カラオケバーで客と口論の末に暴行、逮捕される。その3日後、一緒に生活していた地元夫婦の財布を盗んだうえに恐喝。エズラ・ミラーに接近禁止命令が下る。
 4月19日、ハワイのパホアで女性に暴行し、再び逮捕される。
 6月、18歳の活動家トカタ・アイアン・アイズの両親がエズラ・ミラーに対し、裁判所から一時保護命令を出す。エズラ・ミラーは彼女を洗脳し、「私はトランスジェンダーだ…」と信じ込ませていた。トカタ・アイアン・アイズとの関係は彼女が12歳の頃にはじまり、以降6年にわたってエズラ・ミラーは洗脳し続けていた。これに対し、エズラ・ミラーはInstagramに裁判所を嘲笑する投稿をし、その後削除した。
 英語版Wikipediaに詳しく書いてあるが、この短い期間にありとあらゆる悪事をやらかしている。それこそ、布団をはたけばいくらでも……という状態だ。実はここに取り上げたエピソードも一部でしかなく、他にもまだある。
 『ザ・フラッシュ』撮影後、急に素行が悪くなって……なんてあるわけはなく、これがエズラ・ミラーの本性だったのだろう。これまで表沙汰にならなかったところで、なにをやってきたのか……。
 こんな時、映画会社としては対処法として、
①・制作した映画をキャンセルする
②・主演を交代して再撮影する
③・ほとぼりが冷めた頃に映画を発表する
 ……の3つくらいしかないわけだが、しかしすでに制作に2億ドルを突っ込んだ映画を容易にキャンセルするわけにはいかず、主演を交代して再撮影……これも莫大な予算がかかるし、出演者が変わると物語の整合性が崩れる。映画会社は映画そのものの公開を延期し、エズラ・ミラーはプロモーションの場に出させない……という対処することにした。
 それでもエズラ・ミラーの悪事発覚はプロモーションに多大な悪影響を及ぼし、興行収入は1週目から2週目で72%も減少。スーパーヒーロー映画史上3番目の減収益となった。おそらく作品評価にも悪影響を与えている。エズラ・ミラーによるフラッシュが今後も出演できるかどうかすらよくわからない状況だ。エズラ・ミラー自身は「今は反省しています」というようなメッセージを公開し、カウンセリングを受けている……というが……。

 映画の話をする前に、話が長くなってしまったが、こういう大きな問題がプロモーション、興行収入、評価に大きな悪影響を与えてしまっている、ということは押さえておきたい。

 では前半のストーリーを見ていきましょう。


 朝のカフェ。バリー・アレンは時間を気にしながら、列に並んでいた。早くしないと、今日も遅刻だ。こんな日に行列はいつまでも続くし、店員はダラダラとして注文した品がなかなか出てこないし……。
 というこんな時に、アルフレッドから連絡が来た。ゴッサム総合病院で強盗事件だ。フラッシュ出動依頼だが……。
 いやいや、朝は超忙しいんだ。コウモリさんは? 別件で忙しい。スーパーマンも同じく? じゃあダイアナは? 運悪く不通。
 なるほどよくわかった。でも超特急で用事を済ませよう。フラッシュは光の速さでヒーロースーツに着替え、猛ダッシュでゴッサム病院へと駆けつける。
 病院へ行くと――。地面が崩落して、地下が剥き出しになっている。これめっちゃヤバいよ! ブルース、どこにいるの?
 ブルース・ウェインことバットマンは、いまファルコーネのバカ息子を追跡中。アル・ファルコーネは病院から「死のウイルス」を強奪し、拡散する気だ。
「病院はお前に任せる。残りの世界は俺が救う。構わないか?」
 いいよいいよ。どうせ僕はジャスティス・リーグの雑用係ですから……。
 病院での騒動を解決させて、もとのカフェに戻る。やっと注文したサンドが出てきた。
 職場である裁判所にやってくるが、遅刻だ。怖い上司からさんざんに叱られる。
「当ててやる。目覚ましが鳴らなかったか。いや犬が目覚ましを食った? 目覚ましが部屋の鍵を喰ったか? 鍵のばあさんが死んだか?」
 ……実はフラッシュとして世界を救ってました……なんて言えない。
 その日の仕事を終えて帰ろうとすると、女の人が呼び止めてきた。アイリス・ウエスト。ロースクール時代の友人だ。僕のことを覚えてくれていたなんて。アイリスはマスコミに就職したようだった。しばらく親しく話をしたけれど……。
「あなたのお父さんの上訴審、明日でしょ。上告はうまくいきそう?」
「……それ、新聞記者として聞いてる?」
「まさか。友人として聞いてる。でも、世間の人たちも知りたいと思う」
 なんだ。マスコミとして事件を聞きに来ただけか。僕からはノーコメント。父さんは無実だ。

 事件からもう何年も経っている。あの日は日曜日で、家族みんな家にいた。母は台所でパスタを作っていた。でも、トマトソースの缶がないことに気付いて、父がスーパーまで買いに行った。
 バリー自身は2階で勉強をしていた。そうしていると、1階から悲鳴が聞こえた。なんだろう……階段を下りていくと――包丁で腹部を刺された母がいた。
 これで母は死亡し、父は「妻殺し」の容疑で逮捕。
 裁判の争点は、父が本当にスーパーへ行ったか……。あの時、スーパーに行っていた、ということが証明できれば、父の無罪が確定するけど……。
 そんな証拠はない。
 バリーは自棄っぱちになって走る。いつもより早く、どこまでも、どこまでも……。すると急に空間がぐにゃっと崩れた。さらに走ると、なんだか奇妙な空間へと迷い込んでしまう。ここは、いったい……。


 ここまでで前半25分。
 自棄っぱちになってひたすら走っていたら、なんだかわからない奇妙な空間に迷い込んでいた。そこで時間を遡れる……ということに気付く。
 もしかして時間を逆行したら、あの日、母さんが死んだことをなかったことにできるのでは? でもそうするとどうなる? スーパーヒーロー・フラッシュになる、という現在の自分もいなくなる。ブルース・ウェインは、「両親が殺されたことはトラウマだが、あの悲劇があったから今の自分がある。それをなかったことにはできない」と語る。
 フラッシュの決断は……。

 とにかくも、細かいエピソードを掘り下げていきましょう。

 朝の出勤前、忙しい時にアルフレッドがバリー・アレンに連絡を入れる。
 というこの場面だが、たぶん『ジャスティス・リーグ』にも出てきた場所じゃないかな。まだザック・スナイダー版のイメージを引き継いでいる。

 バットマンの登場シーンが格好いい。
 この時バットマンが追っているのは、アルベルト・ファルコーネ。

 別の世界線だが、マット・リーヴス監督の『ザ・バットマン』に出てきたカーマイン・ファルコーネの息子だ。アル・ファルコーネはハーバード大学へ進学し、エリートコースを歩んでいたが、父との対立があり、結局犯罪組織に踏み込んでしまう。

 バットマンのピンチを救ったのが、ワンダーウーマン。相変わらず美しい。しかしガル・ガドットが演じるワンダーウーマンはこれが最後になるかも知れない。というのもDCエクステンデッド・ユニバースがジェームズ・ガン体制に入った後、パティ・ジェンキンス監督の映画『ワンダーウーマン』第3作目がキャンセルになってしまったからだ。シナリオを提出したら、ジェームズ・ガンが「新体制とのストーリー上矛盾が発生する」という理由で却下。これに怒ったパティ・ジェンキンス監督が作品を下りた……という。
 ガル・ガドットのワンダーウーマンがこれで見納めになるか、現状よくわからない。

 ここでうまくエピソードが要約されている。場面はバリー・アレンが少年時代を過ごした家。この家の前に立ち、父親と電話しながら回想シーンへと入っていく。

 回想シーンで重要と思われるシーンはここ。母親が何者かに襲われて、悲鳴を上げた時、父親は家の外、車から出たところだった。
 映画を見ている人に、「父親にはアリバイがある」ということがわかるように描かれている。
 しかし裁判は証拠主義。事件が起きた時、父親が家にいなかった……ということを示す客観的証拠が必要となる。家に入った時、このお父さんは不注意にも、妻の腹に刺された包丁を触ってしまったので、そこには指紋が……。これで客観的証拠は「夫が妻を刺した」ということになっている。
 頼みの綱は、スーパーの監視カメラ映像。監視カメラ映像には確かに父親らしき人影は映っているが、「顔」が映ってないから証拠にならない……。

 父親を救えない……。自棄っぱちになったフラッシュは、ひたすらに走る。すると奇妙な時空に迷い込んでしまう。ええっと文章説明を見ると「スピードフォースを使ってクロノボウルを形成した」……と書いてある。よくわからん。
 文章説明がよくわからないので、映像になったものから読み解いていこう。
 ここで形成されているのは、「フラッシュが体験した記憶」。あまねくすべての人間の記憶から画像が生成されているのではなく、あくまでもフラッシュの体験が中心。で、できごとの一瞬一瞬が「フィルムのコマ」状態になっている。現実がフィルムのコマのように連なっている……と解釈されているのだろう。それがあるラインを通り過ぎると、砂になって消えていく……という表現になっている。砂になるのは「砂時計」のイメージでしょう。フラッシュが足を止めると、できごとが砂になる現象も止まるようになっている。

 過去に戻れる! お母さんの死をなかったことにできるかも知れない!
 しかし歴史を変えると、どんな影響があるかわからない。ブルース・ウェインから「手を出すべきではない」と忠告を受け、逡巡するバリーだったが、「そうだ、あの時、母さんがトマト缶を忘れず買っていれば……」と思いつく。それであれば直接母親を助けずに、できごとの流れを変えられる!
 それはうまくいったかのように思えたが……。

 母親を救い、帰還しようとしたところで、何者かに襲われ、ある時間軸に放り出されてしまう。そこは2013年。母親は生きていて、バリー・アレンは平凡な18歳の若者だった。平凡な若者というか……クソガキ。困難に遭遇しなかったバリー・アレンは、屈託のない、バカな若者になっていた。

 その後いろいろあって、フラッシュの能力は、18歳の青年バリー・アレンへと移ってしまう。
 そこでの台詞。

「『バック・トゥ・ザ・フィーチャー』。いいね。エリック・ストルツが主役の高校生で、まさにハマり役の最高の映画だった」

 『バック・トゥ・ザ・フィーチャー』の主演といえばマイケル・J・フォックスでは? 実は「エリック・ストルツ版」というものが存在していた。そのエリック・ストルツ版がこちら。
 当時、エリック・ストルツは勢いのある若手俳優で、『バック・トゥ・ザ・フィーチャー』の主演に抜擢されるが、しかしわずか6週間で降板となる。なぜだったのか? エリック・ストルツはシリアスなドラマを得意としていた俳優で、『バック・トゥ・ザ・フィーチャー』のようなSFコメディ映画だとどうしても演技が固く見えてしまう。撮影していてもなんとなくシックリ来ない。そこで降板ということになったのだが、それを伝えた時、エリック・ストルツもホッとした表情で微笑んだという。エリック・ストルツ自身、「この役は自分に合わない」と感じていたそうだった。
 その後、当時テレビドラマで人気俳優だったマイケル・J・フォックスにオファーが行くが、マイケルはドラマ出演があまりにも忙しかったので、送られてきた脚本を読まず、いま出演しているドラマと“台本の重さ”を較べて、『バック・トゥ・ザ・フィーチャー』のほうが軽かったから出演を決めた……という。
 人生の分岐点というのはどこにあるかわからない。マイケル・J・フォックスは『バック・トゥ・ザ・フィーチャー』に出演したことで「テレビドラマ俳優」から世界中に知られる「映画スター」となる。一方、エリック・ストルツは現在も現役だが、やや微妙な知名度で現在に至る……という状況になっている。マイケル・J・フォックスのほうはパーキンソン病が発症し、俳優としての活動はほとんど休止状態だが、今もマイケル・J・フォックスのほうが知名度の面で圧倒的に上である。
 人生の分岐点がどこにあるか、本当によくわからない。

 そうこうしているうちにサイヤ人……じゃなかった「ゾッド将軍」が襲来!
 スーパーマンを探さないと……。しかしこの世界線にスーパーマンはいない。アクアマンは……いない。サイボーグは……いない。ワンダーウーマンは……いない。この世界線にいる唯一のスーパーヒーローはバットマンだけ!
 そのバットマンに会いに行くと……髪がもしゃもしゃでわかりづらいが、マイケル・キートン。つまりここはティム・バートン版『バットマン』の世界線だった。

 バットマンの秘密基地へ勝手に潜入!
 これは……私も記憶が怪しいが、ティム・バートン版のバットモービルだったか。こんな形だったかな……。こいつがなぜか変形するんだよね。

 ブルース・ウェイン/バットマンの協力を得て、スーパーマンらしき人物を探してロシアの秘密基地へ潜入。そこにいたのはカル=エル/スーパーマンではなく、見知らぬ女性……目的の人物ではなかったが、衰弱している彼女を放っておく訳にはいかない。と、連れて帰るとなんと彼女こそクリプトン星からやってきたスーパーガール。ティム・バートン時空の世界観では、スーパーマンは女体化していた! ある意味でティム・バートンらしい(いや、カル=エルは別に存在しているんだけどね)。

 その彼女のスーパーガールとしての姿がこちら。
 うわー……こんなん、もう大好きだ。最高のスーパーガールじゃないか。彼女を主演に10本くらい映画を撮ろうよ。絶対ヒットするよ。
 スーパーガールを演じるサッシャ・カジェは『ザ・フラッシュ』出演時は27歳の若手女優。映画出演はなんと本作が初。2017年よりテレビドラマ女優として活動をしているが、まだ2本しか出演経歴がない。女優として本当に出てきたばかりの人。

 いやーもう最高。フラッシュ? そんなん知らん。この映画の主役は彼女だよ。いい女優見つけてきたなぁ……。
 ただ一つツッコミどころは、スーパーガールことゾー=エルはロシアの秘密基地に監禁されていた。なのにコスチュームを身につけると、ヘアスタイル&メイクばっちり。そのコスチュームはメイクセットがオプションに付いているのかよ。
 サッシャ・カジェのスーパーガールは最高だったけれど、これはフラッシュがこの世界線に迷い込んだところに現れた特別なスーパーガールで、今後DC映画に彼女が出てくることはないらしい。惜しいな……。磨く前からすでに純金の女優なのに。

 本編のお話しはここまでにしましょう(今回、たいした話してないな……)。
 ここから映画の感想文。

 映画本編はすごく面白い。よくできている。前半、バリー・アレンがなにを抱えているのかが掘り下げられるが、情報が非常にスマートにまとまっている。絵画的に画面が作られているし、それでいて勢いも死んでいない。情緒も伝わる作りになっている。

 その勢いのまま、2013年に迷い込む中盤。過去の自分と遭遇し、騒動が……ここからコメディとしての勢いがどんどん付いてくる。よくよく考えれば大変なできごとが起きているのだが、絵面が馬鹿馬鹿しい。バカみたいな事態が次々と起きていく。
 このあたりで『バック・トゥ・ザ・フィーチャー』が引用されるけど、確かに雰囲気が似ている。引用というか、状況的に『バック・トゥ・ザ・フィーチャー』になぞらえている。作り手が自分の作っている物を自覚的になっている。

 しかし中盤の終わり頃、50分のところでゾッド将軍登場。ここでいったん作品のトーンが変わる。回想シーンが入るのだが、これが作品の色調を変化させるのにうまく機能している。

 映画の中間地点に近いタイミングで出てくるのがマイケル・キートンのブルース・ウェイン/バットマン。すでに世捨て人の姿になって、厨房でドタバタ……この描写も馬鹿馬鹿しくて笑える。
 とにかくも全編笑える作品になっているのに、要所要所で感情的な落とし所もしっかり作っている。エンタメ映画として見事な一本。

 しかし本作は興行的に失敗し、評論的に賛否両論になっている。作品が悪いわけではない。第1の問題は、エズラ・ミラーが映画の外で暴れ回ったこと。映画の中にも問題があり、映画の後半、とある故人がCG技術で復活して登場するのだが、なんと遺族に無許可。これが問題となり、後半のその場面が批判の対象となってしまった。これだけしっかり作られているのに賛否両論になっているのは、これが原因。
 何が問題なのかというと、社員の怠慢。これは予期できた問題。遺族に話を通しておく、というのは絶対にやっておかねばならない仕事。アメリカはこういう権利問題にうるさいから、許可を取った上でやっているのかと思いきや……。

こちらは2023年のアニメ『鬼武者』。主演はあの三船敏郎。もちろん遺族から許可を取った上での描写。故人をCGやアニメで復活させること自体が問題というわけではなく、あらかじめ筋を通しておけば、なんの問題はなかったはず。

 ではこの作品が目指していたものはなんだったのか? 単に『フラッシュ』の単独映画を描いたわけではなく、過去に作られた『バットマン』や『スーパーマン』といった作品との連続性を作ること。それまでバラバラに作られてきた作品を、一つのユニバースの中に繋げていく。あれらの作品はただの虚構ではなく、この世界観の中においてはすべて現実。無限に展開し続けるパラレルワールドの中の一つである。それでティム・バートン『バットマン』を含めて、過去のDC作品を再評価しよう……と。

 それで、どうしてこんな迂遠な展開を作ったのか。それは今作でフラッシュが手を加えたことによって、「現在」の様子が変わる。そこで「ザック・スナイダー・ユニバース」から「ジェームズ・ガン・ユニバース」へ移す。単に会社内の「オトナの事情」とかいうやつで人物や世界観が変更になるのではなく、フラッシュが手を加えちゃったことによって変わったんですよ……と。これからジェームズ・ガン体制へ移すために、その経緯を物語として表現するために、『ザ・フラッシュ』という単独作品が作られた。

 その計画は、作品を見るとものすごくうまくいっている。作品は面白かったし、この作品があるおかげで、これからスーパーマンやバットマンの俳優が変わっても、そこを気にする必要がなくなる。『ザ・フラッシュ』で改編しちゃったせいだな……と納得ができる。
 惜しいのは、作品が内側にも外側にも問題を抱えちゃって、なんとなく忌避した人が多かったこと。もっと売れても良かったはずなのに、赤字映画になっちゃった。批評も賛否両論状態。エズラ・ミラー、お前が悪い。
 作品と、作品の外で起きた問題は別……というのは論理的には正しいが、しかしそういう外部要因に引きずられて物事を考えてしまう……というのが人間の思考クセ。映画会社が問題を起こした俳優をすぐにでも下ろすのは、これが理由。「あいつは問題を起こした俳優だ」という視点で作品を見て、評論までやっちゃう人の方が世の中的には多数派だからだ。そんな理由で興行収入に悪影響が出てしまうと、お金を出す側としてはたまったものではない。

 そのエズラ・ミラーも、あまりにも大暴れしすぎたせいで、彼自身も今後フラッシュを演じられるかどうかわからない……という現状だ。さりげなくフラッシュが出てこなかったら、そういうことだ。フラッシュが過去改変したことによって、エズラ・ミラーの姿も変わっちゃった……ということにして。

 惜しいのはサッシャ・カジェのスーパーガール。最高だった。本作だけじゃなく、もっと出て欲しかった……。
 そうそう、クリプトン星人の戦いを見ていると、アメリカ人がなんで『ドラゴンボール』好きなのかがよくわかる。スーパーマンって、要するにサイヤ人。後半のバトルシーン、ほとんど『ドラゴンボール』だった。もともとアメリカ人は『ドラゴンボール』っぽいものが好きな下地があったんだ。

 あとは「金かけすぎ」。最近はアメコミ・ヒーローが売れなくなったと言われる。DC映画でいえば『ブラックアダム』と本作とで、つづけて億単位の赤字を出す失敗をした。でも興行収入を見ると、『ザ・フラッシュ』でも2億ドルも稼いでいる。それでも赤字が出る……というのは、金かけすぎだよ。そんだけ稼げば、ほとんどの映画は黒字になるんだよ。金をかけすぎる……というのも今の映画の問題点かな。


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