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思ってたのと違った?僕たちはどう観るのか「君たちはどう生きるか」ネタバレなしレビュー

とういう訳で早速見てきました、スタジオジブリ最新作「君たちはどう生きるか

タイトルと謎めいたキャラクター”アオサギ”のラフイラストのみという事前情報なしでの公開ということで、逆にSNS等でネタバレが飛び交うことが予想され、そうしたノイズに惑わされたくないなと思い、早めの鑑賞となりました。

まあ、そうでなくても宮崎駿監督の引退撤回からの10年ぶりの新作ということですから、いずれにしても鑑賞しに行ったと思いますが、早めに駆けつける理由にはなったかなと思います。

本記事では、同じように作品に興味はあるしネタバレは避けたいけど、実際に劇場に足を運ぶにはもうちょっとキッカケが欲しいといった人に向けて、具体的なネタバレは無しで自分が本作を見て感じたことについて記載したいと思います。


▼はじめに

まず、賛否両論で評価が分かれていることくらいは漏れ伝わっているかもしれませんが、客観的に見た場合、やはり単純に楽しいとか面白いとかいった映画にはなっていないような気がしました。

なので、情報解禁時に作務サギが言っていた「今回は冒険活劇」という言葉に唆されて、ジブリ初期作のテイストを期待していくと、全体的な重苦しい雰囲気に梯子を外されてしまうことになるかと思います。

逆に「千と千尋の神隠し」以降のちょっと薄気味悪い感じが受け入れられる人にとっては、灌漑深いというか想像力を掻き立てられて、その先にある意味を考えたりと、興味を持って楽しめると思います。

自分は、「風立ちぬ」で引退宣言した監督が、発言を撤回して取り組むくらいだから、何か新しいことやこれまでは避けていた表現についてリミッターを外して滅茶苦茶やってくれるんじゃないかと期待していたのですが、思った以上にこれまでの監督作のやってきたことの再構築といった趣が強く、良くも悪くも”宮崎駿”監督作品だなと感じました。

▼タイトルと物語

本作はタイトルにもなっている小説「君たちはどう生きるか」に感銘を受けて、直接的な原作という訳ではないものの、タイトルを拝借したとあります。

僕はこの小説自体は読んでいませんが、数年前に漫画化されたことで話題になっていたのであらすじは知っていました。

※原作はこちらの動画で丁寧にかみ砕いて解説されていますので、とても参考になりました。

結果、ストーリー的にはそこまで関係ないものの、主人公がどう感じ、成長したのかといった、作品のテーマ的な部分としては結構沿っていたように感じました。

また、ストーリーについてですが、作務サギ編集の「スタジオジブリ物語」という著書で、監督が「失われたものたちの本」という本に影響を受けたと記されているそうです。

※あらすじだけ聞くと、こっちの方が”ザ・冒険活劇”という感じで、興味を惹かれますね。

実際、映画「君たちはどう生きるか」は、この本のあらすじと比較すると、人物関係など設定的にかなり近いものがあり、下敷きにした感じはありました。

監督は前作「風立ちぬ」でも、ゼロ戦の設計技師”堀越二郎”を主人公にしたストーリーながら、タイトルは作家、”堀辰雄”の自伝的小説「風立ちぬ」から拝借しており、これも同じようなパターンでしたね。

▼何がしたかったのか

こうした監督が元にした作品のテーマや言いたいことにまで考察を広げて鑑賞すると、本作で表現されていることや伝えたいことへの理解が深まり、興味深くはなってきます(だから面白いかとはまた別ですが)。

しかし、そうした監督の個人的な感性で演出された理解しづらいシチュエーションを除いて結果だけを見ていくと「未熟な自分を受け入れて、現実と向き合う」みたいなシンプルな回答に帰結してしまい「それだけ!?」みたいな食い足りない感も残ります。

ただ、監督のこれまでの作品を振り返ってみると、話の筋だけで言えば、トトロだったら「迷子になったメイを見つける」、もののけ姫なら「人が独占しようとした力を自然に還す」、千と千尋では「迷い込んだ湯屋から脱出する」みたいな単純なものが多く、むしろそうしたシンプルな物語の中で展開されるキャラクターの感情や成長をアニメーションとしてどう表現するかに力が注がれていたように思います。

▼ジブリ映画の強みとは?

実際、ウチの娘が「千と千尋~」を初めて観たとき、千尋がパイプを伝って窯ジイの所に向かうシーンで、パイプが外れて落ちそうになるシーンで「ビクッ!」ってなって、湯婆婆が出てきたところでは怖がって顔を伏せたりしていました。

それだけ、自分事として感情移入して入り込めているから、話が分かっていても何度も見てしまうし、その度にドキドキするというのがジブリ映画の強みなのかなと思います。

その意味では今作は監督が自ら”宿題”と課して今まで避けていた人物像を主役に据えており、商業作品としては感情移入しずらいキャラクターであったことで、より監督の内面に近い、共感が難しいシチュエーションでエピソードが繋がれていることから、(自分事と感じられずに)評価が割れているのかなと感じました。

▼これからの世代へのバトン

僕は宮崎駿監督をクリエイターとして尊敬しているので理解しようと努めていますが、全ては分かりようもないですし、個人的には一般向けには厳しいのではないかと感じたので、逆にこれで100億行ったら監督の伝えたい「君たちはどう生きるか」の思いが受け入れられたことだと思うので、期待したい気持ちもあります。

映画鑑賞後にトイレに行ったときのことですが、「何か難解なもの見せちまったな~」とバツの悪い感じで子供に接していた父親に対して「あの場面のあそこって、こういう意味だったの!?」とテンション高めで興奮気味に話していた子供を見て、日本の未来にも少し希望が持てるなと思いました。

こうやって見ると、自分のような往年のジブリファンやアニメ慣れしている人たちには心配されちゃうような本作の一般性の欠如も、逆にこれからを担う若者には心配無用の新鮮さで楽しめているのかもしれませんね。

▼さいごに

最後に本作の声優について、公表されている俳優さんらも全体的に馴染んでいたと思いますが、特に主人公の声を当てていた山時聡真さんは自分は良く知らない俳優さんでしたが、めちゃハマっていたと思いました。

ナウシカのアスベルやもののけ姫のアシタカを演じた松田洋治さんを彷彿とさせる芯のある凛とした声で、さすが良い人見つけてくるなと感心しました。

本作が本当に監督最後の作品になるかは分かりませんが、まだ作品を作るとしたらまた主演として抜擢されそうなジブリ声でしたので、観客にも頑張って興収100億超えてもらって、監督にももうちょっと頑張ろうかと思ってもらいたいなと思います。


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