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1「チャックまに出会った日」 (03)

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■チャックま その1「チャック界から」

 その世界のことは、いまのところ誰も知りません。地球上のどこを探しても見つかりませんし、そんなことは無理ですが宇宙中を探したとしても見つからなかったはずです。でも確かに存在しているんです。(そんな世界が実は無数にありました。もしかしたらみんながおとなになる頃には、普通に行くことが出来るようになっているかもしれませんね。)

 その世界は「チャック界」と呼ばれていました。チャック界は、今みんなが生きている「この世界」とは少しだけ様子が違っていました。木があり森があり川があり湖がある、そんなところは「この世界」と何ら変わりません。でも木の葉にはチャックがついていて、真ん中から開けることが出来ました。お家の玄関は扉じゃなくてチャックになっていて、そこからみんな出入りしていました。そしてチャック界の住人、チャック族にもチャックがついていました。

 住人と書きましたが、チャック族たちは人間の姿はしていませんでした。みんな動物の姿をしていたんです。しかも、なぜか「この世界」の動物にそっくりでした。犬や猫、牛や馬、熊やパンダ、そんな姿です。でもみんな二本足で立ち、言葉をしゃべり、手を使って様々なことができました。姿は「この世界」の動物たちそっくりでも、生活している姿はこの本を読んでいるみんなと何ら変わりません。だから住人と呼んでも、おかしな感じはしませんでした。

 そんなチャック族たちは、毎日何をやっていると思いますか?だいたいチャック族の一番の仕事は『ゴミ拾い』と決まっていました。拾ったゴミを、自分のお腹のチャックの中にしまうんです。チャック族のおとなは自分たちのペースに合わせてゴミ拾いをします。だからチャック界はチリ一つないきれいな世界でした。しかし逆にいえば、それでは仕事になりません。もうずいぶん長いことチャック族たちは、チャック界以外の世界にも出掛けていってゴミを拾うようになっていました。

「じゃあ行ってきまーす…」
家の玄関のチャックから今まさに焦って飛び出したのは、チャック界の住人の一人〝チャックま〟です。名前の通り「この世界」の熊にそっくりな姿をしていました。正式な名前は「チャックま246世」と言うのですが、面倒くさいので友だちはみんなチャックま としか呼びませんでした。チャックま はおとなでしたがまだ若くて、お父さんお母さんと一緒に住んでいます。そろそろ独立しなければならないのですが…引っ込み思案でちょっと臆病なチャックま は、思い切ることが出来ずに実家ぐらしが続いていました。

「ごめん、待った?…」
「遅いんだニャー!」
「大丈夫、大丈夫。オレもファスニャンもいま来たところだよ」
待ち合わせ場所で合流したのは友だちのジッパンダファスニャン。ジッパンダは「この世界」のパンダにそっくりの姿で、チャックま とだいたい同い年。性格はチャックま と正反対で、自信に満ちていて何でも上手くやることが出来ました。ファスニャンは少し年下で、猫にそっくり。喜怒哀楽が激しいファスニャンは、身体は他の二人に比べて小さいのに大食らい。好き嫌いなく何でも食べる食いしん坊です。三人はだいたいいつも一緒に過ごしていました。

 三人はおとななので、遊びもしますが仕事もします。チャック族のご多分に漏れず、三人の仕事はゴミ拾い。チャック界で見つかるゴミはほんの僅かなので、若くて元気な三人はいつも違う世界へと向かい、ゴミを拾っていました。

 今日もある世界にゴミを拾いに来た三人。三人で拾っていると、その周りはあっという間にキレイになってしまいました。

「そろそろこの辺りはいいんじゃないかな。また違うところに行くか」
目についた最後のゴミを拾うと、ジッパンダが言いました。
「ゴミが少ないとあっという間に終わっちゃうねぇ。拾うゴミがたくさんある世界に行こうか…」
チャックま が言うと、ファスニャンも
「それいいニャン!もう世界から世界に渡り歩くのも面倒くさいんだニャー」と言いました。
 三人は、次に行く世界のことを念じ始めました。

04につづく

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