アンチとの向き合い方

ポール・グレアム（Paul Graham）が執筆したエッセー「Haters」の日本語訳になります。

2020年1月

（このエッセーは会社が成長するにつれて注目されることにしばしば驚くスタートアップ創業者たちに本来向けたものであったが、これは有名になる誰にでも同様に当てはまる。）

あなたは十分に有名になると、あなたのことが好き過ぎるファンを得るでしょう。こういった人たちはときどき「ファンボーイ（＝熱烈なファン）」と呼ばれていて、私はこの言葉が嫌いだが、ここでは使わなければならなくだろう。これはあなたの仕事がただ好きな人とは異なる現象なので、私たちは彼らを表す何かの言葉が必要である。

ファンボーイは過度で批判力がない。あなたを好きになることは彼らのアイデンティティーの一部となり、彼らは現実よりもずっと優れているあなたのイメージを自分の頭の中に作る。あなたがするすべてのことは、あなたがそれをするから、良いのである。あなたが何か悪いことをしても、彼らはそれを良いものとして見る方法を見つける。そして、あなたに対する彼らの愛はたいてい穏やかで私的なものではない。彼らはすべての人にあなたがどれほど素晴らしいのか知ってほしいのだ。

まあ、あなたはこのような過度なファンなしにやることができると考えているかもしれないが、世界にはさまざまな人たちがいて、これが有名であることの最悪な結果であれば、そんなに悪くないことを私は知っている。

残念ながら、これは有名であることの最悪な結果ではない。ファンボーイと同じように、あなたはアンチを得るだろう。

アンチは過度で批判力がない。あなたを嫌いになることは彼らのアイデンティティーの一部となり、彼らは現実よりもずっと悪いあなたのイメージを自分の頭の中に作る。あなたがするすべてのことは、あなたがそれをするから、悪いのである。あなたが何か良いことをしても、彼らはそれを悪いものとして見る方法を見つける。そして、あなたに対する彼らの嫌悪はたいてい穏やかで私的なものではない。彼らはすべての人にあなたがどれほどひどいのか知ってほしいのだ。

もしあなたが文章をチェックすることを考えていたら、私が手間を省いてあげよう。第二段落と第五段落は、「良い」が「悪い」などに取り替えられる以外は同じである。

私はアンチについて思案することに何年も費やした。彼らは何者で、どこから来るのだろうか？　それからある日、それが分かってきた。アンチはサインが入れ替わったただのファンボーイである。

アンチで留意すべきなのは、私は単に嫌なやつだと意味していないことである。私はあなたに関して悪いことを言って立ち去る人たちについて話していない。私はこれがある種の過度なものとなり、長期間にわたってそれを繰り返し行う人たちのはるかに小さなグループについて話している。

ファンのように、アンチは有名であることの自動的な結果であるように思える。誰でも十分に有名な人はアンチを得るだろう。そして、ファンのように、アンチは嫌いな人が有名になることで活気づけられる。彼らはある女性ポップシンガーの歌を聞く。彼らはそれがあまり好きではない。歌手が無名であれば、彼らはそのことについてただ忘れるだろう。その代わり、彼らは彼女の名前を聞き続け、これが一部の人たちを発狂させているように思える。みんながいつも彼女の話をし続けるが、彼女は少しも良くない！　彼女は詐欺師である！　という感じだ。

この「詐欺師（fraud）」という単語は重要な単語である。これは嫌悪の対象を詐欺師と見なすアンチのスペクトルな署名だ。アンチは彼らが有名であることを否定することはできない。実際には、彼らが有名であることはどちらかといえばアンチの心の中で誇張されている。歌手の名前に関するあらゆる言及がアンチを怒らすので、アンチはそのすべての言及に気づく。アンチは自分の心の中で、歌手が有名であることと彼女の才能の欠如の両方を誇張する。そして、これら2つの考えを調和させる唯一の方法は彼女がみんなをだましていると結論づけることである。

どんな人たちがアンチになるのか？　誰もがアンチになることはできるのだろうか？　私はこのことについては分からないが、あるパターンに気づいた。アンチは非常に特定の意味でたいてい敗者である。彼らはときどき有能ではあるが、今までに多くのことを達成したことがない。確かに、意義深い名声を成し遂げ十分に成功した人はその理由で他の有名な人を詐欺師と見なす可能性は低いだろう。なぜなら有名な人は有名なことがどれほど無作為であるか知っているからだ。

しかし、アンチはいつも完全な敗者ではない。彼らはいつも母親の家の地下室に住んでいるよく知られているやつではない。多くはそうであるが、一部はある程度の才能を持っている。実のところ、私は欲求不満な才能の感覚が一部の人たちをアンチになるよう駆り立てているのではないかと疑っている。彼らは「誰それが有名なのは不公平だ」と言っているのではなく、「私ではなく、誰それが有名なのは不公平だ」と言っているのだ。

アンチが何か素晴らしいことを成し遂げたら、彼らは治るのだろうか？　私の推測は、彼らは決してそうしないので、それは非現実的な主張であるというものだ。私は長い間十分に観察することができたので、パターンが双方向に働くことをかなり確信している。素晴らしい仕事をする人たちは決してアンチにならず、アンチは決して素晴らしい仕事をしないのだ。私は「ファンボーイ」という単語が嫌いだが、これはアンチとファンボーイの両方について何か重要なものを呼び起こしてくれる。それは、ファンボーイは称賛において無思慮に予測可能なため結果的にファンボーイは減少すること、そしてファンボーイは二流であることをほのめかしている。

アンチはさらにいっそう減少しているように思える。私はファンボーイであることを想像することができる。自分がとても感心する仕事ぶりで、純粋な感謝の気持ちからその仕事をする彼らを前にして自分をへりくだすことができる人たちのことを私は考えられる。P・G・ウッドハウスがまだ生きていたら、私は自分がウッドハウスのファンボーイであることを想像することができる。しかし、私はアンチであることを想像することはできない。

アンチはただサイン・ビットが入れ替わったファンボーイだと知ると、彼らに対応するのがより簡単になる。別のアンチの理論を必要としないのだ。私たちは過度なファンに対応する既存のテクニックを単に使うことができる。

最も重要な既存のテクニックはシンプルに彼らについてあまり考えないことである。もしあなたがアンチを得るほど十分に有名になるほとんどの人たちのようであるのなら、あなたの最初の反応は神秘化の1つであるだろう。なぜこいつは私に対する嫌悪を持っているように見えるのか？　彼の過度なエネルギーはどこからきて、彼を恐ろしいほど意地悪くさせるものは何か？　私は彼を触発する何かをしたのか？　それは私が正常な状態に戻すことができるものなのか？

ここでの間違いはアンチを議論する人と考えることである。誰かと議論するとき、なぜ彼らが取り乱しているのか理解し、可能であれば事態を改善しようとするのは普通良い考えである。議論は気をそらさせる。しかし、アンチを議論する人と考えるのは間違ったたとえである。あなたが以前にアンチに出会ったことがないのなら、これは理解できる間違いである。だが、アンチに対応してアンチが何なのかにあなたが気づいたとき、彼らについて考えることさえ時間の無駄であることは明らかだ。過度なファンがいたら、あなたは彼らが過度にあなたを愛するようにさせるものは何か疑問に思うことに時間を費やすだろうか？　いいや、「一部の人たちは少しおかしい」と思うだけで、それで終わりだ。

アンチはファンボーイと等しいため、これは彼らに対応する方法でもある。彼らを触発する何かはあったかもしれない。しかし、それは普通の人を触発するようなものではないので、そのことについて考える時間を費やす理由はない。これはあなたではなく、彼らの問題である。

注釈

［１］もちろん本物の詐欺師である人たちはいる。XがアンチでYは詐欺師であるから、どのようにしてXがYを詐欺師と呼ぶのを区別するのだろうか？　中立的な意見を見てください。実際の詐欺師は通常かなり目立つ。思慮深い人たちはめったに彼らにだまされない。だから、Yを好む思慮深い人たちがいたら、あなたは普通Yは詐欺師ではないと見なすことができる。

［２］10代の若者は例外で、彼らは本当に自分自身ではないような極端な方法でときどき過度に行動する。私は10代の子どもがアンチとなり、その後アンチから脱するのを想像することができる。しかし、25歳以上ではない。

［３］私は性格の目利きである妻ジェシカよりも悪事に関するかなり最悪な記憶があるが、それが良いものであってほしいとは望まない。ほとんどの議論はたとえあなたが正しくても時間の無駄である。そして、自分がなぜ悪口に腹を立てていたのか覚えていなければ、誰かの悪口を忘れ去ることは簡単だ。

［４］有能なアンチは単にあなたを個人的に攻撃するだけでなく、あなたの後を追って群がろうとするだろう。場合によっては、彼らがあなたが拒絶するように仕向けて作った偽の主張をあなたは拒絶したいかもしれない。しかし、最終的にはそれはおそらく重要ではないので、失敗する。

このエッセーの下書きを読んでくれた Austen Allred、トレバー・ブラックウェル、クリスティン・フォード、ジェシカ・リビングストン、ロバート・モリス、ピーター・ティールに感謝する。

ポールグレアム（Paul Graham）の日本語訳エッセー｜Jack｜note